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空力マシン「ADF-1」

「ダウンフォースだ!」
前回の記事からかなり時間が経ちましたが、久々に空力記事を書けるだけのネタが溜まりました。

前回の記事では、空気抵抗の少ない形状としつつダウンフォースをアップさせることに一応成功したものの、空中姿勢によってはダウンフォースが落ちるということで行き詰まっていました。
しかし、何度か試作とテストを繰り返して、なんとか実戦投入可能なレベルの空力セッティングを作り出すことができました。今回は、そのセッティングを紹介します。
(前回までの記事では扇風機で風洞実験(笑)をしていましたが、車体の前端と後端で流速が1m/s以上違うこともザラということに気づいたので、今回は実走行の結果で有効性を判断しました。感覚的になる部分が出てくるけど許してね。)


研究過程① まさかの表彰台

ツイッターを見ていたら、ノーマスダンで走っている人がいました。試しに自分もやってみると、意外と問題なく走れ、ノーマスダン化により20グラムくらい軽量化できました。
軽ければダウンフォースの効果が大きくなる。提灯やキャッチャーダンパーがなければ空力パーツの形状の自由度が上がるから、より適した形状を追究できる。
これは空力セッティングいけるんじゃないか?と思い、物は試しとこれまでの研究結果をもとに作ってみたのがこちら。

初期試作型

空気抵抗を減らしてもダウンフォースが足りなければ意味がないだろうと考え、ひとまず空気抵抗度外視で、前後に背の高いウイングをつけてみました。
これをテストを兼ねてレースに投入してみたところ、安定して好タイムで完走でき、まさかの入賞という結果を出してしまいました。

まさかの入賞

こりゃあ空力セッティングに可能性が見えたぞと思い、本格的に研究を再始動しました。

研究過程② 空気抵抗の影響

空気抵抗の大きさに目をつぶってでもとにかくダウンフォースを稼ぐ方向で上記の試作機を作ったのですが、その後の実験で空気抵抗による速度低下が予想よりもはるかに顕著であることが確認されました。
細部は次のとおりです。

とあるコースで、空力パーツなし、空力パーツと同じ重さのオモリを取り付けて走らせると、タイムは20.57秒でした。

空力パーツなし。20.57秒

そして、空力パーツを取り付けると、なんとタイムは21.45秒に落ちました。

空気抵抗大。21.45秒

以前の記事で空気抵抗による減速について言及したことがありましたが、20秒くらいのコースで1秒近くの差がつくほどとは思っていなかったので、完全に予想外でした。走行の様子を目で見た印象としても、明らかに最高速が落ちています。もちろんジャンプの飛距離も抑えられていて、安定してはいるのですが、そもそも速度が落ちすぎです。ブレーキを弱めてもタイムがそんなに伸びませんでした。このときは、フロントにもリヤにも高さのあるエアダム型ウイングを取り付けており、空気抵抗が大きいのが原因だったと考えられます。
そこで、前後ウイングの高さを低いものに交換し、空気抵抗の少ない形態にしたところ、タイムは20.35秒に向上しました。

空気抵抗小。20.35秒

なお、このときも空力なしの状態よりブレーキを弱めていますので、スロープでの減速を低減しつつ、ダウンフォースによって飛距離を縮めたことで、タイムが向上したと考えられます。
結果的に、空気抵抗の少ない空力パーツをつけた形態が最も良いタイムでした。安定性は空気抵抗の大きい形態が最もよかったのですが、ダウンフォースだけの恩恵ではなく、速度低下により安定性が上がった一面が大きかったと思われます。空気抵抗の少ない形態でも空力パーツなしに比べれば安定性は上がっていて、その上タイムも向上しています。
つまり、空気抵抗を抑えつつダウンフォースを発揮できる空力パーツが有用であるということがわかりました。
ここで方針を転換し、空気抵抗の増大を抑えつつ、ダウンフォースを大きくできる形態を改めて模索することになりました。

研究過程③ 空気抵抗の低減

空気抵抗の低減とダウンフォースの両立を図って試作した形態がこちらです。

低抵抗型

これまでのものと比べて、前後のウイングの高さを低く抑えたものです。
これが意外と優秀で、なんとレースで優勝することができました!

まさかの優勝

走行時の様子は、HD BASEさんのツイッターで見ることができます。よろしければご覧ください。

このときの走りは、最高速の伸びはやや物足りない感じでタイムでは負けていましたが、安定性と速度域のバランスが良かったのが勝利につながったという印象でした。
このときのレイアウトは、スロープ後ストレート3枚着地でした。
別の走行会でストレート4枚着地のレイアウトで走らせたところ、空中姿勢が頭上がりになりがちという問題はありましたが、ダウンフォースの効果で弱いブレーキで走れたことで、自分がストップウォッチで計測した限りでは参加者の中で最速のタイムで走ることができました。空力は速度の2乗に比例するため、速度増加によりダウンフォースの効果が大きく出たものと思われます。
しかし、空中で頭上がりの姿勢になってしまうことが多く、コーナーインが難しくなるばかりか、空中でダウンフォースを稼ぎにくくなってしまうという問題がありました。このため安定性を欠き、このときのレースでは良い結果が出ませんでした。
これを改善できれば良い走りができそうです。

空力セッティング、完成!

そして、今回、一応の完成形となったのがこちらです。

誕生!空力マシン「ADF-1」
(Aero Down Force 1)

フロントカウルとメインボディはTRFワークスJr.のポリカボディですが、その他のウイングやアンダーパネルなどは全てベーシックボックス用のクリヤーカバー(AO-1047)を切り出して使っています。
ヒレがいっぱいになりましたが、これには理由があります。
以下、このセッティングの設計思想について各部に分けて解説します。

・フェンス

このセッティングの最も大きな特徴は、車体のいたるところにフェンスが立っていることです。

フェンスがたくさんある。ベーシックボックス用のクリヤーカバーで作っています。
両面テープで取り付けています。

これは、空気抵抗の増大を抑えつつダウンフォースをかせぐために考案したものです。
ダウンフォースをかせごうとしているタイミングは、路面を走行しているときではなく、スロープでジャンプして空中にいるときです。つまり、本物の自動車と違って姿勢の制約がないので、車体を頭下がりの姿勢にしてダウンフォースを増やすことが狙えます。このとき、車体上面に当たった空気は圧縮されて圧力が上がり、逆に車体下面の空気は引き延ばされて圧力が下がります。この圧力差によってダウンフォースが生じます。
しかし、空気は圧力の高い車体上面から圧力の低い車体下面に回り込もうとします。すると、車体上面と下面の圧力差が下がって、ダウンフォースが減ります。
そこで、フェンスによって車体上面の空気が下面に回り込むのを抑え込もうというわけです。
これは、実際のレーシングカーのウイングのほか、垂直離着陸機ハリアーの装備を参考に考案したものです。

ハリアーの胴体下のフェンス
LIDSというらしい。

ハリアーの胴体下には、前後に長いフェンスが左右に1枚ずつ取り付けられています。これは、垂直離着陸時に真下に向かって噴き出されたエンジン排気が地面に当たって跳ね返ったのを胴体下で抱え込むことにより、揚力を増すための装備です。
揚力を逆向きにすればダウンフォースですから、ハリアーとは逆に車体上面にフェンスを取り付ければ、ダウンフォースアップに役立つはず、という狙いです。
そして、このフェンスは前方投影面積が小さいので、走行時の空気抵抗増大はほぼありません。

・フロントウイング

大型フロントウイング

車体前部は、大型のフロントウイングとなっています。
フロントウイングは、ダウンフォースをかせぐのみならず、空中で頭下がりの姿勢を作るという役割を担っています。
スライドダンパーでローラーが左右に動いてもギリギリ当たらないところまで幅を広げ、全幅にわたってガーニーフラップを搭載しています。4枚のフェンスは、車体上面のものと同じくダウンフォースアップを狙っています。
フロントカウルを後上方に延長したような形となっており、広い面積を確保しています。

サイドビュー

リヤウイングのダウンフォースによる頭上がりを押さえ込んで頭下がりの姿勢を作るには、これだけの大きさが必要でした。
幅と高さがある形状なので、フロントウイング後方の気流が乱れてリヤウイングの効果が落ちるかも知れないと懸念しましたが、リヤウイングの角度のわずかな変化でも空中姿勢が変わったので、リヤウイングへの悪影響は少ないようです。
高さがあるので空気抵抗は少し大きいでしょうが、エアダム型ウイングよりはマシと思われます。
構造は、左、中央、右と3分割されたものとなっており、これをフロントカウル上に両面テープで貼り付けています。

中央のウイングは、両端を上に折り曲げて2枚のフェンスを形作っています。左右の部分は、片方の端を上に折り曲げてフェンスとしています。

フロントカウルの装着は、ATバンパーの上に載せたスライドダンパーのビスを伸ばしたところにゴム管で固定しています。ゴム管を斜めに切って、フロントカウルの角度を決めています。

・リヤウイング

リヤウイング

リヤウイングは、空気抵抗を抑えるとともに、空中で頭上げの傾向が出ないよう、高さの低い翼断面形状とし、4枚のフェンスによりダウンフォースアップを狙っています。
構造は、ウイング本体と両端のフェンスが一体成形になっていて、これに内側フェンス2枚を両面テープで取り付けています。

リヤウイングの装着は、アンカーにビスを立てて、そこにゴム管で固定しています。

・アンダーパネル

アンダーパネルは、車体下面の空気を滑らかに後方へ流すのを狙って設計しています。車体前端から後端までほぼ段差のない平面としています。特に、タイヤの前後にある隙間を小さくするように配慮していて、これは、タイヤ面の回転により後方にひきずられる空気が、そのまま滑らかに後方へ流れるようにという狙いがあります。ただし、あまりにも隙間を小さくすると、タイヤの回転にパネルが巻き込まれてしまうので、適度に離す必要があります。
構造は、フロント、センター、リヤの3分割となっています。それぞれ、フロントユニット、センターシャーシ、リヤユニットに別々に取り付けられているので、フレキの可動を邪魔しません。
また、3分割としているのは破損防止のためでもあります。

赤いラインがパネルの外形
青いラインは補強のための部分
赤い塗りつぶしは切り欠いた部分

もしアンダーパネルを一体成形にすると、前後パネルとセンターパネルのつながった部分は、タイヤを避けるために四角く切り欠かれたような形状になります。この切り欠き部分のカドは、負荷が集中するのでクラックが非常に入りやすく、破損の原因になります。しかし分割しておけば、左右のサイドウイングがまっすぐ直線でつながった形状になり負荷が集中することがないので、クラックが入りにくくなります。青いラインで示した部分を2枚重ねにして補強しておけば、破損はほぼありません。
サイドウイングは車体が左右に傾いて着地し路面に強く当たったときや、フェンス乗り上げ時に大きな負荷がかかりますから、ここの破損防止対策は非常に重要です。

フロントアンダーパネル

フロントとリヤのアンダーパネルは、センターのパネルとの間に隙間が空いていますが、これはフレキのバネ軸をとめるためのビスにアクセスできるようにしたためです。走行時は、タミヤテープでふさぎます。
フロントアンダーパネルのタイヤ前方側に張り出した部分は、フェンス乗り上げや着地のときに非常に破損しやすい部分です。ここをベーシックボックス用のクリヤーカバーで作るとすぐに割れてしまうので、スタイリングメッシュにタミヤテープを貼ったものを使っています。柔らかいので割れることがなく、そこそこ形状を保ってくれるので、部材を支持しない箇所には有効な素材です。

リヤアンダーパネル

リヤアンダーパネルは、後部が少しだけ上に向かって跳ね上げてあります。後端の地上高は約6ミリで、実車のディフューザーに比べれば角度は控えめですが、あまり大きく跳ね上げた形状にすると頭上がり姿勢の傾向が出てしまうのが心配なので、このくらいが適切と判断しました。
アンダーパネルは、全て両面テープで取り付けています。フロントとリヤのアンダーパネルは、高さ調整のためブレーキスポンジも使っています。

・サイドウイング

サイドウイングは、アンダーパネルを横に伸ばしたものです。
右側ウイングから左側ウイングまでの左右幅は100ミリとしており、スライドダンパーが稼働してもコーナーの円弧のおかげでフェンスにギリギリ当たらないようになっています。
面積を確保するには長方形にするのが1番いいのですが、そうすると着地時に前端がフェンスや路面に当たった衝撃で破損しやすくなるので、前端を斜めに切り落としています。
翼端にはフェンスを取り付けました。このフェンスは、一体成形として翼端を折り曲げたものではなく、あえて分割式としており、フェンスのパーツを両面テープで取り付けています。これも破損防止のためで、一体成形だと折り曲げた部分がコースに乗り上げたときに破損しやすいのです。フェンスを分割することで負荷が集中しなくなり、破損しにくくなります。

気流のイメージ(想像図)

あくまで想像図なんですが、だいたいこんな感じかなぁ、と。
進行方向に対してやや頭下がりの姿勢でジャンプさせることを狙います。
フロントウイングが気流を大きく上に跳ね上げるので、ここで比較的大きなダウンフォースが得られます。これで頭下げの空中姿勢を作ります。
車体上面とリヤウイングに正面から気流があたり、フェンスによって空気を抱え込みます。これとフロントウイングが相まって、車体上面の圧力を上げます。
車体下面は、アンダーパネルで平滑になっており、空気を滑らかに後方へ流します。タイヤの前後はアンダーパネルが配置されており、タイヤ回転(青矢印)が気流を後方に向かって流すのを手伝います。これで車体下面は流速が増して圧力が下がります。
車体上面と下面に圧力差が生じることで、ダウンフォースが生まれます。

姿勢制御については、ある程度の復元力を持たせることを狙っています。
頭下げの角度が浅いとリヤウイングがフロントウイングに隠れるので、リヤのダウンフォースが減ります。これでダウンフォースの前後のバランスが変わり、頭が下がろうとします。

頭下げが浅いとき
リヤウイングが隠れる。

逆に、頭下げの角度が深いと、リヤウイングに空気が当たるようになるので、リヤのダウンフォースが増して、頭が下がりすぎるのを防ぎます。

頭下げが深いとき
リヤウイングに風が当たる。

実走の印象

走らせてみたところ、空中姿勢が非常に良くなり、ジャンプで頭上がりの姿勢になることはほぼなくなりました。
ブレーキセッティングが、フロントは左右幅25ミリ、前後長15ミリの青ブレーキで、前方約3ミリをタミヤテープで隠したもの、リヤブレーキは装着しない状態(カーボンプレートは接地します)でテスト走行をしました。
スロープ上りの後ストレート3枚着地のあるレイアウトです。しかも、ストレート2枚分延長された20度バンクを下って加速した状態で突入するスロープセクションです。これをフロント青ブレーキのみで安定してクリアすることに成功しました。
平面区間の速度も、おそらくエアロパーツなしに比べればわずかに落ちていると思われますが、特に遅いということはなく、良好な速度を発揮できました。
ダウンフォースの効果でジャンプ飛距離を抑えることで、弱いブレーキで立体セクションを高速で通過し、タイムを上げるというコンセプトは、達成できたと思います。
数時間走行させ何度もコースアウトしましたが、空力パーツは一切破損しませんでした。各所の破損防止策がうまくいったようです。
総じて、かなり効果的な空力パーツになったと思います。

おわりに

ようやく、ある程度レースで戦えそうな空力セッティングを完成させることができました。
ミニ四駆の空力についてあれこれ考えたり実験したりを繰り返して、研究の成果が一応の形になったと思います。

しかし、運転席の膨らみが不要だとか、改良すべき点をすでにいくつも考えています。しばしの後、改良型をご紹介できるように、今後も研究を継続していきます。

質問や感想など、気軽にコメントしてください。気づいたら必ずお返事を書きます。最後までお読みいただき、ありがとうございました。

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