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おいてけ堀

田中貢太郎
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青空文庫より、
田中貢太郎の「おいてけ堀」
を読みました。

《ふわっとあらすじ》

本所の七不思議の
「おいてけ堀」の話である。

その池には鮒や鯰がたくさんいるので
多くの人が釣りに来るのだが、
さて一日釣って帰ろうとすると
どこからか、「おいてけ、おいてけ」
という声がする。
気の弱い者は釣った魚を戻して帰るが
気の強い者は平気で持って帰ろうとする。

そういう者には、
一つ目小僧やろくろ首、
唐傘のお化けなどが脅かしてくるので
さすがに魚籠も釣り竿も放り出して
みんな逃げて帰ると言われていた。

金太という釣り好きの若者がいた。
おいてけ堀の魚が良く釣れるのを
聞きつけて、彼も釣りに出かけた。

途中、知り合いの老人に会った。
老人から、おいてけ堀に行くのは
お化けが出るからやめた方がいいと
止められた。
金太もその噂は知っていたが、
「唐傘のお化けが出たら
それも釣って金にするぜ」と
老人の助言もよくよく聞かずに
愉快そうに池へ向かった。

評判通り、よく魚が釣れるので
金太は時間を忘れて
気が付くともう月が出ていた。

3~4㎏も釣れただろうか。
さて金太は魚籠と釣り竿を持って
帰ろうとすると、どこからか
「おいてけ、おいてけ」の声が
聞こえてきた。
何度も聞こえたが、
金太は強気でお構いなしに池を離れた。

ひょいと目の前に人が現れた。
金太はそれがお化けでなくて
ほっと胸をなでおろした。

しかし
「わたしだよ金太さん」と
声をかけてきたその顔は青白く、
目も鼻も口もないのっぺらぼうだった。

金太は驚いたがまだ余裕があった。
魚籠と釣り竿を
しっかり握ったまま走った。

金太は一軒の茶屋があるのを見つけ
安堵して店に駆け込んだ。

出てきた店主は金太の姿を見て
「釣りのお帰りですか」と聞いた。

金太は、今出くわしたのっぺらぼうの
ことをさっそく店主にうったえた。

それを聞くと店主は
「のっぺらぼうとはこんなので?」
と言って手で顔をつるりと撫でた。
するとその顔は目も鼻も口もない
のっぺらぼうになっていた。

金太は悲鳴を上げて
魚籠も釣り竿も置いて逃げていった。


《語句解説》

おいてけ堀:墨田区両国から江東区亀戸あたりに実在した。
本所:現在の東京都墨田区。
お竹蔵:両国あたり。
被服廠(ひふくしょう):大日本帝国陸軍の組織のひとつ。
           軍服を製造した。
           本所区(東京都慰霊堂周辺)の
           被服廠跡地は関東大震災による
           火災旋風発生の場所として知られる。
魚籃(びく):魚籠とも書く。釣った魚を保管する容器。
壮佼(わかいしゅ):若くて美しい。
怪物(えてもの):化け物。
神田明神:東京都千代田区外神田二丁目にある神社。
3柱を祭神として祀る。
一ノ宮 - 大己貴命
(オオナムチノミコト だいこく様)、縁結びの神様。
二ノ宮 - 少彦名命
(スクナヒコナノミコト えびす様)、商売繁昌の神様。
三ノ宮 - 平将門命
(タイラノマサカドノミコト まさかど様)、除災厄除の神様。

月魄(つきしろ):げっぱく。月。
一貫:3.75㎏。


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音声配信アプリstand.fmにて、
「しんいち情報局(仮)」の
「朗読しんいち」を
担当させていただいています。

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