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猫料理

村松梢風
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青空文庫より、
村松梢風の「猫料理」
を読みました。

《ふわっとあらすじ》

私の家には猫が十匹いる。
今から7年ほど前に、
どこかで飼われていた母猫が
元の家には戻れない境遇らしく、
ふらりと私の家へきてお産をした。

そのまま彼女は居すわってしまった。
これ以上生まれては困るので
町の獣医さんに去勢してもらったが、
運悪く手術が失敗し、彼女は死んだ。

残された子猫が八匹、
よそから舞い込んできた猫が二匹。
現在、合計十匹である。

姉猫一匹を除いた下の猫たちを
腕のいい獣医さんに去勢してもらった。

うちの猫たちの食事は
初めから魚だけで育てた。
毎日魚を六、七種は出す。
それに卵の黄身、牛乳は欠かさない。
時々は肉類も与える。
小アジを天日で干して
金網でこんがり焼いたのは
人間が食べてもご馳走だ。

猫は習慣性があるため
いつもと違うと食べなくなる。
普段は鎌倉で上がったばかりの
小アジをやるのだが、
今日は東京湾のものをやろう
とすると決して食べない。
刺身も少しでも鮮度が落ちると
匂いだけかいで、
向こうへいってしまう。

猫用のトイレの砂箱は至る所にあり、
毎日砂を取り換えるため月に一度、
トラックで海浜の清潔な砂を
運んできては交換する。

横浜から有名な獣医さんが
十日目ごとに健康診断にくる。
至れり尽くせりである。

うちの猫たちは
みな美男美女揃いで、
しかもよく肥えており
その気品に誰もが驚きを隠せない。

私自身も魚の味にうるさくなり、
東京の料理屋のものは食べられない。

日本人はよくよくの猫族である。

うちの猫の味覚には誰も及ばない。


《語句解説》

境涯:この世に生きていく上で
   おかれている立場。身の上。
金沢猫:鎌倉時代に、金沢文庫では
    多量の典籍をネズミから
    守るために宋からよい猫を輸入し、
    これらを金沢猫と呼んだ。
キジ猫:キジトラ柄の猫。
    最も野生に近い毛柄であるため、
    学術的にも「野生型」と
    呼ばれています。
    全身茶色ベースで、黒のしま模様が
    はっきりと全身に入ります。
    雉(キジ)の雌 の羽の色に
    似ていることから付いた名前です。
グラマー:女性のからだつきが、
     豊満で魅力的なさま。
京マチ子:大阪市出身。1936年に
     大阪松竹少女歌劇団に入る。
     戦後に上京し、日劇で
     人気スターとなった。
     映画「羅生門」「雨月物語」など
     数多くの作品に出演し
     世界的に活躍した女優。
     2019年、
     心不全のため95歳で亡くなる。
去勢:生殖腺 を除去し、
   機能をなくさせること。

慟哭:声をあげて泣くこと。
同胞:同じ父母から生まれた兄弟姉妹。
統御:全体をまとめ思いどおりに扱うこと。
四寸:約13㎝。一寸が3.03㎝。
上客:主賓。大切な客。上座に就くべき客。
お相伴:メインゲストではないものの、
    一緒におもてなしを受ける人。
チリメン:縮緬。縮(ちぢみ)織りの一種。
     絹を平織りにして作った織物。
ドンス:緞子。絹の模様織物の一種。
    地は繻子 (しゅす) 織 [サテン )]で、
    文様を地と表裏反対の同色の
    繻子組織で表わしたもの。
主婦連合会:昭和23年奥むめおを中心に
      結成された婦人団体の連合体。
      消費者の権利・利益を守る
      活動を中心に、政治・社会問題
      にも女性の立場から取り組んで
      いる。通称、主婦連。

二貫目:約7.5㎏。一貫が3.75㎏。
小坪:神奈川県逗子市の町名。
   人口 8000 人ほどの静かな海辺の町。
よくよくの:程度がきわめてはなはだしい
      さま。極度に。

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音声配信アプリstand.fmにて、
「しんいち情報局(仮)」の
「朗読しんいち」を
担当させていただいています。

しんいち情報局(仮)
広島県福山市新市町の情報をお届け!
https://stand.fm/channels/623f0c287cd2c74328e40149

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