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キングスーパーライブ2024(1日目) 全曲感想

 オタクの妄想とか夢なんていうものは、本来そう簡単に叶わないはずだと思うのだが、ゆかり王国民をやっていると案外易々と叶ってしまって呆然とすることが度々ある。これは私の願望のレベルが低い可能性もそれなりにあるのだが、今回ばかりはそうではないだろう。見たかったものを悉く見ることができた、今回の感想を端的にいうとそれに尽きる。以下、”見たかったものを悉く見ることができた”を無駄に長く引き伸ばした感想文である。

 近所で適当に早めの昼を済ませて、京急で横浜へ。地図を見ながら駅から15分ほど、日本一大きなライブ会場ことK アリーナに着いた。Xで話題になっていたサイン寄せ書きフラッグの列に並んで写真を撮り、会場の周りを適当に回っていると何度か飲み会等々でご一緒させていただいている某氏に会い、誰かに会った時に渡そうかと準備していた藤い屋のもみじ饅頭を渡すとクッキーを頂いた。そんなに人に会わないだろうと思って手持ちのもみじ饅頭は6つだけだったのだが、結構な人数の方々にお会いして、もみじ饅頭は早々に完売してしまった。

これが噂のK ARENA
かわいい

 開演45分前、電子チケットを表示して会場に入る。今回の席はLEVEL3のステージに向かってやや右寄りで、入り口からまっすぐ進んですぐの扉を入ると自分の席があった。とりあえず自分の席の場所を確認して荷物を置き、ロビーに出る(Sd広島でチケットに表示された自分の席が”存在しない”という事態に遭遇したことがあり、以来会場に入るとまず自席の場所を確認するのがなんとなくルーティンになっている)。
 会場を歩き回ってみると、飲食スペースやバーがあって、ライブ会場というよりはスタジアムに近い。キャパの割にトイレが少ない気はするが、スペースの割に導線は整理されているように感じた。

思わず撮ってしまった

 以下、セットリスト順に感想を書いていくが、王国民の視点がゆえ、ゆかりんの部分だけ長くなってしまうことご容赦いただきたい。また、メモ等一切取っておらず、(各種SNS等での他の方々の感想を頼りに思い出しつつ)完全に自分の記憶頼みで書いているため、誤り等もあると思われ正確性は保証できない。また、一切の予習をせずライブに臨んだため、セトリの大半の曲はキンスパで初めて聴いたという状態であることも付け加えておく。

Exterminate 水樹奈々

 会場が暗転し、高らかな歌声が鳴り響くと、ステージ上のセットの一番上に現れたのは水樹奈々さん。いきなり疾走感のある曲で、会場全体が揺れているのではないかと思うような感覚に囚われる。水樹さんの歌唱力と安定感に敢えて触れるのは野暮だろうが、サビの最後の高音の伸びがとても綺麗だった。
 曲が終わり、MCでキングスーパーライブの開会が宣言され、会場の熱気が高まっていく。もちろん1曲でも多く聴きたいが、限られた時間でこういうMCがあると曲以外の面も知れてうれしい。

STARTING NOW! 水樹奈々

 真っ青な海が波打つように客席がペンライトで一色に染まる。続く「STARTING NOW!」はコール&レスポンスが楽しい。客席側からの声も大きくて、アリーナ特有の声が拡散して消えていくような感じもない。力強く、前に進んでいくメッセージの強い曲で、この曲は初めて聴いた(と思う)のだが、今回印象に残った曲の一つだった。

ボン♡キュッ♡ボンは彼のモノ♡ 上坂すみれ

 いかにも清竜人テイストのイントロが流れ始めると、会場は一瞬にして真っ赤に変わる。普段、曲間でペンライトの色を変えるなんていう文化がない界隈にいるが、無事手間取ることなく赤に切り替え、会場全体に同期させるように降り始める。
 これほど癖の強い歌詞を私は知らないが、いや、これは嘘だった。私が知っている上坂さんの曲の歌詞はたいていかなり癖が強いのだが、この曲を何食わぬ顔で可愛らしく歌い上げるのは冷静に見るとシュールな気もしてくる。ライブで歌っている姿は映像で見たくらいで、生で見るのは初めてだったが、たしかに惹き込まれるものがある。

EASY LOVE 上坂すみれ

 今日のセトリは大量の屍ができそうというMCを挟んで次の曲は、前の曲とは違って疾走感が特徴的な「EASY LOVE」。この曲は初めて聴いたが、上坂さんの歌声は歌詞の言葉がかなり聞き取りやすくて、歌詞の言葉遊び的な部分を楽しむことができた。

インフィニット 岡咲美保

 曲が始まると、客席全体が黄色に輝き始める。岡咲さんの歌声からはエネルギーの波動が伝わってくる。岡咲さんは友人オタクからオススメされていたのだが、歌声がこの曲調に映えていて、フレッシュさと安定感のバランスが心地いい。何曲も聴いていたいのだが、今回はこの1曲だけ。他の曲も聞いてみることにしよう。

WILL 米倉千尋

 岡咲さんの余韻に浸る間もなく登場したのは米倉千尋さん。力強い歌声が響いてくる。米倉さんは以前どこかのラジオで「Promise」という曲を聴いたことがあって、その時のバラードを情熱的に歌い上げているのが印象に残っていたのだが、声の真ん中に情熱を感じるのはこの曲も同じだった。

嵐の中で輝いて 米倉千尋

 続く曲はデビューシングルの「嵐の中で輝いて」。言わずと知れた名曲だが、この曲がリリースされたのは私が生まれる2年半前で、なるほど上坂さんのMCの発言はこうして回収されていくわけだ。曲の終盤では会場全員で大合唱。

不安定な神様 Suara

 緑の衣装にステージ上を横移動するトロッコに乗って登場すると、客席は一瞬にして草原のように緑に輝き始める。メロディ、歌詞、歌声、全てが洗練されていてカッコいい。そのカッコよさに完全に呑まれてしまって思わず見入ってしまった。曲が終わると、MCでこのトロッコが「怖かった~」とおどける様子は曲中と対照的だった。

夢想歌 Suara

 ひとたび曲が始まると、スイッチが入ったかのようにクールな世界観が目の前に現れる。この曲は、うまく言語化するのが難しいのだがサビのメロディラインが好みで聴いていて心地いい。

HELP 愛美

 ギターを持ってステージに登場すると、客席は赤橙のペンライトが揺れ始める。熱気とうねりを感じる曲調と相まって、客席のペンライトはマグマの海のように見えてきて、その先の愛美さんがとても映える。負の感情がハワイの火山のマグマのように滔々と流れ出すようなこの歌詞が本人作詞とは恐れ入った。他の作品も聴いてみよう。

メリトクラシー 愛美

 ギターを奏でながら華麗でシックな雰囲気が漂うこの曲を歌い上げる愛美さんは、歌っているその姿自体が一つの芸術なのではないかと思うような雰囲気さえ感じられる。もっと聴いていたいのだが、一瞬にして終わってしまった。

It's My Soul 七海ひろき

 揺れ動くような激しいイントロから激しく燃え上がるような曲が鳴り響く。それはSuaraさん、愛美さんと静かに燃えつつリレーされてきた灯が一気に炎に吹き上がるようで、とても美しく見えた。モニターに映る姿は光り輝いていた。

ヨトギバナシ カノエラナ

 ミステリアスな雰囲気を持つイントロから始まって、爽やかなサビへと一気に駆け抜けていく。私は音楽的な部分には疎いものの、こういう曲をテクニカルというのではないかと思うのだが、軽々と歌いあげていて、一曲しか聞けなかったのが惜しい。

SHAKE!SHAKE!SHAKE! 内田雄馬

 この日、誰が、どの曲が一番印象に残ったかと言われるとかなり難しいのだが、内田雄馬さんのこの曲が有力候補なのは間違いない。もちろん以前から名前は知っているし、ラジオを聴いたこともあるのだが、歌っている姿は初めて見た。ライブ映えする爽やかな曲調に、センターステージでのパフォーマンスから垣間見える明るく楽しいキャラクター、そしてサビのワイパーで会場全体が一体感に包まれた。

MCでは「皆さんが内田雄馬です!」。私は知らない間に内田雄馬になってしまったらしい。

NEW WORLD 内田雄馬

 続く「NEW WORLD」はこの日のセトリでは数少ないノンタイアップの曲にしてデビュー曲。メロディと歌詞と歌声の相乗効果で、聴いていて清々しくて心地いい。歌詞に歌われる通り快晴の空を自由に飛び回っているかのような気分にさせてくれる。他の曲も聴いてみよう。

星のオーケストラ saji

 恥ずかしながらsajiのことは知らなかった。スタンドマイクにギターとベースのバンド編成が舞台上に登場すると、背景のスクリーンは音楽の橋が架かった夜空へ一変。奏でられる真っすぐなロックには、この場がアリーナではなくライブハウスなのではないかと思うくらい惹き込まれた。

PSYCHO:LOGY 蒼井翔太

 蒼井翔太さんは名前を見聞きしたことは何度もあったのだが、今まで触れたことがなかった。破壊的で重厚感のあるオケと綺麗な高音の歌声がとても良い。この曲か、2曲目の記憶かもしれないが、セット上の椅子に寝そべって歌う場面があって、パフォーマンスでにも魅せられた。

BAD END 蒼井翔太

 ファルセットを行き来するようなメロディラインで、蒼井さんの歌声の綺麗な部分をひたすらに浴び続けることができる。どこまでも高い声が出せるのではないかと思ってしまう。そして安定感も抜群だった。

僕らのステキ〜sutekiバージョン〜 國府田マリ子

 なるほど、ここがこの文化の原点なのか。説明すること自体が野暮なのではないかと思うほどのレジェンドだが、曲を聴くのは初めてだった。これを昭和アイドル的というのが正しいかわからないが、可憐な歌声がアリーナに響き渡っていく。

-赤い華- You're gonna change to the flower 椎名へきる

 あっという間に國府田さんの出番が終わってしまって、続いてステージ中央に登場したのは真っ赤な衣装。会場全体も一瞬にして真っ赤になり、吸い込まれて、そして弾かれるようなパワーのある曲が一瞬にして歌われていった。

You&Me 田村ゆかり

 会場は暗転して、一瞬の静寂が会場を包む。次の瞬間、”テトテ メトメ”、ステージ右側のトロッコの上には何度も見慣れたシルエットが浮かび上がる。眼前は一瞬にして満開の花畑のようにピンク一色の綺麗な世界に生まれ変わり、そしてそれは激しく、かつ一定のリズムで揺れ始める。
 完全に油断していた。特に根拠も何もないのだが、ゆかりんは終盤あたりにでも来るのではないかと思っていて、普段使っているゆかりんのペンライトに持ち替える時間はない。とりあえず右手に持っている多色のキングブレードをピンクにして、ラップは……うろ覚えだが大丈夫だろう。この曲が最後に歌われたのは2018年、私がゆかりんのライブを初めて見たのが2019年だから、なんと初めて聴く、そして「Trouble Emotion」以外で初めてラップを叫ぶことになった。
 “Turn it up to the funky beat”、会場全体の音圧が桁違いに上がったのを感じる。これは間違いなく贔屓目で相当なバイアスがかかっているだろうし、周囲に王国民が何人かいたからだろうが、今日一番の声が客席から響き渡る。そして、ステージ上のゆかりんはいつも以上に笑顔で、輝いて見えてくる。客席の大音量のラップと、それを鋭く貫いてくるようにはっきり届いてくるゆかりんの可憐さと優しさのある歌声、この2つは対立しあうことなく一つの輪のようになって心地よく耳に入ってくる。
 You&Meをライブで聴くことなんてないだろうと思いつつも、CDやライブ映像を何度も繰り返し聴いてきていたからか、意外なものでラップはほぼ完璧に唱えることができた、と自分では思っているのだが、間違えていたかもしれない。まあ完璧だったということにしておこう。そして、これが王国民の本気なのか。「Trouble Emotion」は数えてみるとライブで16回聴いているのだが、その16回分の声量を足し合わせても今日の「You&Me」勝てないのではないかと思う音圧で、まるで大きな壁のようにラップの声が迫ってくるような感覚がした。

 1曲で痺れた。もう崩れ落ちてしまいそうだが、ここからMCが始まる。國府田さん、椎名さんが1曲ずつだったから、ゆかりんも1曲かもしれないと思ったのだが、これはもう1曲ありそう。MCではゆかりんからキングレコード三嶋さんへの感謝の言葉が紡ぎ出される。私はCana ariaになってからファンになった身で、むしろCana ariaだからこそゆかりんのファンになったんじゃないかと思っているくらいだから、過去の出来事は歴史としてしか知らないのだが、私の目線から一つだけ言えるのは、三嶋さんがいるからこれほど大きな会場でゆかりんの姿を見ることができたということなのかもしれない。
「それでは聴いてください、Baby’s Breath」
この言葉が正しいかわからないが、これはズルい。「Baby’s Breath」を聴くことができるなんて。私が人生で初めて買ったライブ映像作品はゆかりんの『Tricolore Plaisir』のライブ盤だった。その盤の最後の曲にして、一番心揺さぶられたのが「Baby’s Breath」、収録日のその日から6年以上ライブでは歌われていなくて、これも聴くことができる機会なんてないんだろうなと勝手に思い込んでいたのだが、ここで来たか。

Baby's Breath 田村ゆかり

 あのとき画面越しに心動かされた、あのイントロが始まった。
“ひとりぼっちの” 「俺とー!」 “あの頃の私” 「ゆかり!」
ステージ上、花道を歩くゆかりんと、客席側の揺れ動くピンク色の壁。言うことができるなんて夢にも思っていなかったこのコールを言えただけで感慨深いものがある。そして、ステージ上のゆかりんはこの曲の歌詞の通り、綺麗で大きな花束のようで、この空間にいるすべての人々に確かにそれが届いていたと思う。
 穏やかで、優しくて、そして泉から湧いた水のように清らかなゆかりんの歌声で奏でられるストレートで素直なメッセージ。カスミソウの花言葉を絵に描いたようなこの曲がここで歌われる背景や意味合いは勝手に想像するしかないが、この曲に歌われるメッセージが身体の一番震える部分に深く響いてくるような気がして、心を誰かに手で直接つかまれて揺さぶられているような、そんな感覚に囚われた。
後奏が流れていって、2曲目が終わっていく。これで出番は終わりだろうから、ライブ終盤に似た少し寂しい気持ちにもなるが、また叶わないと思っていた勝手な夢が、妄想が回収されてしまって、呆然としている。コールを叫んだことと、曲が終わってゆかりんの名前を叫んだこと以外はほとんど記憶がない。

恋の天使 舞い降りて やまとなでしこ

 曲が終わって暗転して、ゆかりんのシルエットを目で追うのだが、花道を降りる様子はない。メインステージ側の花道の出口はトロッコでふさがっていて、トロッコが動いてからゆかりんが出ていくのかなと思いながら見ていると、2台のトロッコが左右にゆっくり動いていってもう一人のシルエットが見えてくる。そしてゆかりんはその人の右側に立って、客席側を向く。そのまま照明がついて、どこかではっきり聞き覚えのあるイントロが流れる。
“恋の天使 舞い降りて 世紀末の魔法をかけたよ”
反射的に言葉にならない声が出てしまった。そこにはやまなこがいた。2003年6月29日以来21年ぶりに活動するやまとなでしこの姿をこの目で見ることになった。
 1番の冒頭、はっきりとは気が付かなかったが、堀江さんが何かを間違えたようで、すかさずゆかりんがツッコミを入れる。こういうユニット内の関係性みたいなものが垣間見えるのは新鮮で面白い。
 いつのラジオだったか、どこかのライブMCだったか、ゆかりんがやまとなでしこ時代は右手でマイクを持っていたが、今では左手でマイクを持つのが当たり前だから右手で持つなんで無理だと言っていた記憶があるのだが、今回は堀江さんもゆかりんも左手でマイクを持っている。ゆかりんは振り付けで左手を使う部分ではマイクを右手に持ち替えていたが、確かに右手でマイクを持っているゆかりんは見慣れない気がする。
「ほっちゃーん!」「ゆかりーん!」
当時を知るファンの声だと思うが、コールもかなりの音量で聞こえてきた。最後のライブは2003年、私はまだ小学生にもなっていないころだが、その当時から待ち望んだファンがこれだけいたのかと思うと今日この重みが深く感じられてくる。
やまとなでしこはライブが映像化も音源化もされていないし、音源化されていない楽曲もあると聞いたことがあるから、資料の追いづらさもあって幻や伝説上のものという感覚が強いのだと思う。2024年、やまとなでしこの2人だけの歌声がこのアリーナに響いて、それをこの場で聴くことができたという事実がただ信じられなくて、ペンライトを振りながらそこに立っているはずなのだが、その体の感覚が無くなっていくような気がした。
曲が終わると、2人が並んでお馴染みの狐のハンドサイン。舞台袖へ歩いていく2人に大きな歓声がおくられた。

 場内が明るくなって、ここで休憩になる。周りの人たちとお互い顔を見合わせて、呆然とする。(真後ろにゆかりふりかけTシャツの某さんがいました。開演前にご挨拶の輪に入れてもらって通りもんを頂きました。美味しかったです)
「すごいものが見れましたね」
「やまとなでしこ、ほんとに実在したんですね……」
場内でやまとなでしこのTシャツを着ている猛者を何人も観測したが、いまごろ気を失っているのではなかろうか。
さて、気持ちを一旦落ち着かせて、トイレ探しの旅に出る。ロビーにいるピンク色の王国民はみんな笑顔で、たぶん私もそうだったのだと思う。肝心のお手洗いはどこも長蛇の列で、少ない場所を探したら結局LEVEL7に辿り着いてしまった。手洗いを出ると「まもなく再開します」の声。転倒しないよう気を付けながらLEVEL3まで階段を降りていく。

水の星へ愛をこめて 森口博子

 森口さんが登場すると、ペンライトは一斉に青く灯り始める。この曲は私が生まれる10年以上前の曲だが、一度も聞いたことがない人なんていないだろう。聞いたことのある”あの曲”であり続ける森口さんの安定感を目の当たりにした。

Ubugoe 森口博子

 前の曲とは対照的に落ち着いたミドルテンポで、その温度差と深さに引き込まれる。感想を書いていて気が付いたのだが、この曲の作詞が松井五郎さんだった。普段あれほど松井さん作詞の曲を聴いているが、さすがに一聴しただけでは気が付けない。歌詞として読んでみるとたしかに松井さんらしさが……なんて言い出すのはオタクの悪い癖だからやめておこう。

DREAMS 麻倉あきら

 青い光に赤い髪を輝かせながら始まったのはRO-Mの『DREAMS』。休憩明けからのこの3曲は在りし日の文化放送「キミまち」を思い起こすような畳み掛け方で、すっかりガンダムに吞まれてしまっている。聴いたことのある音源そのままのように、カッコよく歌い上げて去っていった。

Shining Tears 保志総一朗

 鍵盤とストリングスが織り成す、朝日と朝風のようなイントロから、センターステージに登場した保志さんが歌い始める。その歌声は心地よい木漏れ日のような優しさがあって、晴れやかな気持ちにさせてくれる。上手く言語化できないのが悔しいが、曲調もメロディもテンポ感もすべてが自分好みで、何度も繰り返し聴きたくなる。

インモラリスト 堀江由衣

 堀江さんの曲(というか『文学少女の歌集』)は、沖縄に住んでいた時によく運転しながら聴いていて、一度はライブで生歌を聴いてみたいと思っていたのだが、ようやくその時がやってきた。最初の曲は、どことなく怖さが漂ってくる「インモラリスト」。個人的には堀江さんは明るい曲のイメージが強いのだが、一筋の冷たいものを感じるようなこの曲の温度感も抜群で、曲の世界観に囚われてしまった。

 開口一番、「やまとなでしこは再結成じゃないですよ、解散してませんから」と、おそらく今日の全てのMCの中で最も重要と思われる事項が高らかに宣言された。こんなことを言われてしまうと“次のオファー”も期待してしまう。

Silky heart 堀江由衣

 冒頭と後半にある”My silky love”のループが癖になって脳内再生が始まってしまう。そして歌っている堀江さんのキュートな姿と透明感ある歌声に釘付けになってしまう。この曲は四つ打ちのリズム感が軽快で、気持ちよくペンライトを動かしながら聴いていられる。

TRUST IN ETERNITY 水瀬いのり

 水瀬さんはちょうど社会人になりたての頃にYouTube公式チャンネルに上がっていた「アイマイモコ」のライブ映像を見て、惹かれるものがあって、何度も繰り返し見た思い出がある。おかげで今でもその曲を聴くと初心を思い出すし、それがきっかけでライブ盤を1枚だけ持っているが、生で歌っている姿を見るのは今回が初めてだった。真っ黒な衣装を纏い、水色のペンライトの海の先で歌う水瀬さんは曲や歌に対してとても真摯に向き合っているように見えて、ストイックに目の前の作品に挑んでいくプロフェッショナリズムを感じた。

Million Futures 水瀬いのり

 この曲は「TRUST IN ETERNITY」とは少し違って、歌声のボーイッシュ的な要素が強く出ているように感じた。サビ前には”Million Futures”のコールも入り、メロディ自体の強さもあってとてもライブ映えする曲だった。2曲とも、ラジオや有線放送で耳にしたことがあるようなイメージ通りの水瀬さんの曲で、ライブの雰囲気を垣間見ることができて良かった。

輪舞-revolution 奥井雅美

 真っ赤な衣装で登場すると、芯の強さと透明感と安定感の均衡を形にしたような歌声が響き渡る。奥井さんは普段聴いているラジオ番組に何度かゲストで出ているところを聞いたことがあって、その時には落ち着いた人の印象だったのだが、歌っている様子は対照的に情熱にあふれているように見えた。

Birth 奥井雅美

 畳み掛けるようにパッショネートな曲が続いていく。ずっと立ち続けていた疲労感がそろそろピークに達しつつあって、曲のパワーに気圧されそうになるが、こういう時こそこの曲の歌詞が身に染みてくる。

NEW ORDER 宮野真守

 スタイリッシュとはまさにこのことを言うのだろう。ダンサーを従えて颯爽と登場した宮野さんは想像以上に身長が高かったが、クールに曲を歌いこなしていく。曲自体も洋楽のようなカッコよさとお洒落さがあって他とは一線を画している感がある。

BREAK IT! 宮野真守

 サビの“BREAK IT!”のコーレスがとても楽しい。カタカナ英語ではなく流暢な発音でいうのがポイントらしい。こちらも「NEW ORDER」と同じく洗練されたカッコよさがあって、舞台上の宮野さんの輝きが増して、後光がさしているように見えてくる。

残酷な天使のテーゼ 高橋洋子

 イントロが流れた瞬間、会場全体が揺れるようにどよめいた。そして、舞台装置のカゴに乗った高橋さんがゆっくりとステージに降りてくる。この曲の本人歌唱の生歌を聴くことができる機会なんて、そう簡単にないだろう。呆然としているうちに曲が終わってしまった。

魂のルフラン 高橋洋子

 1997年のドリカン年間チャートを制したことで知られるこの曲を歌う高橋さんの歌声には震える魂が乗っているのが感じられてくる。2曲続けて代表作ともいえるエヴァの楽曲、とんでもないものを聴くことができてしまった。

イグジスト angela

 正面のモニターに映し出されたangelaの2人、どこで歌っているのかと見回してみると、アリーナの両サイドのはるか上、むき出しの通路のような場所に2人がいる。ステージ向かって左側がatsukoさん、右側がkatsuさん、狭い通路を駆け回りながらのパフォーマンスは圧巻だった。曲の後半にはむき出しのエレベーターに乗ってステージに降りてくる。katsuさん側のエレベーターの揺れ具合がすごい。

 MCではTWO-MIXを名乗るangela。歌もトークも面白いこのユニットにはどれだけ時間を渡しても足りない気がする。

明日へのbrilliant road angela

 続いて披露されたのはangelaのデビュー曲。サビの部分で揺らめくようにファルセットを行き来する部分が声楽のようにとても綺麗に聴こえて印象的だった。それにしても、某ライオンを背負いながらこの曲を歌うatsukoさんの姿はシュールというほかない。

シドニア angela

 ついにソロパート最後の曲になってしまった。前の2曲とは対照的に低音のボーカルが特徴だが、もはや音域は関係ないのではないかと思わせてくる安定感と歌唱力だった。

このあたりからはライブの興奮というよりは体力的な意味合いで記憶が朧気になってくる。とくに足なんて相当な疲労感だったが、完走ならぬ”完立”できたことだけは書いておく。


Preserved Roses 蒼井翔太×七海ひろき

 キンスパがこれで終わるわけがない。水樹奈々さんとT.M.Revolutionの「Preserved Roses」を歌うのは美しさとカッコよさが際立つ2人組。全く違和感がなかったから気が付かなかったが、七海さんが男声パート、蒼井さんが女声パートを歌う男女入替での歌唱だったらしい。

天使のゆびきり 堀江由衣×上坂すみれ

 右手にペンライト、左手にマイクを持ってセンターステージに現れたのは堀江さんと上坂さん。2人ともリズムに合わせてペンライトを振りながら、会場の雰囲気を全力で楽しんでいるように見えた。元々2人の曲なのではないかと思うほどメロディと2人の声の据わりが良くて、聴いていて心地よい。

Ride on shooting star 愛美×KATSU(angela)×ヨシダタクミ(saji)

 センターステージにはスタンドマイクが3本、そこにはエレキギターを豪快にかき鳴らす3人が立っていた。赤橙の照明とペンライトに染まる会場、それはどこか屋外で真夜中に行われているロックフェスのように見えてきて、一瞬で過ぎ去っていった。

哀 戦士 森口博子×米倉千尋×麻倉あきら

 ステージの両端とセンター、その場所にそびえたつ3人はまさにラスボスで、神々の邂逅を見ているようだった。3人がそれぞれの全力を堂々とたたきつけることで屹立された一つの曲は見事というほかなくて、私は客席でただ立ち尽くすばかりだった。

STAND UP TO THE VICTORY 宮野真守×内田雄馬×保志総一朗

 最強の3人組とガンダムが去り、台風一過、となるわけがないのがこの日のキンスパだった。もはや立っていられないほどの重い足に響いてくる、あまりにもエネルギーに溢れた3人からの”STAND UP”の声。これほど力になる言葉が今あるだろうか。

COSMIC LOVE 水瀬いのり×岡咲美保

 この2人が水樹奈々さんの歌を一緒に歌うことの意味合いは表面的な部分しか知らないのだが、2人がこの曲を大切にしていて、愛を込めて歌っているように見えた。そして何よりも、センターステージで歌う2人が仲良さそうだった。

甲賀忍法帖 奥井雅美×atsuko(angela)×Suara×カノエラナ

 龍笛の音とともに4人が登場する。4人の後ろで煌めくスクリーンと、鋭くこちらへ伸びて貫いてくるような歌声に圧倒される。4人の歌唱力をこれでもかというほど見せつけられた。

Little Wish 〜lyrical step〜 田村ゆかり×水樹奈々

 コラボパートの残りはゆかりんと奈々さんでは?そう思った瞬間に聴こえてきたのは”make a little wish”の歌声。この曲を聴くことが、しかもゆかりんと奈々さんのコラボで歌われるこの曲を聴くことが許される日が来るなんて。私がゆかりんのライブに行くようになったのは5年前のTCツアーからのこと。特にコナミ時代の昔の曲が歌われることなんて何らかの奇跡が起きない限りはあり得ないと思い込むようにして色々な心の均衡を保つことにしていたのだが、今日はその均衡がもろとも崩れ去ってしまった。しかも複数回も。
 この曲は冒頭の素直でストレートな歌詞がとても好きで、曲として聴くと心が震えすぎてしまうような気がするから、普段敢えて聞かないようにしているのだが、つい数時間前にBaby’s Breathとやまとなでしこで直で掴まれた心がまた掴まれたような感覚がした。
 ピンク、青、黄色、波打つ会場と、センターステージで歌うゆかりんと奈々さん。この光景が現実のものとは信じられずにいる一方、2人で歌っているときには噂のゆかり16連はやるのだろうか、やらないのだろうかと悩んでいると、結局タイミングを逃してしまった。
 それにしても、こんなに易々と夢や妄想が叶っていいわけがない。すごいライブに来てしまった。

innocent starter 水樹奈々×田村ゆかり

 続く曲はなのはのオープニング、「innocent starter」。奈々さんとゆかりんのこの形のコラボが昔あったという話を聞いたことがあったが、2024年、この場で再現されるとは全くの想定外、「Little Wish」の興奮も冷めやらぬ中、この曲で完全にやられてしまったようで、曲中でゆかりんが手を差し伸べ、奈々さんと手をつないだ場面だけを除いて記憶が全くない。そしてもう一つ覚えていることと言えば、これは曲中だったのか曲が終わった後だったか定かではないが、奈々さんとゆかりんがセンターステージの中央でハグした場面だった。

 曲が終わって、センターステージへ向かって花道を歩いていく2人を出迎える出演者たち。宮野さんの「これが見たかった」の声に大きく頷く。センターステージに辿り着くと、ゆかりんは飛ぶように堀江さんの隣に向かっていった。

Give a Reason All line up

  最後は出演者全員で林原めぐみさんの「Give a Reason」。モニターを見るでも、歌っている人を見るでもなく、私はひたすらやまとなでしこの2人のほうを眺めていた。ひたすら2人でじゃれあっていて、これが色々な文献で読んだやまとなでしこなのか、その光景が今目の前にあるのかと、その状況を処理することで精一杯だった。

 時刻は21時過ぎ。5時間、50曲。余韻に浸るという域に至ることなんてできず、ただ目の前の出来事の消化を試みることしかできない。20年以上活動がなくて、映像記録を追うことすらできなくて、数少ない文献と2枚のCDを聴き込むことしかできなかったやまとなでしこをこの目で見たという事実だけは本当であってほしいが、全てが嘘と言われても今なら受け入れてしまうかもしれない。

横浜駅手前の通路からKアリーナを眺める。これが「夢のあと」。ナナメったけど。

 規制退場に従って会場を出ると、やまとなでしこのCDが物販コーナーで売られていた。悩んだが2枚とも数年前に中古で買っていたからスルーしたのだが、その数十分後には完売したと聞いた。帰りの動線も噂ほどの混乱はなく、程よく夜風にあたって余韻に浸っていると横浜駅に辿り着いていた。

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