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おしっこ問題を抱える男性において慢性前立腺炎を発症しやすい要因とは!?

今回も慢性前立腺/慢性骨盤痛症候群の新たな知見に関して、noteしたいと思います。
今日は鍼灸とは関係の無い内容ですが、下部尿路症状に対する鍼灸施術において、我々鍼灸師も知っておくべき大切な知見と感じたので紹介したいと思います。

2022年のInternational Journal of Urologyに掲載された、名古屋大学のグループによる報告です。


私の知る限り、おそらく国内では初めての、慢性前立腺炎/慢性骨盤痛症候群を対象としたウロダイナミクス(尿流動態検査)の所見・特徴を示した研究と思います。

また一般的に、20-40歳代の男性に好発することで知られる慢性前立腺炎ですが、下部尿路症状(LUTS)を有する高齢男性における慢性前立腺炎症状の調査という観点からも、国内では例がないかと思います。

それでは見ていきたいと思います。


研究の目的

下部尿路症状(蓄尿症状、排尿症状いずれも含む)を有する男性における慢性前立腺炎 / 慢性骨盤痛症候群(CP/CPPS)の合併率を調査し、その臨床的特徴およびウロダイナミクス所見を明らかにすること。


方法

下部尿路症状を有する治療歴のない男性(508例)をレトロスペクティブに検討。
・慢性前立腺炎の有無により2群(①慢性前立腺炎+下部尿路症状の併発群、②下部尿路症状のみ群)に分け、患者特性、ウロダイナミクスで評価した下部尿路症状および下部尿路機能のパラメータを比較。
慢性前立腺炎/慢性骨盤痛症候群の診断基準は、3ヵ月以上の骨盤痛の訴え、NIH-CPSIの疼痛スコア4以上、前立腺マッサージ後に採取した尿検体の培養陰性など。


結果

・下部尿路症状を有する男性386人(平均年齢72.9歳)のうち、123人(31.9%)慢性前立腺炎/慢性骨盤痛症候群であった。意外にめちゃ多い!(図1)

(図1)



・下部尿路症状のパラメータ、NIH-CPSIスコアは、CPPS+LUTS群(慢性前立腺炎+下部尿路症状の併発群)で有意に高値であった。(図2)

(図2)


最大尿流率(Qmax)や膀胱出口部閉塞指数(BOOI)などの排尿機能においては、群間の有意差はなかった。(図3)

・蓄尿機能については、CPPS+LUTS群において、排尿筋過活動(DO)の発現が有意に高く膀胱コンプライアンスは有意に低下していた。(図3)
(慢性前立腺炎になると過活動膀胱の重症度が上がることが、尿流動態検査によって明確に示されていますね。)

(図3)


さらに、重回帰分析により、血清総テストステロン値の低値(<3.5ng/mL)脂質異常症の合併過活動膀胱および排尿筋過活動の存在が、慢性前立腺炎の発症と有意に関連した。(図4)

(図4)

結論

慢性前立腺炎では、蓄尿機能が著明に低下する
LUTSを有する男性では、血清テストステロン値の低下脂質異常症慢性前立腺炎の発症に有意に関連する


わたしの感想

下部尿路症状を訴える高齢男性の3割超には、慢性前立腺炎/慢性骨盤痛症候群が併存しているということから、鍼灸臨床においても、male LUTS患者の疼痛・不快感の有無を確認しておくことは重要と思われます。

本論文の結果から、尿意切迫感をはじめとする過活動膀胱症状、あるいは尿勢低下、残尿量の増加などの排尿症状が出てきた時点で、早期に治療を行うことは、高齢男性の慢性前立腺炎/慢性骨盤痛症候群の発症を予防する可能性があるのでは?と考えられます。下部尿路機能障害と慢性前立腺炎との密接な関連性が示されていると思います。コレステロール、中性脂肪の高値にも気を配る必要があることは言うまでもありません。

テストステロンの作用には、抗炎症作用をはじめ、血管拡張作用骨格筋増強作用糖代謝脂質代謝の改善作用などがあることが明らかになっていることから、おそらくテストステロンが程よく分泌されているほうが、慢性前立腺炎の発症リスクは低下するのだろう、と素人的には感じました。(本論文は高齢男性における調査ですので、単純に若年男性にも当てはまるかは分かりませんが)

確かに、めっちゃマッチョですごいアクティブな慢性前立腺炎の患者さんはあまり見たことがないかも知れません、、笑 さておき、男性も女性同様に、中年以降はテストステロンの分泌が低下に起因する更年期障害(LOH症候群)を発症します。このような場合、テストステロンの補充療法や、筋トレによる骨格筋量の増大により更年期の諸症状が改善されることが示唆されていますが、慢性前立腺炎症状に対しても効果的かも知れませんね。


では今日はこのへんで失礼します。


烏丸いとう鍼灸院  院長:伊藤千展

京都市中京区元竹田町639-1 友和ビル5F
TEL: 075-555-7224

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