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第3回 おしっこトラブルの色々な形(その2)

おさらい

第2回は蓄尿障害の原因は、膀胱・尿道の機能異常か、多尿かを見極めましょう、というお話をしました。今回は蓄尿症状の1つ、「夜間頻尿」について詳しく書きたいと思います。“歳のせいでしょ”と思われがちな夜間頻尿ですが、実はとても複雑な要因が絡み、背景に基礎疾患があることも多いです。鍼灸施術の際はこれをきちんと見極め、夜間頻尿のどの要素にアプローチをしているのかを明確にする必要があります。


1. 夜間頻尿とは


国際禁制学会(2018)は、夜間頻尿を「睡眠中の排尿するための覚醒」と定義し、これに従うと夜排尿のために1回でも覚醒すると「夜間頻尿」となりますが、実際に生活上問題とされるのは2回以上です。


2.夜間頻尿による日常生活への影響


夜間頻尿は生活に様々な影響を及ぼします。短期的には睡眠不足のため、仕事の効率が落ちたり、交通事故の原因にもなります。また、高齢になると暗い中で起きる事は転倒、骨折の原因になります1,2)。実際に大腿骨頚部骨折は2回以上の夜間頻尿で年齢と無関係に増加すると報告されています3)。さらに長期に及ぶとうつ状態や、ひいては生存率の低下につながる事も明らかにされています2,4)
日本排尿機能学会が報告した40歳以上の住民を対象とした調査で、夜間頻尿は下部尿路症状の中でも生活上最も困る症状と報告され5) (図1)、また加齢と共に有症状率と回数は増加する事が明らかとなっています。(図2)

図1

図2


3.夜間頻尿の様々な原因


図3は高齢者における夜間頻尿の成り立ちを示しており、多くの因子が関与している事が分かります。
主に①多尿・夜間多尿 ②蓄尿障害 ③睡眠障害が関与します(図4)。

図3

図4


1)多尿と夜間多尿

夜間頻尿の原因としてまず挙げられるのは多尿です。尿量が増えると排尿回数も増えますね。 24時間尿量が体重1kgあたり40mL以上の排尿量(例:体重60kg→2400mL以上)があると多尿と診断されます。原因は、糖尿病(浸透圧利尿)や尿崩症(水再吸収障害)が背景にある場合や、飲水量が多いと必然的に多尿となります。

次に夜間多尿ですが、これは夜間頻尿の最大の原因で、異人種でもその傾向は同様です6,7)(図5)。夜間多尿の基準値は、65歳以上では夜間尿量が24時間尿量の33%(例:24時間尿量1500mL×0.33=495mL)以上になると夜間多尿と定義されています(若年者は20%以上)。高齢者では様々な原因で夜間多尿となり、特に高血圧による腎血管抵抗増加のための腎血流低下や、筋ポンプ作用の低下により適正な尿量が日中に産生できない可能性があります。このため日中に細胞外にプールされた水分が夜間に血管内に戻るために結果として夜間多尿となります。

図5


簡単に言うと、夜間多尿は高血圧等による臓器への負荷から身体を守らなきゃ!オシッコとして外に捨てよう!という適切な防衛反応でもあるんですね。


水を飲むほど血液をサラサラにするという嘘

高齢者に対し、脳梗塞や心筋梗塞などの虚血性疾患の予防に飲水量を増やすような指導が医療機関でもなされます。しかしながら、虚血性疾患の原因は動脈硬化やアテロームプラークであって、予防に重要なのは生活習慣の是正です。患者さんは飲水による血栓予防効果を過度に信用するあまり、飲水量が多くなり、これが夜間多尿につながることがよくあります。脱水が脳梗塞の発症因子である事は知られていますが、過度の飲水が「血液さらさら効果」により、脳梗塞の予防になるエビデンスはありません。適切な飲水バランスの調節で夜間多尿は改善できます。飲水量の基準は24 時間尿量を目安とする事が有用で、20〜25mL/kg (例:体重70kg→1400ml〜1750mL)の範囲内で尿が出ていれば脱水状態という事はありません。

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