慢性前立腺炎 / 慢性骨盤痛症候群で生じる排尿困難・尿勢低下について考える
前回記事では、慢性前立腺炎 / 慢性骨盤痛症候群における頻尿・尿意切迫感はどうして起こるのか?ということを考察してみました。
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慢性前立腺炎 / 慢性骨盤痛症候群で生じる もう一つのオシッコ問題
今回は、慢性前立腺炎 / 慢性骨盤痛症候群で生じる、
もう1つの下部尿路症状 「尿排出障害」
について考えてみようと思います。
んん?「頻尿(蓄尿障害)」と「尿が出しにくい(尿排出障害)」?
一見、真逆に見えますね。
その通り、真逆の現象です。
が、慢性前立腺炎の患者さんでは、実際にこの2つの排尿パターンを呈する事があります。
これらが別々に独立して生じることもあれば、両者を合併しているケースもあります。(尿意切迫感はあるのだけど、いざ排尿しようとすると勢いよく出ない等)
不思議ですね。
慢性前立腺炎の好発年齢は、一般に20-40歳代と若年発症である事が知られており、50歳代以降から進行が著明となる前立腺肥大症とは、発症時期が異なります。(もちろん合併例も多いですが)
つまり、前立腺組織の過形成(肥大)は生じていない20-30代の患者さんでも、下部尿路閉塞は無いにも関わらず、慢性前立腺炎では尿排出障害を訴える事があるということです。
慢性前立腺炎の患者さんならご自身の状態から納得できる方も多いかも知れませんね。実際に10代〜20代の頃とか、慢性前立腺炎の発症前と比べると、何となくオシッコの勢い弱いな〜なんて仰られる患者さんは結構おられます。
当院のまとめたデータでも、慢性前立腺炎患者さんにおいて、50%弱は排尿障害を自覚している事が分かりました。
頻尿や尿意切迫感といった蓄尿症状(約90%)ほどでは無いにしろ、なかなか高頻度に現れるのだなと実感しています。
さて、患者さんが自覚している排尿障害は、ほんとうに起こっているものなのでしょうか?(客観的に示せるのか?)
慢性前立腺炎における排尿障害を客観的に示した過去の論文報告
では、過去の論文報告から、慢性前立腺炎で生じる尿流動態(おしっこの勢い)の異常について見ていきたいと思います。
慢性前立腺炎において排尿障害が高頻度に生じる事実は、1980年前後から報告があります。
①ビデオウロダイナミクスによる検討
ビデオウロダイナミクス(膀胱内圧と膀胱尿道の形態学的な情報とを同時にみる検査)による検討では、
最大尿流率、平均尿流率が低下しているとともに、最大尿道閉鎖圧の上昇、および形態的に排尿時の膀胱頸部開大が不完全であることが指摘されています。
(Osborn DE et al: Br J Urol 53:621-23, 1981)
②尿流測定(ウロフローメトリー)における尿流曲線
2000年代には、慢性前立腺炎患者において尿流測定(ウロフローメトリー)における尿流曲線の形状が正常で無いことが報告されています。
この報告では238名の尿流測定(ウロフローメトリー)の検査結果をパターン別に分類しており、36例(15%)では外尿道括約筋の収縮または腹圧のために尿流が分断されていること、正常だと考えられるパターン1(下図)の形状は40%のみであったこと、さらに最大尿流率などはコントロール群(正常な人のグループ)と比較して不良であること(13.3±5.3mL/秒 vs 19.5±3.8mL/秒)…
などを報告しています。(Ghobish A et al: Eur Urol 38: 576-83, 2000)
図:慢性前立腺炎患者(n=238)と正常人(n=78)の尿流量曲線形状パターンの分布
慢性前立腺炎患者の排尿状況が正常人と異なることが、客観的に示されていることが分かるかと思います。
③前立腺生検による組織炎症と排尿症状の関連
また前立腺生検で確認できる組織内炎症の程度が
下部尿路症状、およびその進行度と相関する、
という報告もあり(Nickel JC et al: Eur Urol 54: 1379-84, 2008)、
前立腺組織内に存在する炎症が、排尿症状に影響していることが示唆されています。
まとめ
下部尿路閉塞の無い慢性前立腺炎の患者さんにおいて、しばしば自覚される尿勢低下や排尿困難感は、客観的にも明らかにされています。
機械的な下部尿路閉塞の無い慢性前立腺炎では、どのような機序で排出障害が生じているのかは不明ですが、尿排出障害が疼痛や不快症状を作り出している側面は強くあると考えられます。
α1ブロッカーが奏功する症例があることも頷けますね。
烏丸いとう鍼灸院 院長:伊藤千展
京都市中京区元竹田町639-1 友和ビル5F
TEL: 075-555-7224
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