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第6回 おしっこトラブルに対する鍼灸治療の現状 -間質性膀胱炎 編-


どうも、京都から あごげんがお送りします💡

前回は過活動膀胱に関して報告されている鍼治療の効果について診療ガイドラインを中心に解説しました。

今回はさらに、蓄尿症状の1つでもある

頻尿や強烈な痛みを呈する難治性疾患 「間質性膀胱炎」

に対する、鍼治療の報告を紹介したいと思います。

日常診療、在宅診療で遭遇することは少ないですが、診療ガイドラインのなかに鍼治療が収載されている数少ない分野でもあります。また、患者さんが自発的に鍼灸を求めて受領するケースもあり、是非ともHAMT読者の若手の先生がたにも知っておいてほしいのです。

あごげん鍼灸院には本疾患の患者さんが日常的に来られるのですが、日々試行錯誤、、、極めて難しい症例も経験します。

が、しかし鍼治療にはできることが確かにありそうです。

今回は自験例も踏まえながら解説していきたいと思います。


1. 間質性膀胱炎/膀胱痛症候群って?


あまり馴染みのない病名かもしれません。

間質性膀胱炎(Interstitial Cystitis : IC)/膀胱痛症候群(Bladder Pain Syndrome : BPS)とは膀胱の痛み、頻尿、強い尿意、膀胱や排尿に関する、極めて不快な症状をもたらす疾患です。

男女比は2:8くらいで中年以降の女性に多く、一般的な膀胱炎と症状がよく似ていますが、尿検査をしても細菌も白血球も検出されない為、今でも『気のせいでしょう』と主治医から放置されたり、心因性頻尿と誤診され適切な診断・治療が受けられていないケースが未だ多くあるのです。けれども患者さんは確かに膀胱の痛みを抱えており、重症例では1日50〜60回もトイレに行ったりするため、精神的なものでは無いはずなのに…と困り果ててしまいます。


下図は、典型的な間質性膀胱炎患者さんの排尿の記録(排尿日誌)です。

凄まじい頻尿であることが分かります。本症例のような若い男性では、睡眠や仕事どころではありませんね。ですが、おしっこが溜まると痛いので、排尿するしか軽減する方法がないのです。平均1回排尿量は98mLと顕著に膀胱容量が低下していることが分かります(健常成人の排尿量は300-400mL)。

また、間質性膀胱炎の患者さんは濃いオシッコだと痛みが強くなる(刺激性が高い)傾向にあり、尿を薄めようと過剰な飲水を行っている場合もあります。この患者さんでは1日尿量が2650mLと多飲による多尿を呈しており、これは是正が必要です(適正な尿量は体格にもよりますが、だいたい1500〜2000mL)。

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2004年の国内の調査では、他の難治性の慢性疾患(リウマチやSLEなど)と比較しても、間質性膀胱炎は日常生活の多くの項目で、極めて著しくQOLの低下を呈する疾患であることが示されました1)。しかしながら、原因不明であるがゆえに、根治的な治療の確立には至っておらず、2015年には一部の重症例は指定難病となりました。あまりの苦痛に膀胱摘出を選択される患者さんもおられる現状です。


 診断は、内視鏡的に膀胱上皮を観察し、生理食塩水で膀胱を膨らませる、膀胱水圧拡張術という手術をし、特徴的な所見(粘膜からの出血や、ハンナ病変と呼ばれる膀胱上皮の欠損)を認めることが条件となり(図1,2)、この水圧拡張術が治療としても有効です(有効率は約50%)。

以下の写真に示す、ハンナ病変(潰瘍みたいなもの)の有無で間質性膀胱炎か膀胱痛症候群と診断名が異なりますが、ハンナ病変のあるほうが症状がより重いことが知られています。潰瘍が尿に晒されている、と考えたら、染みて痛そうなのが想像できますよね。。

こんなに痛いのに治療法が無い、、辛い病気です。

※2021年5月 初の治療薬「DMSO」が保険適応となることが決定

IC診断フロー

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2. 間質性膀胱炎の診療ガイドラインに鍼は収載されている

実は前回記事の過活動膀胱と同様に、間質性膀胱炎診療/膀胱痛症候群 診療ガイドラインにも、治療の項目に鍼治療が収載されています。


過活動膀胱と同様に、間質性膀胱炎診療ガイドラインでも

鍼治療の推奨グレードはC1

となっています。有効な治療法が無いため、患者さんが希望すれば勧めると言っているのです。では、どのような論文が引用されているのでしょうか。

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