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第1回 おしっこの困りごとに鍼灸は応えられるか

1.はじめに

はじめまして。月刊HAMTの『泌尿器』パートを担当させて頂きます鍼灸界のあごげん、伊藤千展です。あごげん、おしっこ問題に特化した鍼灸院ってアリ!?と思い立って開院し早5年目です。手探りでしたが、現在は来院の大部分はおしっこ問題を抱える患者さんが占めるようになりました。とりわけ間質性膀胱炎という指定難病に対しては、専門医と連携しながら泌尿器科×鍼灸の統合医療構築に向け日々奮闘中です。そんな日々の中で、薬剤のみでは管理不十分なおしっこ問題は沢山あって、本領域における鍼灸の可能性は非常に大きいと感じています。しかしながら、患者さんはおしっこの困りごとの解決法を鍼灸に求めるというのは、ややイメージしづらいようです。皆さんが鍼灸っておしっこトラブルのこんな部分に効果的なんだ、という事を知り、患者さんの悩みをそっと引き出してあげられるようになって欲しいです。
本誌は在宅鍼灸を志す若手の皆さんに向けた月刊誌という事で、おしっこ連載が皆さんの臨床の一助になれば幸甚です。

連載予定


2.鍼灸師がおしっこ問題を学ぶ意義は. . .?

皆さんは「おしっこ問題」ってどんなイメージをお持ちですか?鍼灸師にそんな知識必要?ニーズある?等でしょうか?
約30年前にこんな調査があります。北小路らは 『鍼灸施術所の来院患者(男女527人、平均年齢59歳)の泌尿器系愁訴(潜在的愁訴も含め)の保有率を多施設調査したところ、高齢化に伴い泌尿器系愁訴が多くなることを確認した。頻度の高い3愁訴は, 夜間頻尿(26%), 尿意切迫(18%), 腹圧性尿失禁(16%)で、これらの愁訴は夜間頻尿を伴う事が多かった。』と報告しています1)。30年前でも意外に多いんですよね。さらに近年、夜間頻尿は転倒、骨折のリスクとなる事が明らかになっており2)、ひいては死亡率を上昇させるという論文報告も出てきています。夜間頻尿を放置してはいけない、という事が泌尿器科学のコンセンサスとなりつつあるのです。
この調査時1990年の65歳以上人口は1489万人(高齢化率12.1%)から2020年には3617万人(28.7%)と約2.4倍に膨れ上がっています3,4)。この事実から、鍼灸来院層の平均年齢は当時より高く、排尿関連の愁訴はさらに増加していると予想されます。さらに、皆さんが踏み込む在宅現場においては、施術所よりも高齢かつ重篤な循環器系、中枢神経疾患を抱えている可能性が高く、排尿の問題はほぼ必発と言っても過言ではありません。
効果性に関しては、鍼灸の有効性に関する論文報告は中・韓・欧米諸国を中心に出てきており、薬物療法と安全に併用できる、また場合によっては薬剤を代替しうる治療法の1つです。実は国内の数編のおしっこ系診療ガイドラインに鍼治療の収載があります(詳細は第4回)。国内において、おしっこ問題に応えられる職種(治療行為という意味で)は泌尿器科医以外には理学療法士くらいですから、鍼灸師はこのフィールドに踏み込んでいく余地は充分にあると考えています。


3.おしっこ連載の目標

日本には経絡治療、中医学/現代医学に基づく鍼灸術などを始めとする様々な治療体系が存在し、その多様性は素晴らしいものがあります。しかしながら、各々の診断/治療システムの差異から、泌尿器科症状の評価を共通のパラメータで表すことがなかなか難しく、それぞれの有効性について客観的に示す事や判定がしづらい点は大きな問題かと思います。
そこで本連載の目標を、『排尿の問題を泌尿器科学的にアセスメント出来る鍼灸師になる!』としたいと思います。具体的には、いくつかの評価法を用いて、鍼灸が効きそうなタイプか、鍼灸の適応では無さそうなタイプかを見極め、また用いた治療法の効果性をきちんと判定する力をつけて欲しいのです(第4回以降)。


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