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【連載小説「辻家の人々」】003   号泣のお遊戯会/辻ヤスシ

両手を前に突き出して拳を握る。
そこから親指と人差し指を立て、左右の人差し指を向かい合わせれば準備完了。
あとは曲に合わせて人差し指を下へ上へと繰り返せば、人生初の幼稚園お遊戯会は問題なく成功する…ハズだった。

お遊戯会当日。
体育館は満員だった。年少である自分たちの学年、そして年中組・年長組の児童たち加え、その父兄たちも沢山訪れていた。自分の家族も祖父母と母親が来ており、最前列に陣取っている。お遊戯会は滞りなく進んでいき、遂に自分たち年少組の出番が訪れた。壇上へと上がり先ほどのポーズを取ると曲が流れ始める。

「かまきりじいさんいねかりに~♪」

一生懸命、手で作ったカマキリ爺さんの鎌を振り続けた。すると、遊戯の途中から体育館全体がザワザワし始める。この異様な雰囲気は今でも鮮明に覚えている。自分だけ間違えて踊っているんじゃないかと不安になったからだ。その時である。

「○○○がいるーーーー!!」

上手く聞き取れなかったが、1人の園児がそう叫んだ。それを合図に複数の園児が席を離れて、その人物に群がり体育館はプチパニックとなった。やがて、曲も途中で止まり自分は壇上で大号泣していた。理由は園児が群がったその中心にいたのが自分の父親だったからだ。

地元のプロ野球チームの選手が来たら園児が騒ぐのも無理はない。
今なら納得できる。ただ、当時の自分は父親の職業を知らなかった。何故、園児たちが群がったのか理解が出来なかった。故に、恥ずかしくて涙が出てしまった。

その日の夜、自分は父親に何故来たんだと泣きながら怒鳴り続けた。
父親は自分に頭を下げて謝った。後にも先にも父親が自分に対して謝ったのはこの1回だけだ。

子供の晴れ舞台を見たいと思うのは親として当たり前のこと……今にして思えば理解できる。そして、可哀想なことしてしまった、と思い出すたびに少し胸が痛む。

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