昨日の夜は…

昨日の夜は…

9月に入ったというのに連日暑い日が続いていたが一昨日からようやく秋の訪れを感じるようになってきた。

昨日、前後のドアを開け放し久しぶりに冷房をかけずに営業してみた。

少々雨は降っていたものの店の中に吹き込むほどではない。

今日も今日とて店の奥にあるソファー席で読書。

若いお客さん取り込むためにもソファー席のひとつくらいあっていいんじゃないなんて言われてその気になって作ったソファー席だがソファー置いてあれば若い子が来るなんて単純なものではなく最近はすっかり僕の読書のためのスペースとなっている。

「ガダラの豚」を開いているとお客さん。

たまに顔出してくれるAくん。

いつもは彼女と来るのだが今日は珍しくひとりだ。

「実は相談がありまして」

席につくとすぐ彼が言う。

起業して3年目の彼。

今までもよく「事業を継続していくには」とか「仕事上の悩み」を口にする事があった。

その度に「相談する人間違えてるよ。相談すんならちゃんと事業を成功させている人にしなきゃ」と言っていたのだが…

でも相談という名の愚痴かもしれない。

それなら話を聞くくらいはなんでもない事。

「うん、どうした?」

と話の続きを促す。

「実は僕、自分の性格が悪いんじゃないかと思いまして」

「へっ?どゆこと?」

「例えて言うと僕人が結婚するとか、赤ちゃん生まれたからって聞いてもまったく感動しないんですよ」

「え、そんなの別に珍しい事じゃないんじゃない?」

「えっ、そうですか?皆そんなに親しくない人でも『良かったね、おめでとう』って言うじゃないですか!僕良かったとも思わないんですよね。後ネットとかで明るく前向きにって奴みると嘘つけって思っちゃうし人の悪口言うし」

「真面目かっ!ww俺もそんなもんだよ。店にいたらおめでとうくらいは言うけど」

「えっ、クマさんもですか?クマさん良い人だと思うけど」

「いやいやそもそも俺が良い人っつうのがまちごうてるよ!俺は良い人ウリにしてるけど良い人ではないよ」

「え、そうなんですか」

「うん、頭脳にもルックスにも自信ないけど1番自信ないのは人柄だから」

「人柄悪いって商売やるのにマイナスですよね」

「まあね…対面商売していく上では良い人、愛される人の方がいいかもね」

「やっぱりかぁ」

「んで?何を相談したいの?人柄悪いんじゃないかと思うんですよねじゃ相談にならないよね。人柄悪いんだけどどうしたらいいでしょうって言われたらなんか言いようがあるかも知んないけど。人柄の良い人になりたいわけ?」

「いや、だって人柄ってなろうと思ってなれるもんじゃないでしょ?」

「うーん、そうかな…怒りっぽい自分をなんとかしたいとか、悪口言わないようになんては絶えず気をつけていれば少しづつでも直っていくんじゃない」

「それってホントに良い人にはかなわないじゃないですか」

「うーん、まあ天然にはかなわないかもしんないけどそれっぽく見せる事はできんじゃないの?」

彼自身が初めに言っちゃってる。

「人柄悪いって商売上不利ですよね」

って

これって裏を返せば本当に良い人になる必要はなくて人から良い人と見えればいいんだろ。

それに彼は人柄は生まれ持ったもので後からどうのこうの出来るもんじゃないと思っているみたいだが僕はそうは思わない。

初めは商売上にと気をつけているうちに本当に良い人になるって事は大いにありうる話だと思う。

いつになく長居をしたくさん話して彼は帰っていった。

これは自分でも言っていたが商売が思うようにいかないからこんな事で悩むんだと思うと…

全く相談事の答えはあげられなかったがたくさん話す事で少しは気が晴れたならいいんだけど…

僕らの仕事で出来ることって「気晴らし」くらいのもんだからね。

次のお客さんはお医者さん。

先日見学に行ったシェア金沢の話をしてくれた。

皆で足りないところを補い合う素晴らしい所だ

と語る彼はその前の話でいうと「天然に良い人」に思える。

お医者さんの中でも一番儲からない小児科を選び、心を病みそうになるくらい懸命に仕事に打ち込む彼は本当に患者さんの事を考えてる心優しい良いドクターだと思う。

シェア金沢。

話を伺う限りでは確かに素晴らしい取り組みだと思う。

「それって自治体主導なの?」

「いえ、孤児院から始まった個人が始めたことみたいです。今は法人化しているみたいですけど」

「え、ひとつの街作ってるんでしょ?それって一個人が出来ることなの?自治体絡んでないの?」

「まあ、助成金とかは出てるんでしょうけど元々やり始めたのは個人みたいですよ」

「確かにある意味理想郷だし、なんかこれからの時代に必要なモデルケースになりそうだね。自治体とかが視察に来そう」

「あ、すでにあるんじやないですか」

彼の話では住職がいなくなり使われなくなったお寺に手を入れて施設にしたり地域住民の理解を得るために温泉を掘り住民の人は無料で使えるようにしたりしているという。

「え?ちょっと待って!温泉⁈」

温泉掘削はギャンブル…

早く源泉にたどり着ければいいがそれでも最低でも5〜6000万…普通は億の金はかかると聞いた事がある。

始まりは孤児院、障害者のための雇用差施設これらは自治体の補助金でなんとかかんとかやりくりしているというイメージだった。

廃寺の再利用というワードから勝手に廃村になった村の古い家に手を入れリノベーションして使っているのかな?

などと勝手に想像していたのだが「温泉」というワードで一気にイメージが変わった。

うーん、これはどうなの?

彼がそのコミュニティの紹介ビデオみたいのを見せてくれる。

綺麗でお洒落な施設、美しい街並み…

僕が勝手にイメージしていたのとあまりにかけ離れていた。

元々あるお寺が孤児院を始めたのが出発点

自治体からの補助金でなんとか孤児院
を続けている住職…100%善意の人と勝手に思い込んでいたのだが「温泉」というリスキーで恐ろしく金のかかる事業の登場で一気に印象が変わる。

孤児院から温泉というのがあまりにかけ離れていてそこへたどり着く道のりが想像できないのである。

人柄の良い彼などは「これからの日本に必要な素晴らしい取り組み」だと心酔しているみたいだが人柄の悪い僕などは(善意の仮面を被った金儲けの可能性あるんじゃね?)とついつい裏読みをしてしまう。www

例えばその施設に「コ〇コーラ」とか世界的企業の冠がついていたなら企業の社会貢献という事で納得出来るのだがそれもないらしい。

全国から老人を受け入れているという事を聞くと「社会に参加しながら余生を送れる、これからの時代に必要となってくる最先端の理想郷」という事で高額の入居料がかかるというのは想像出来るがそれにしても初めにその施設ありきの話だ。

元々の原資はどこから?

人柄の悪い僕はそれを考えてしまう。

でも興味深い話を聞かせてもらった。

彼が店を出るのと入れ替わりに入ってきたのはここんとこ毎週のように行き来してる某カフェのマスターとそのお連れさん。

席につき簡単な自己紹介をすませるとマスターと彼が話し出す。

テーマはマジョリティとマイノリティについて

話の流れがわからないから初めはずっと黙って話を聞く。

なんとなく話が分かってきたところで僕も話に加わる。

そこから会話は彼の話になっていく。

「この子面白い子なんですよ。整体師しながら大学院に入って心理学まなんできたんですよ」

「へぇーっ、凄いね!心理学って何を学んできたの?」

「正確には発達心理学って分野で…」

「発達心理学?それなに?」

「えーっとですね…」

一生懸命説明をしてくれようとする彼。

(うーん、イマイチよくわかんないなぁ)

なんとか理解しようとするが今ひとつ彼の説明が要領を得ない。

「うーん、頭悪いから今ひとつよくわかんないなぁ」

「あーよく言われるんですよ。話がわかりにくいって…説明下手なんですよね」

「あのね、ほらテレビで時事問題とか解説してるオジサンいるじゃん。「いい質問ですね」って言う人。君たちそんな事も知らないの?ってのが透けて見えてあんまり好きじゃないんだけどあの人の本でなるほどと思えるいい事書いてて『ちゃんと人に説明出来ないって事は話してる人自体がわかっているつもりでも実はまだきちんと理解していないからだって」

思えば僕も随分と失礼な事を言ったものだが彼は気を悪くする風もなく

「ああ、なるほど…そうかもしれませんね」

と頷いてくれた。

その後も楽しい話題がいっぱい。

「あのぉ、僕もうそろそろ…」

時刻は午前2時近く。

明日も仕事だろうからもっともな話だ。

「いやぁ、彼すげー面白い!マスターいい人紹介してくれてありがとう」

プライベートでもいいから彼とは一度じっくり話してみたい。

その間に女の子がひとり。

1時半…もううちの営業時間過ぎたというのに入ってきた子が…

ずっと顔見せてなかったのにここんとこ割と頻繁に来てくれている。

昨日はあまり話せなかったが実は彼女は感情的にならずに議論出来る稀有な子…

脳細胞をチリチリ言わせながら議論するの凄い楽しい。

ま、彼女は国立大学出…僕は最終学歴工業高校で物事「面白い」か「面白くない」でしか無い人なので熱く議論してるつもりなの僕だけなのかもしれないけどwww

タクシーで来たという彼女を家まで送って本日の営業は終了。

昨日の営業、客数は少なかったけど少数精鋭!

濃くて楽しい、いい時間だったなぁ。