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熱中症?

先日とある家の前を通りかかると玄関の扉が半開きになっていた。

通り過ぎた時、視界の隅に人の足が見えた。

えっ!足先が上がり框に…

いやいや、そんなわけは…

僕の見間違いやろ…

そう思いながらも足は止まらずどんどん進んでいく。

見間違い見間違い。

知らん家やしな。

モヤモヤしながら歩みは止めず何十メートルも進んでしまう。

いや、やっぱ違う!

見間違いじゃない…と思う。

一旦引き返して確かめてみたらいいじゃないか!

見間違いなら(バカだなぁ俺って)って心穏やかに過ごせるだろ。

慌てて来た道を引き返す。

そーっと玄関先を覗き込む。

あっ、やっぱり!

上がり框の方に足先を向け玄関の土間におばあちゃんが目をつむって寝転がっていた。

お昼寝?

いやいやいや、こんなとこでお昼寝する人はおらんやろ。

「あのぉ…どうかされました?」 

恐る恐る声をかけると

おばあちゃんがうっすら目を開ける。

「ああ.…いや…なんでもないです」

寝転がった姿勢のままおばあちゃんが言う。

おばあちゃんの額には冷えピタが貼られている。

「いや、なんともないって…なんともなくないですよね」

「おたく何方さんやの?」

あ、そうか…

いきなり自分ちの玄関先で見知らぬ男が声かけて来たら不審に思うよな。

ましてや僕は身長181cm、体重85kgの体躯に顔は髭面…

こんなのが自分ちに来て話しかけたら怖いよな。

僕は自分の姿が人に与える印象も充分理解している。

「あ、ゴメンの…通りすがりのモンやけど足が見えたもんやから」

「ああ、そう」

「あのぉ、お家の方は?」

首を横に振るおばあちゃん。

いないのか…

「救急車よぼか?」

「うううんいいの、大丈夫やで」

「いやいや、大丈夫じゃないよね」

「私身体弱いでたまにあるんやって」

気温は35度超え…

熱中症だろうか…やっぱり無理にでも救急車呼んだ方がいいんやろか。

「念のため救急車よぼか?」

「ほんとにいいんですって。ちょっと休んだらようなるで」

「ほやけどこんなとこで寝てても…のっ」

「そんな大袈裟な!救急車なんて呼ばんでも大丈夫」

「そうか…あ、近所の目とかか?今はこっちで言うておくとサイレン鳴らさんと来てくれるらしいざ」

「あら、そうなんか?」

「うん、そうなんやって」

玄関先にしゃがみ込んだ僕と、玄関の土間に寝転がったままのおばあちゃん。

これ第三者が見たらどう思われるやろか?

もしかしたら僕がなんかしたと思われるかも…

それになぁ…救急車呼んだら来るまで俺ここにえなあかんやろしな

うーん、この後予定あるんやけど…

いやいや、そんなん言うてる場合かっ!

事情を話せばわかってくれるよな。

いろんな思いが頭をよぎる。

「そんならおばちゃん、僕になんか出来る事あるか?」

「あ、そんなら起こしてもらえるか?」

少し話をして僕が見た目ほど怖い人でも悪い人でもないとわかってもらえたのかおばあちゃんがそう言う。

「うんうん、そんならおばちゃん手ぇ貸して」

両手を引っ張って体を起こす。

「ありがとの」

始め声かけた時には朦朧としていたが話しているうち意識もハッキリしてきたみたいだ。

ふと見ると玄関の上がり框には洗濯物の入ったカゴが置いてあった。

「ひょっとして洗濯物取り込んだ後に転んだんか?」

「うん、そうなんやって」

「えっ、そんなら頭打って気絶してたとか⁈」

それならやっぱり救急車呼んだ方がいい。

「違う違う、頭は打ってない。私足が悪いもんやでうまいこと立てんかったんや。朝から体調も悪かったしの」

確かに頭に冷えピタ貼っている。

「ここんとこ毎日暑いもんの」

「そうなんやって…ありがとのあんさん。もう大丈夫やでいって」

「うーん、そやけどこんなとこ残していくのもなぁ」

「ホントあんさんと喋ってたらシャキッとしてきたし」

「うーん、ほやけどなぁ…このまま行ってんて数日後玄関先に『忌中』とか貼ってあったら目覚めが悪いが」

「ははははっ、大丈夫やって」

やっと笑った。

「ほやでの、救急車嫌ならほかになんか出来ることないか?」

「そうか…ほんならこの先の部屋のテーブルにペットボトルあるで持ってきてもらおかの」

「うん、わかった…ほんなら失礼します」

サンダル脱いで家に上がり短い廊下を進む。

突き当たりの部屋は台所。

そこにはペットボトルは見当たらない。

隣の部屋を開けてみる。

ローテーブルの上には飲みさしのと新品の、2つのペットボトルが…

戻っておばあちゃんに渡すと早速キャップを開けてゴクゴク。

「あらぁ、おばちゃん喉渇いてたんやの…結構長い間倒れてたんか?」

「なんも、ほんの数分やと思うざ」

「やっぱり救急車呼んだ方がいいんじゃないんか?」

「本当に大丈夫。水分取ったら楽んなったし…」

「そんなら奥の部屋まで運ぼうか?おばちゃんくらい抱えていけるざ」

「いやいやいや、ホント大丈夫ありがとの…もうすぐ爺さん帰ってくるで」

「そうか…」

「昼まで仕事でもう帰ってくる頃やで」

時計を見ると12時15分。

「そんならお爺ちゃん帰ってくるまでいるわ」

「いや、そんな申し訳ないでもう行って!ありがとの」

「ホントにいいんか?」

「大丈夫や!死なん」

おばあちゃんが笑いながら言う。

「ほんなら行くの。玄関どうする?閉めとくか?」

「いや、開けといて。ここ開けとくといい風入ってくるで。あんさん、ありがとの」

確かにさっきから時折涼しい風が吹き込んでくる。

気にはなったが大丈夫と言い張ってるのに無理強いもできん。

その場を去る。

一旦帰ったもののやっぱり気になった僕は15分後、車に乗ってその家の前に行ってみる。

先程はなかった軽自動車が家の前に止まり、開いていた扉は閉まっていた。

あ、お爺ちゃん帰ってきたんやな。

なんともなければいいけど…

皆さんまだまだ暑い日が続きます。

熱中症には気を付けましょう。

以上!

好感度アップのための偽善的投稿でした。