昨日の夜は…
昨日の夜は.…
土砂降りの昨日…
(今日はお客さん来ないかもな)
とソファーで本を読んでいると1人の男性が入って来た。
「一杯だけいいですか?」
「ええ、勿論」
腰を上げカウンターに向かう僕。
椅子に腰掛けマスクを取る男性。
マスクをしていたので気づかなかったが近くでBARを経営する同業者だった。
「おお、どうした〇〇君珍しい…店は?…ああ、今日は日曜日。休みか?」
「ええ…まあ…」
何やら奥歯に物が挟まったような返事。
「んで?何にする?」
「あ、じゃあラフロイグをロックで」
飲み物を出す。
開口一番
「いやぁ、大変な事態になりましたね」
と彼。
言いたいことはひとつ…言うまでもなくコロナの話だ。
「うん、まぁね」
それから…とつとつと話をしだす彼。
聞けば彼の店、一旦は5月18日から営業再開したのだそうだ。
営業再開後すぐは気にかけてくれていた常連のお客さんが来てくれ高いお酒を注文してくれたりしたのだそう。
(ありがたいなぁ…このまま徐々にお客さん戻って来てくれるといいな)と思っていたのだが調子良かったのは最初の一週だけ…
その後はずっとお客さん数えるほどしか来ない日々が続き、やがて心痛からか体調も崩し(こんなんじゃ家賃にもならない。とりあえず身体だけでも治そう)と思い先週からまた店を閉じていると言う。
「クマさんとこはどうですか?」
「ああ、うちも同じようなもんだよ。出だしこそ気にかけてくれていたお客さんが店に足運んでくれたり、テイクアウト買ってくれたりもしたけどここんとこは全く…まあ、しょうがないよね…今しばらくはまだ。家賃交渉はした?」
「ええ、大家さんに家賃払えないから店閉めるって言いにいきました」
「えっ!店閉める?嘘だろ?」
「だって本当にない袖は振れないっていうか…やっていけないですもん」
「んで?どうなった?」
「大家さんも出来たら店続けて欲しいっていって2割引にしてくれました。でも…こんなんじゃ…持続化給付金なんて延命措置でしかないですしね」
マジで店閉めるつもりなのか?
「クマさんどう考えてます?」
「うーん、まぁね…U字回復なんて話もあるけど僕はこの先も100%元に戻るとは思ってないんだよね。8割戻ってくればいい方だと思ってるよ…だから良くて2割減のJ字回復…そうなると元々やっと生活できてるレベルのうちなんかはたちまち食っていけないレベルになっちゃうからコレが尾を引いて2年後に閉店とかはある話だと覚悟はしてるよ」
「え?2年後ですか?僕はそんなには待てないですね。テナント出る条件『2カ月前までに家主に言う』てのを考えると10月には結論出すと思います」
ここまでは「閉店」に向かっているような口ぶり。
だがそのすぐ後に「店のためにこんなことも考えている」とか「暗くならずにポジティブにいかないとね」と話したりもする彼。
その「揺れる気持ち」は痛いほどわかる。
が「閉める」と言ったと思えば「ポジティブに」と言ってみたり…発言の振れ幅の大きさにメンタルやられてる印象を受ける。
大丈夫か…
彼の「閉店」発言は僕を驚かせた。
彼の店は僕んとこより余程ちゃんとした店…しかも彼は僕よりずっと若い。
この時点ですでに店閉める事も頭にあるなどとは思ってもみなかった。
いや、若いからこそ人生のやり直し、次の仕事を考えられるのかもしれないけど…
確かに引っ張るだけ引っ張って傷口が広がりどうしょうもなくなる前に閉めるというのも選択肢のひとつかもしれない。
事実、もうすでに何軒か閉店した店の話も僕の耳に届いている。
食べ物がメインの店に比べ飲みがメインの店は回復するのに時間がかかるだろう。
福井でクラスターを出し「片町クラスター」なる言葉が生まれた繁華街「片町」にある店は特に…
だが、先が見えないのは皆同じ。
今、僕たちが出来ることは粛々と店を開け来てくださったお客様が(楽しかったなぁ、また来よう)と思っていただけるようにする事だけだ。
(新しいコロナ後の世界に合わせてなんらかの取り組みをするべきだ!それをやれた店、時代についていけた店だけが生き残れるというご意見はごもっともだと思うが残念ながら「いろんな人と話せて自分が楽しいから店やってる僕」「脳味噌になんらかの欠陥があるとしか思えないポンコツ頭の僕」には新たな発想が出てこない)
毎日店開けて、ギリギリまでやってみてそれでダメならしゃあない。
確かに客数は少ない。
店の今後を考えると気が重いことばかりだがいいこともたくさんある。
来てくれたお客さんの滞在時間は長く再開後初めてゆっくり話せたお客さんや、この時期に「はじめまして」のお客さんも何人かいたりする。
クマちゃん貸し切り、3時間マンツーマントークも珍しくないwww
知ってるお客さん、うちの店を好きで来てくれてる好きなお客さんばかりだから楽しい営業。
釣りも再開した。(バス釣りは釣れなすぎて嫌になるがw)
お客さんが貸してくれたりして読む本もたくさんあり本読む時間もたっぷりw
昨日も彼の後に来てくれたお客さんが、大好きな子達だったもんだから皆で再開を祝い乾杯しちゃったもんね❗️