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M&Aがわかる(できる)経理担当者になる!  〜ビギナーもそうでない人も〜

皆さんこんにちは。今回は社内で初めてM&Aに関与するあるいは関与経験が少ないという経理担当者にとっての心構えのようなことを書いてみたいと思います。すでにプロジェクトを複数こなしてきたような方も新鮮な気持ちで読んでみてください。経理と書きましたが、経営企画部や事業開発部などに配属された方にとっても参考になるのではと思います。

今回のポイント

  1. PLではなくキャッシュフロー

  2. M&Aの数字(ファイナンス)と会計とは異なる

  3. ディールプロセスの一歩先を行こう

1. PLではなくキャッシュフロー

何年か前にキャッシュフロー経営という言葉が流行りました。利益よりもキャッシュフローが重要といったテーマでしたが、それが正しいかどうかにかかわらず、また一時期の流行とも関係なく、M&Aは「キャッシュフローの世界」です。

損失か損失でないか

M&Aで会社を買う場合、将来予測していない損失が発生することは買い手にとっては大きな問題です。では「損失」とは何でしょうか。
会計上、損失は一般的な用語で「減損損失」や「子会社株式評価損」といったものがすぐに思い浮かびます。しかしこれらはM&Aでは損失とは考えません。なぜならキャッシュフローが生じないからです。もし買収した次の年にその会社で減損損失が発生するかも知れないおそれがあっても、買い手は買収金額や譲渡契約の文言で特別な対応をする必要はありません。
M&Aの損失はキャッシュが流出するものを指します。国税当局と意見が擦り合わず追加で納税が必要になったり、工場の環境汚染を除去する費用がかかったりするものが損失となります。PLの損失とは一致しないのです。このようなイシューがあるときに、経理担当者として、交渉を担当する事務局や契約を検討する法務部に助言や見解を示すことが必要になるでしょう。

売却益ではなく収入の最大化

会社や事業を売るという局面でよくある反応に「売却損が出るような金額では売れない!」といったものがあります。極端な場合は売却損を出さないために、減価償却が進むようにクロージングを半年先延ばしにするとか事前に減損損失を計上するといったことまで検討されることがあります。
気持ちはわかりますがM&Aの観点からは適切ではありません。売却損が出たとしても売買金額がその会社の状況からしてベストバリューだと思えれば売るべきですし、売却益が出るとしても過小評価されていると思えば売るべきではないのです。

2. M&Aの数字(ファイナンス)は会計とは異なる

経理担当者は、会計数値や会計処理に精通していることもあり、M&Aの数字を会計という眼鏡で見がちです。会計「的な」物の見方は大切ですが、「会計」そのものをM&Aに持ち込んでしまうとうまくいかないことがあります。

運転資本/ネットデット論争

M&Aのバリュエーション(企業価値評価)や案件のクロージング時に行う譲渡価格調整で重要な概念に、「運転資本」と「ネットデット」があります(両者がざっくりどういうものかはM&A書籍等をご覧ください)。
ここで売り手と買い手の間でよく起こるのが、ある勘定科目Aが、「これは運転資本だ!」、「いやネットデットだ!」という論争です(Aggressor自身も何度もその場に立ち会いました)。典型的には〇〇引当金や税金勘定を巡って争いになることが多いようです。
経理担当者の普段の仕事である経理業務では、会計の理論的な基盤である会計学や実務のルールである会計基準に則って会計処理をしていきます。よってM&Aの場面でもルールに従って判断することができると考えがちです。しかし運転資本やネットデットは画一的な基準で分類できるものではありません。この議論を考えるには少なくとも、

  • その科目に含まれている内容はなにか(同じ科目名でも会社によって内容や性質は違うかもしれない)

  • 両者で合意した価値計算や事業計画の枠組み・構造(明確に合意されたものが無いとしたら、買い手or売り手がそれらについてどのようなポジションに立つのか)

を検討することが必要です。そのためある案件で分類したやり方が、別の案件でそのまま当てはまるかどうかはわからないのです。
実際のプロジェクトの際には、FASの財務チームを巻き込んで検討することが必要でしょう。その際に的確なアドバイスをできるかどうかで、そのチームの価値評価への造詣の深さがわかると思います。

「会計」ではOKだけど

M&Aで重要なテーマの1つに「偶発債務」があります。偶発債務は会計上の用語でもあり、起こるか起こらないかわからない債務のことですが、会計でこの偶発債務をBSやPLに反映するかどうかにはルールがあります。端的に言えば、発生する可能性が高くて、金額を決められる場合には計上することになります。逆に言えばそうでない場合には計上しなくて良いことになります。
ではM&Aにおいて、買おうとしている会社に偶発債務があったらどうすればいいでしょうか。例として裁判で訴えられて損害賠償を請求されているというケースです。その会社はBSに偶発債務を計上しておらず、それについて監査法人もOKと言っています。そのためM&Aでもその偶発債務を考慮しなくて良いかと言えばもちろんそんなことはありません。
会計で何かを計上するかしないかは会計ルールで決まります。これに対してM&Aで考えることは、それが将来損失になるかどうかという点です(ここでいう損失は、上で述べたようにキャッシュの流出です)。損失になるおそれがあると考えるのであれば、買収金額や譲渡契約の文言で手当てしなければならないのです。
M&Aでは、会計上正しいかどうかという点が重視されない場合、あるいは会計とは真逆の判断を行う場合も全く珍しくないわけです。

3. ディールプロセスの一歩先を行こう

月次や四半期決算では、経理業務は予め工程表が決まっていてそれに遅れることなく進めて行くものと思います。ただM&Aの場合は、経理の動きがあるべき状態より遅れてしまうことが多々あります。

その場になってから検討するのはNG

M&Aでは日常の経理業務では行わない処理、検討しない内容が大量かつ立て続けに発生しがちです。買い手側にとってはPPA(パーチェスプライスアロケーション。詳しくご存知でない方は、のれんを計算する評価手続きとお考えください。)、売り手にとっては売却時の会計処理、会計影響の検討などが真っ先に挙げられるでしょう。
PPAではFASを含む専門のファームに作業を依頼する可能性が高く、クロージングよりもかなり前(対象会社の規模などにもよりますが、半年以上前から検討するケースも少なくないと思います)から、専門家を含めてスコープやアプローチについての検討を始める必要があります。
売却時の会計処理は、特に連結財務諸表への影響については過去の連結仕訳を精査するなど大きな工数がかかることも考えられますが、決算の直前になって検討していませんでした、といった声を聞くケースもあります。前の四半期の数字を使って検討を始めてポイントを予め洗い出しておくなど先んじてできる対応策はあるはずです。

監査法人と定期的な会話を

M&Aの会計処理は、①普段は行わない非経常なもので、②財務への影響が大きく、③必ずしも答えが1つにすぐ定まるわけではない、といった特徴があります。仮に、プロジェクトのある論点について経理担当者が思っていた対応・処理について決算の真っ只中で監査法人からNGが出た場合には決算そのものが大混乱となり、最悪の場合スケジュール通りの決算発表ができなくなる、といった事態も考えられます。
これを防ぐためには、SPA締結やクロージングなどのマイルストンの前々から監査法人と協議を行っておくことが必須となります。一方で、ディールプロセスの間ではストラクチャーの修正や契約条項の見直しなど常に新しいアイテムが発生しがちです。よって一度監査法人に確認した事項でも前提が変わってしまうこともあり得ます。これを踏まえると、特に大型案件や複雑なプロジェクトにおいてはプロセスと並行する形で、監査法人との間で定期的なミーティングを設けることも望ましいやり方です。これによりタイムリーな相談が可能になるほか、監査法人側も案件の内容についてキャッチアップすることができ、案件理解の深度やレスポンスが良くなるという効果も期待できます。

(おわりに)M&Aのわかる経理担当者への道は果てなく続く。。

今回は主に心構えといった面を書いてきました。実際のM&A案件ではこれ以外にもいわゆるハードスキル、具体的にはM&A会計の基準や組織再編税制の知識、バリュエーション(企業価値評価)の基本的な理解や売買契約の内容など、経理担当者がフォローするべき分野は数多くあります(もちろん各分野の専門家を起用することになりますが、基本的なことを知らなくていい訳ではありません)。
これから書いていくNoteにもそれらに触れていくものが多くなってくると思います。Noteで「M&Aがわかる経理担当者」を目指してください。

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