見出し画像

バラ売りではダメですか?


茄子農家

 私は大学2年の春に約三週間程、茄子農家でアルバイトをしました。茄子農家を選んだ理由としては下記の2点があります。
①ハウス栽培を経験してみたかったから
②アルバイトの期間が調度出荷時期と重なっており、出荷現場を見ることができるから

 短い期間でしたが印象に残ったのでその点について書きたいと思います。

※この文章のnoteへの投稿にあたり、アルバイトをさせて頂いた茄子農家さんより掲載許可を頂いています。

一日の半分以上が袋詰め作業

茄子農家さんの一日の流れ

7:30~ 茄子の収穫
12:00~13:00 食事
13:00~ 選別・袋詰め

 私が訪問した茄子農家さんでは午前中に収穫を終えてから、パートさんを含めて総勢3人から4人で茄子を袋詰めをします。収穫量が多いときは夜の8時前後までかかるときもあり、その様な場合は作業場で食事をしながら袋詰めを行いました。一日の収量は2000本近くあり、一本一本を丁寧に袋に詰めていくので、ゆっくり作業をしているととても終わりません。

画像1

 出荷する茄子は3本パックと5本パックがあり、その中でも秀・優・良の三段階に分かれています。よって収穫してきた茄子を基準に基づいて選別し、その上で袋詰めを行う必要があります。袋詰めも単に茄子を詰めれば良いのでは無く、見栄えするように意識しながら詰めていきます。 

    例えば3本パックの場合、真ん中に置く茄子のサイズを大きく、左右に並ぶ茄子のサイズは小さくすることで、”釣り鐘型”となり見た目が良くなります。この作業を素早く行うためには、ちょうど良い茄子の組み合わせを考えながら作業を行う必要があります。

袋詰めはパズル

「袋詰めはパズル」

  経営者の方が話すには茄子の袋詰めは、茄子のピースを並び替えながら相性の良いピースを見つける作業とのことでした。私も何度か挑戦してみましたが、この様な高度な作業は私のようなアルバイトにはできませんでした。普段から茄子を握りサイズ感を掴んだ状態でないと袋詰めはできないそうです。

 しかも袋詰めは詰めたら終わりではありません。袋の口をテープで縛る必要があります。しっかりと袋の口を縛らないと輸送中に袋の中で茄子が動いてしまい、茄子の光沢を損なうリスクがあります。

 この説明で茄子の袋詰めが単なる単純作業ではなく、多くの時間を費やす必要がある作業であることを理解して頂けたでしょうか。

バラ売りではダメですか 

 茄子が出荷されスーパーマーケットの棚に陳列されるとき、消費者は値段と見た目で選びます。値段は大差ない(野菜であれば数十円程度)ので結局は見た目となることが多いのが実情でしょう。そこで如何に見栄えするように袋詰めするかが重要になってきます。そうなると袋詰めといっても気を抜けません。

画像2

 しかし半日を費やしてまで”袋詰め”をすることは消費者にとっては好都合ですが、農家にとってはどうなのでしょうか。私には多くの時間を費やしすぎている様に思えます。仮に3人のパートさんを雇用して5時間作業したとしても、時給900円として13500円の人件費が発生しています。茄子5本パックの価格を200円とすると約68パック分となります。ちなみに一日に出荷する茄子は全て5本パックだとすると出荷量の合計は400パック前後です。(実際には3本パックもあるので、この数字よりは多くなる)実際にはパートさん以外に家族も作業していることもあり計算した人件費よりは低くなると思いますが、少なくない出費です。

 仮に茄子の販売をパック詰めではなく、単に段ボールに詰めた状態でバラで売るとしましょう。茄子の収穫の際に直接段ボールに詰めていき、そのままの状態で出荷します。小売店では茄子を山積みにして”量り売り”とします。この場合、茄子の袋詰めによる人件費は一切発生しません。しかも消費者にとっては実際に茄子を手に取り鮮度を確認した上で、必要量だけ購入することができます。しかも生産者側は袋詰めに費やしていた時間を別の作業に当てることが出来る。両者にメリットがあるように思えます。

 デメリットととしては輸送中に茄子同士が擦れ合い、表面の光沢が失われたり、茄子の重みで段ボールの下の方にある茄子が傷みやすくなることなどが考えられます。味にこだわったり見た目を気にする消費者であれば、量り売りを敬遠するかもしれません。
 しかし多くの消費者は見た目で野菜を区別することができても、果たして味の違いまで区別しているのでしょうか。基本的に茄子は生でそのまま食べるということはなく大抵の場合加熱した上で調理するので茄子そのものの味に加えて調味料などの味が加わっています。多少痛んでいたところで、生で食べるものではないので味の違いまで消費者はわからないのではないでしょうか。

海外におけるバラ売り

 そもそも欧米ではバラ売りが一般的ですし、お隣の国の韓国でもバラ売りとパック売りの両方が用いられています。以前モスクワに行った際にはスーパーマーケットでブドウが山積みにされた状態で量り売りされていました。当然のことながら下の方に積まれていたブドウは潰れて汁があふれ出していました。日本では考えられない状態です。これは極端な例としても日本と比べると海外では量り売りが一般的である上に、量り売りされる野菜の幅が広いと思います。

結論

 では何故日本で量り売りが流行らないのか。
基本的には消費者がパック売りを好むことが理由だと考えます。 生産者はあくまで消費者のニーズに合った形の商品を提供する必要があり、生産者側から量り売りを推進しようとしても、結局は消費者に選ばれないことにつながってしまいます。確かに清潔感を好む日本人にとってはパック詰めされている商品の方が、安心して購入することができますし、乱雑な印象を与える山積みと比べると陳列されている見た目もすっきりしています。

 日本人には”パック詰め”が合っているのかもしれませんが、生産者のことを考えると必ずしも良いとは言えないのではないでしょうか。

 

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?