神々を日に透かして【インド細密画展】
11月にインド細密画を見に府中市美術館へ行ってきた。
東京とはいえ、なかなかに遠いところにあるため出不精には腰が重い。行きたいけど遠いなあどうしようかなあと悩んでいたところに、本企画展の図録の写真がSNSで流れてきて一目惚れ。これは絶対にゲットしなくては、と平日に有給を取り、バスが出ている武蔵小金井まで来たところで月曜休館の文字を見てUターン。はるばる美味しい担々麵を食べに行っただけの人になってしまった。
わたしへ、休館日は必ずチェックしてから予定を立てましょう。
ここの担々麺は本当に美味しいのでおすすめです。
気を取り直し、その週の本来の休日にもう一度リベンジした。
バスから降りて少し歩くと信号があり、渡るとすぐに美術館が見えてくる。
入り口付近に写真映えしそうな大きいパネルがあった。観覧にしては遅めの時間だったため人がおらず、綺麗に写真を撮ることができた。
企画展のメインビジュアルとなっているのは、インドでは最高神の一柱とされているヴィシュヌとその妻である幸運の女神(ラクシュミー)を描いた微笑ましい細密画だ。
企画展の内装はインドのピンク・シティと呼ばれるジャイプールを彷彿とさせた。
ジャイプールはこんな感じ(リンク先)
https://www.jtb.co.jp/kaigai_guide/report/IN/2018/06/india-pink-city.html
ムガル絵画とラージプト絵画
細密画は大まかにムガル絵画とラージプト絵画の二種類に分けられる。目録を見れば正確な数字を出せると思うが、体感では7割くらいがラージプト絵画だった。
今回のコレクションでは少数であったムガル絵画はどことなくイスラームの宗教画を想起させるような画風だ。実際にペルシャの画風に影響を受けている。透き通るような髪や髭、女性の流れるような衣などが印象的だ。
対して、ラージプト絵画はムガル絵画よりもパッキリとしていて力強いタッチで描かれている。マハーバーラタ、ラーマーヤナの二大叙事詩や、クリシュナやヴィシュヌなどの神々を主な題材としているため、我々が見慣れているのはこちらの絵画だ。
どちらの絵画も金箔を溶かした金の絵の具が服の装飾部分などに使われているが、光の反射で見ないと実際に金かどうかはよく分からない。テレ東のナナナの姿勢になっている人が自分含めチラホラ見受けられた。
どの絵画も細かい模様まで繊細に描かれており、見応えがある。しかし、その描き込み具合を見るには絵のサイズが小さいため自分自身が絵にかなり近づく必要がある。展示では壁に掛かっている状態だが、インドの細密画は本来手に取って鑑賞する絵画だ。
日に透かしキラキラと輝く金色を楽しんだり、鼻息がかかるほど顔を近づけ米粒よりも細かな模様をじっくり堪能する……私たちにはそのような鑑賞はできないが、葉や小さな紙に書かれた絵を眺めていると当時の人々の様子までもが目に浮かぶようだ。
独自の絵の具
細密画を見ていると、特に目を引く色がある。それは太陽のような鮮やかな黄色と、ビビッドな赤。
それぞれ、インディアンイエローとインディアンレッドと呼ばれる。
インディアンレッドの原料は鉱石だそうだが、衝撃だったのはインディアンイエローの原料だ。
なんと…。
・・・・・・・・・・・・・
牛のおしっこ
!!!!!!!
この解説パネルを見た瞬間、小学生みたいな顔になってまじまじと黄色を眺めてしまった。それにしても、ただのおしっこにしては鮮やかな黄色だな…と思っていたら、製法も驚くべきものだった。
①まず、元気な牝牛にマンゴーの葉だけを食べさせます。
②水も飲ませます。
③おしっこが黄色くなるので取って煮詰めて濾して乾燥させて絵の具にします。
④マンゴーの葉は牛には毒なので、牛は早死してしまいます。
そ、そんな……。
人間もチョコラBBなどのビタミン剤を飲むとおしっこが黄緑色になるが、毎日3食それを続けるようなものかもしれない。製法禁止になったのも頷ける。
とはいえ、現代で三大美食とされているフォアグラもガチョウに過食させて太らせるので、そちらは禁止になっていないのが不思議だ。結局は食べてしまうから同じという考えなのだろうか。
インドでは牛は神聖な動物として扱われており、牛を食べることはまずない。逆に、神聖な動物の身体に悪いマンゴーの葉を食べさせるのは良いのか?というのは疑問だ。身体に悪いことをさせていると気づく人がいなかったのか、インド人にとっては普通の感覚だったのか。どちらにせよ今となっては幻の顔料で、現代ではお目にかかれないイエローだ。
神々を描く
インドではクリシュナは非常に人気のある神だ。それは時代が異なっても変わらぬようで、今回クリシュナを題材にした絵もたくさん見ることができた。
インドではよく青い肌で描かれていることが多いが、クリシュナに関して言えば「実際はかなり黒い肌をしているが、絵画の表現として神聖とされる青色で描かれる」というものだ。実際に肌が青いわけではない。
マハーバーラタの絵もたくさん見られたので個人的には満足だ。私はラーマを助けるために薬草の生えている山ごと運ぶハヌマーンの絵が大好きだ。巨大化しても無理がある気がする、運んでもそこから薬草を探す手間がまたあるだろう?!と突っ込みどころはあるが、豪快さと発想のスケールが大きくて好きだ。見習いたい。
音楽を描く
肖像や叙事詩、神々を題材にするほか、音楽を細密画の中に閉じ込めているものがある。
ラーガマーラと呼ばれ、インド細密画特有の題材だそうだ。
絵自体は演奏している様子が描かれているものが多い。空や建物の空間に音楽が溶けているようで、穏やかな雰囲気の絵だ。
以上、個人的な備忘録としてざっくりまとめたが、見どころについては特設サイトで詳しく紹介されている。
帰りに池を眺めて帰った。鴨が何匹もスイスイ泳いでいる。
見知らぬ男性が鴨の気を引こうとその辺に生えている草をぶちぶちむしって投げ入れていたが、餌じゃないことを見抜かれておりガン無視されていた。
図録
売り切れを心配していたが、図録を無事手に入れることができた。この装丁で2千円は安いと思う。図録を買うのも企画展を見に行く楽しみの一つだ。
以上、インド細密画展の感想でした。
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