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改正電子帳簿保存法に対応する索引簿の作成をZapierで効率化しよう!

この記事はM&Aクラウド アドベントカレンダー 2021の18日目の記事です。

2021年の流行語大賞はメジャーリーグの大谷翔平選手にちなんだ「リアル二刀流/ショータイム」でした。改めて語るまでもありませんが、多くの方々が納得する活躍だったのではないでしょうか。大谷選手と同学年の私も、海の向こうで次々と記録を作るその姿に大いに刺激を受けました。
自己紹介が遅れましたが、私はM&Aクラウドで経理や上場準備業務を担当している公認会計士です。弊社のアドベントカレンダーでは「テック」をテーマにする縛りがあるため、この記事では「テック×経理」という切り口で書いてみようと思います。

昨今の経理周りのトレンドを振り返ると、大小さまざまな出来事が脳内を駆け巡ります。されど2021年に限って言えば、「改正電子帳簿保存法(以下、改正電帳法または電帳法)」が流行語大賞と言って差し支えないでしょう。良くも悪くも経理周りを騒がせた改正電帳法について、この記事ではテクノロジーを活用して効率的に対応する一つの選択肢を提案しようと思います。

注)この記事はあくまで経理実務に役立てるための一案として提示しているものにすぎず、その内容の正当性について関係省庁や外部の専門家に照会したわけではありません。予めご了承ください。

改正電帳法の概要

改正電帳法といってもほとんどの方にとっては馴染みがないでしょうから、まずは今回の記事に関係する部分を非常にざっくりと説明します。なお、詳細な説明はこちらのサイトによくまとまっています。今回はその中でも、電子取引の保存要件への対応について取り扱います。

今回の改正に伴い、電子データで授受した証憑について紙面での保管が認められず、原則としてデータで保管することが義務付けられました。データで保存するといっても、内容を改ざんできてしまったり、そもそもどんな取引があるのか把握できなければ意味がありません。そこで、電子取引の保存に際しては①真実性の確保②可視性の確保が要求されています。

具体的な要件の内容については割愛しますが、中小企業に限っていえば、①についてはデータの訂正・削除の防止に関する事務処理規程の備付及び運用、②については「取引日、取引先名、金額」での検索可能性の確保、により対応するケースが多いのではないでしょうか。国税庁が①の事務処理規程のひな形及び②で検索するための索引簿のひな形を公開していますので、そちらを応用するケースが多いと思います。

注)令和4年度税制改正大綱において電子取引の保存要件に関する2年間の宥恕措置が設けられることとなりました。しかし、措置を受けるためには一定の要件が必要となるため、受けられない場合に備えて何らかの手はずは整えておくのが望ましいのではないでしょうか。

索引簿の更新がめんどくさい問題

と、ここまで書いたは良いものの、多くの経理担当者はこう思ったのではないでしょうか。

「いちいち証憑を保存して索引簿を更新するのがめんどくさすぎる」

様々な経路で入手する証憑を、一つのスプレッドシートにまとめていくわけですから、その手間は容易に想像がつきます。そこで、タスク自動化ツール「Zapier」を使って、請求書の保存から索引簿の更新までがGoogleフォームへの回答一つで済むような仕組みを作ってみました。紙面の都合もありますので、今回は国税庁のひな形に対応した簡素なものをお届けします。なお、Slack及びGoogle Workspaceを導入していることが前提です。

※Zapierの詳細については適当にググってください。非常に雑にまとめると、「単一または複数ツール間での処理を連携させることで、タスクを自動的に処理してくれるサービス」みたいなイメージを持っていただければ良いかと。

効率化する作業の内容

この記事で紹介した内容がうまく機能した場合、担当者の業務フローは以下の3ステップになります。
A. Googleドライブの特定のフォルダ(以下「証憑格納フォルダ」)に証憑が保存された旨のSlack通知を受け取る。Slack通知にはGoogleフォームへのリンクと証憑のURLが記載されている。
B. Slack通知のリンクからGoogleフォームと証憑を開き、フォームに取引情報を入力する。
C. Googleフォームの内容をもとに索引簿が更新されたことを知らせるSlack通知を受け取る。

A.からC.を読んでお分かりのように、担当者がやるのはB.のGoogleフォームへの回答だけです。スプレッドシートを直接いじる必要もないですし、自分の手が空いていないときはSlackをそのまま誰かに転送すれば済むので、コミュニケーションコストが大きく下がることが想像できると思います。

完成系のイメージがついたところで、具体的にどのようにZapierを活用するかを説明します。Zapierで自動化する処理のかたまりをZapと呼びますが、今回は処理工程を以下の①、②、③に分解し、各ステップごとにZapを作ります。
①メールに添付された請求書をGoogleドライブの証憑格納フォルダに自動で保存する。
②証憑格納フォルダに新しいファイルが追加されたら、ファイル名とURLを索引簿(スプレッドシート)に書き出し、Slackで経理担当者に索引簿の入力フォームを送る。
③入力フォームの回答内容をもとに索引簿を更新し、Slackで完了通知をする。

下表のとおり、①と②が業務フローのA.に対応し、③が業務フローのC.に対応します。それでは早速説明します!

表1:担当者の業務とZapの対応関係


⓪事前準備:Gmailのフィルタリング設定と索引簿の入力フォームを作る

Zapierでタスクを自動化する前に、いくつか事前準備をしましょう。まずは、定期的に届くメールに特定のラベルをつける自動フィルタリングをGmail側で設定しましょう。以下①では、ラベルがついたメールを受信したら添付ファイルをGoogleドライブに自動で保存するZapを作ります。そのためのトリガーとなるラベルを準備しておく必要があります。

続いて、索引簿の入力フォームを作りましょう。すでに説明している通り、このシステムでは経理担当者は索引簿のスプレッドシートを直接編集することはせず、Googleフォームのみで手作業が完結します。
受領した証憑の情報をGoogleフォームで回答させることで、スプレッドシートの堅牢性を高めるとともに、他のメンバーに作業を依頼する際のコミュニケーションコストも低下します。

図1:Googleフォームの例。国税庁のひな形に最低限対応したシンプルなものなので、必要に応じて支払期日や源泉徴収の有無等を追加していくと色々捗ります。

①メールに添付された請求書をGoogleドライブの証憑格納フォルダに自動で保存する

⓪事前準備でラベルの自動付与設定をしたと思いますので、ここでは「特定のラベルがついたメールに添付されたファイルをGoogleドライブにファイルをアップロードする」というZapを作ります(図2)。

図2:特定のラベルがついたメールの添付ファイルを自動保存してくれる君

1. New Labeled Email in Gmailで、特定のラベルが付せられたメールを受信したことをトリガーにこのZapが動くよう設定します。
2. Only continue if… で、メールの添付ファイルが0以上の時に処理を続けるようにします。添付ファイルがなくメールをPDF化する必要がある場合や、メールに記載されたリンクから請求書をDLする場合は手作業が発生しますが、Slack通知を送ることで処理漏れを防げます(詳細は割愛します)。
3. Upload File in Google Driveでメールに添付されたファイルをGoogleドライブの特定のフォルダにアップロードします。普段使っている証憑格納フォルダを指定すると良いでしょう。

②証憑格納フォルダに新しいファイルが追加されたらファイル名とURLを索引簿スプレッドシートに書き出し、Slackで経理担当者に索引簿の入力フォームを送る

次に、Googleドライブに追加されたファイルの内容を索引簿に書き出すとともに、経理担当者に内容を確認してもらうようSlack通知を送りましょう(図3)。
これは①の3. Upload File in Google Driveの続きのステップとして設計することもできますが、メール以外のチャネルから請求書を受領することもあるでしょうから、別のZapを作るのが良いと考えています。

図3:索引簿にファイル情報を記録してIDを付与しSlackで通知してくれる君

1.New File in Folder in Google Driveで、証憑格納フォルダにファイルが追加されたらこのZapが動くよう設定します。
2.Create Spreadsheet Row in Google Sheetsで、証憑格納フォルダに追加されたファイルのファイル名とURLを索引簿スプレッドシートに書き出します。
3.Numbersで、この添付ファイルに対応する番号を採番します。2. Create Spreadsheet …で、スプレッドシートの何行目に追加されるかがわかるので、そこからヘッダーを考慮して1を引いた数を番号にします。たとえば、一番最初に追加した請求書はスプレッドシートの見出しのすぐ下、すなわち2行目に記録されますから、2-1=1をIDにします。
4.Update Spreadsheet Row in Google Sheetsで、3.Numbersで取得したIDをスプレッドシートに書き出します。イメージがつきにくい方は下図4をご覧ください。

図4:ステップ2~4の情報が索引簿に反映された様子。
B~E列の情報は担当者がGoogleフォームで回答します。

5. Send Channel Message in Slackで、担当者に索引簿を更新してくださいという通知を送ります(図5)。この通知には図3のB~E列に対応する内容を回答するGoogleフォームのリンクを仕込んでおきます。これにより、担当者の作業はフォームに回答するだけになります。スプレッドシート上の誤った場所に更新される恐れもないですし、他のメンバーに作業を依頼する時もこのメッセージを転送すれば済みます。

図5:担当者へのSlack通知

③入力フォームの回答内容をもとに索引簿を更新し、Slackで完了通知をする

最後に、Slack通知を受け取った担当者がGoogleフォームに回答したら、その内容を索引簿に反映するZapを作りましょう(図6)。

図6:フォームの回答を索引簿に書き込んでくれる君

1.New or Updated Response in Spreadsheet in Google Formsで、Googleフォームへの回答をトリガーにこのZapが発動するよう設定します。
2. Lookup Spreadsheet Row in Google Sheetsで、更新する索引簿の行を特定します。1. New or Updated Response…で証憑番号を取得していますので、それをキーにして検索するように設計すると良いでしょう。
3. Update Spreadsheet Row in Google Sheetsで、Googleフォームで回答した取引先情報や金額を更新します。更新後の索引簿は下図7のようになります。

図7:Googleフォームで回答すると
自動で索引簿が更新される様子

4. Send Channel Message in Slackで、索引簿の更新が完了したことを担当者に通知します。下図8のようなメッセージを送ることで、担当者は問題なく索引簿が更新されたことを知れますし、必要があれば索引簿自体を確認することもできます。

図8:索引簿が更新された後に送付されるSlack通知

以上で完成です。証憑の保存、取引情報の入力、索引簿の更新、という3つの作業ごとにZapを作成することで、担当者はGoogleフォームに回答するだけで索引簿を更新できるようになりました。やったね。

おさらい:担当者目線での業務フローはこうなる

ここまで長々と書いてしまいましたので、このZapを作ることで担当者の業務がどのように変わったのかをおさらいしましょう。記事の前半でも書きましたが、担当者の業務フローは以下の3つに分解されます。

A. Googleドライブの特定のフォルダに証憑が保存された旨のSlack通知を受け取る。Slack通知にはGoogleフォームへのリンクと証憑のURLが記載されている。
⇒Zapierがメールの添付ファイルを検知してGoogleドライブに自動保存してくれるので、担当者はその通知を受け取ります。(下図参照)

図5(再掲):担当者へのSlack通知

B. Slack通知のリンクからGoogleフォームと証憑を開き、フォームに取引情報を入力する。
⇒担当者が実際に手を動かす部分です。証憑を見ながら入力フォームに情報を打ち込んでいきます。スプレッドシートを開いて該当箇所を探す手間が省けますし、誤った場所に入力するリスクもありません。(下図参照)

図1(再掲):Googleフォームの例。

C. Googleフォームの内容をもとに索引簿が更新されたことを知らせるSlack通知を受け取る。
⇒Googleフォームの回答内容をもとにZapierが索引簿を更新してくれます。通知文に取引情報を記載することで、わざわざ索引簿を開かなくても更新内容を把握できます。(下図参照)

図8(再掲):索引簿が更新された後に送付されるSlack通知

これで担当者の作業は完結します。業務が効率化されるイメージを持つことはできたでしょうか?気になった方は早速Zapierを使ってみよう!(※回し者ではないです)

もっと知りたいorさらに活用したい方向けに

以上がこの記事の本旨です。ここまで書いてきましたが、各ステップの詳細な設計内容や実務上ありがちな論点への対応等、書ききれないことが実はまだたくさんあります。詳細な内容を知りたい方は記事の下部にあるコメント欄にコメントいただけると幸いです。

ちなみに、このZapを応用することで、他のバックオフィス業務も自動化できます。例えば、Googleフォームの回答項目に源泉徴収税額や支払期日、支払経路などを追加すれば、索引簿から支払管理表を自動で作成できます。また、取引先マスタ及び取引先別の仕訳テンプレートと連動させることで、クラウド会計ソフトへの仕訳インポートも効率化できるでしょう。自社の業務に合わせてカスタマイズしていけば、それだけ業務の効率化も進むはずです。

M&Aクラウドにはテクノロジーに敬意を払う文化がある

入社時の私は会計がちょっとわかるくらいのスキルしかなく、M&Aクラウドで使用するツールはどれも初めて触れるものばかりでした。今ではZapierをフル活用して無駄な業務を自動化したり、GASで月次決算の早期化を実現したりしています。こういった取り組みができるのも、エンジニアであるかを問わずテクノロジーに対して敬意を払い、その活用を奨励する文化があるからだと思っています。

ということで、こんな感じの会社に興味がある方はぜひ採用サイトをのぞいてみてください。

明日のアドベントカレンダーはMACAPの福田さんです。

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