【書籍】「日米地位協定」山本章子著

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日米地位協定について客観的な観点から整理された本。

著者の問題意識は「日米地位協定の運用改定の可能性」に向けられている。ドイツやイタリアが地位協定を改定していったのは、NATO(北大西洋条約機構)軍の域外派遣に協力しながら、改定を成し遂げた。「憲法九条とこれを支持する世論のもとで防衛関連の法律の整備が不十分」な日本とは状況が異なる、というのが著者の指摘。

著者は、「日米安保条約の根幹的な問題とは、同盟関係を規定する条約と基地協定が一体となっていること」だとも指摘する。米軍の撤退は同盟関係の解消となる。そのため米兵による不祥事が、地位協定の改定にはつながらない。1990年代の北朝鮮核危機をめぐって日本の役割が再確認された時期は、「新しい同盟関係を構築するまたとない機会だった」が、基地の移転が提案されただけで、今日に至っている。

日本政府が「地位協定」の問題に及び腰である背景に、官僚制の問題があるのではないか。日米安保の存在意義が薄れるのを恐れる外務省と、米軍維持を第一とし自省権益拡大を図る防衛省の対立。国民・県民の為と言う視座に欠け、国全体の指針を決めるにも危ういといえる。

国家の安全保障を主軸に定める「安保条約」と比較して、「地位協定」はもっと社会面や生活面への影響を及ぼす範囲を定めている。それにより、対象となる問題のレイヤーが異なることも「地位協定」の問題が地域の話になりがちで、国政まで上がってきづらい背景といえるだろう。

地位協定は、日米安保体制を中核とする日本の安全保障の仕組みに根差した深い問題だが、著者が本著を執筆するに至るのには沖縄に対する深い愛と感謝が背景にあるというのが個人的には好きなポイントである。

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