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光の邑の住民たち 8

暫定政府の約束どおり1か月以内に僕たちの元にも1000万円の支給がありました。妻と二人で2000万円です。僕たちは子供もなく2人だけの生活なので、4,5年は働かなくても普通に生活できるでしょう。それに、健康や治療、福祉に関する費用の他、公共性のある費用は無料になっています。フリーエネルギーのため、電気代などの光熱費も支払いの必要がありません。だから、実際は、10年位は生活できるのかもしれません。

支給方法は、案外簡単な方法が用いられました。シンプルにクレジットカードの配布でした。個人の口座は、相変わらず凍結されたままですが、どこのATMでも使用できるカードが各自に支給されました。このカードで買い物もできます。上限は1000万円ということです。なのでプリペイドカードとクレジットカードの機能が付加されたようなものです。ホームレスの人々にも配布されました。彼らは、早い時期に住まいを割り当てられたので、この時期には、実質はホームレスという存在はいなくなっていました。環境の差はありますが、どこかで食べ物と住まいの心配のない生活を送っていました。

それなら、過剰にカードを受け取る人が出てくると心配されるかもしれませんが、皆無とは言いませんが、そういった人はあまりいませんでした。なぜなら将来的に経済の心配がなくなったのです。ならば、財を蓄える必要もなくなったのです。カードの支給は今回限りではありません。必要な時期にまたもらえることになるようです。ただ、近い将来に今の経済システムと違った形で取引ができるようになるので、今のカードはスピードを重視した暫定的な処置だそうです。新しい経済システムは、だんだんと銀河の社会に近づいていくそうです。

仮に自分の欲を優先して、余分な財を蓄えようという人がいるとすると、そういった人は、滑稽な姿としてお笑いのネタにされていました。割と早い時期にお笑い番組は、復活していました。いつの時代も笑いの力は、生活に活力を与えます。ただ、笑いのツボは随分と変わってきたように思います。競争という意識がなくなってきたので、ストレスがなくなり、人を見下したような笑いやいじめもなくなってきました。人々の笑いのツボは様々でしたが、誰もが嫌な気にならない笑いが増えたように思います。そして社会は笑顔にあふれだしました。また、宇宙人ネタも多く語られるようになりました。宇宙人の存在を認めても、過去の、宇宙人=侵略者というイメージは、人々の深層に深く刷り込まれていて、その洗脳を解くには、少し時間がかかるようです。ネタにされるのも、人々の不安の対象だったからかもしれません。解放の日以来、人々の前にプレアデス人らが公に姿を現すことはありませんでした。

結局、僕はあれから1度も出勤しませんでした。資本主義が崩壊して、会社経営の目的がなくなり、多くの企業が停止しました。反対に個人商店や農家等は、かわらずに働いています。僕の会社は印刷業なので、様々な資料やポスターやチラシ等、新しい社会に必要な印刷物を役所が求めていたので、業務は存続していました。しかし、サラリーを得る必要がなくなった社員の多くは退社しました。僕もその一人です。逆に社員不足を補うため、求人を求めたところ、働きたい人が集まってきました。所長は、そのまま残っています。急に仕事を失った人々は、人生を過ごす時間を持て余し、なんらかの労働を求めている人も少なくありませんでした。一方、仕事の他に趣味やボランティアに精を出す人も多くおりました。遊んで暮らせるとなっても、遊びっぱなしというのは、なかなか難しいもののようで、これを貧乏性といってよいのかわかりませんが、そんなこともお笑いのネタになっていました。

僕はというと、余暇を利用して合気道の道場を運営していたこともあり、今は合気道の稽古に多くの時間を費やしています。実は柚木さんとの出会いは、合気道だったのです。今から4年前に、彼は僕の道場に来られ稽古を始められました。柚木さんは、50歳を越えてからの入門だったので、最初は、なかなか体力がついてこず、膝や腰を痛めていました。今でもときどき、テーピングを巻いて稽古をされています。

柚木さんとは、稽古の他にもプライベートの時間に、一緒に飲むことが多く、合気道の話や、私的な話までする間柄になりました。僕は柚木さんの人柄に惹かれ、兄のように慕っていました。彼は、いわゆるスピリチュアルな事に理解が深いようで、詳しい話は聞いたことがありませんが、いろいろと相談事を持ちかけると現実社会と精神的な観点からの両方から、的確なアドバイスを頂けることが多かったです。今回の解放の日の1週間も、さすがにあんなことが起こるとは聞いていませんでしたが、柚木さんのアドバイスがあってさほど苦労なく過ごすことができました。

合気道の稽古は、相変わらず続けています。やはり、合気道を人々に伝えることが、僕の使命だと思っていますから。そして、ある日の稽古の後に、柚木さんから、キャンプに行かないか?とお誘いを受けました。

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