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月の時代

「見ろ、一つの惑星のこれが最後だ。」
その惑星が、かつてたくさんの生命を育んだ形成は跡形もなく、もはや破局を意味する火山の爆発もすべてを飲み込む洪水もそこにはなく、ただ砂漠のように荒涼とした大地だけが存在し、大気も失われていた。

「たくさんの人々が死んだ。」ヒタチは呟いた。
「ヒタチよ、仕方のないことだ。この星はその使命が終わったのだ。
いくつかの人間の魂はこの星で進化をとげた。多くの人間は救われなかったが、その魂はまたいつかどこかの星に転生するだろう。」

その星は、人類を生み出し文明を築きそして最後に破局とともに死を迎えた。
「私は、また多くの人間を救うことができなかった。」又、ヒタチは呟いた。
「それが法なのだ。ヒタチよ、お前もわかっているはずだ。我々天使は、神の御心に従い、その愛によって人類を進化へと導き救済にすべてを捧げている。しかし、それがかなうかどうかは、人類一人一人の魂次第なのだ。」
ヒタチの横に並び、天からその星の最後を見届けながらラムスは、諭すようにヒタチに語り掛けた。

「慈悲深き天使、ヒタチよ、退化した人類を救うのは簡単な事ではない。多くの天使がその慈悲ゆえ嘆き悲しんだ。それが天の定めなのだ。動物界では、多くの卵から生命が生まれるが、成人するのは一握りだ。魂もまたしかり。
見よ!ここにいる進化した魂を。彼らを祝福しようではないか!」

ふとヒタチは、ラムスの言葉が冷たく聞こえるのだが、本当はラムスのほうが、はるかにこの星の悲劇を悲しんでいるのを知っていた。
「ラムス・・・」
「どうしたヒタチ。」
「いつかすべての魂を救おう。」
「ああ、必ずな。」
ヒタチとラムスは、悲しみを隠しながらもかすかにほほ笑んだ。

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