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21世紀の通貨は「時間」である

27歳独身。彼女なし。そこそこの大学を出て、つぶしの効かない仕事をしている僕が、紳士から教わったのは、まったく聞いたこともない新しい成功法則だった――。「学び方を学べ」「才能は幻想。すべては技術だ」「必要なことはすべて調達できる」「日本を解散せよ」……、5年前に刊行され「今こそ読むべき!」と話題の書籍を特別に無料で公開。事業家・思想家の山口揚平さんが、新しい時代の新しい成功ルールを紹介します。


「地方」で国造りをする生き方


「日本を1つの国として捉えると、借金も膨大で、どうしようもなく感じるけど、ブロックに分かれて、それぞれが独自性を持ってコミュニティを作っていけば、なんだかうまくいきそうな気がする!

「実際、地方再生の声があったり、大阪などは大阪都構想も挙げていたしね。ニュースを見ても、若い人が町興しに携わったり、生活費の安い地域で起業をしたり、アート的な活動をしたり。元気な人達がたくさんいる。君を暗淡とした気分にさせたトップニュースのあとによくやっているだろう?」

「そうですね。ある意味、自分の居場所を見つけている人達にも見えます」

「都市でくすぶっているよりも、よっぽど活躍の場があるかもしれない」

「じゃあ、もし国がブロック分けを始めるとして、僕個人はどうすればいいんだろう」

「ブロック個々を“国”と定義した場合、君はその国造りに携わるんだ。1つか2つの地域を選んで、早々にその国造りにかかわるべきだね。最近はIターンや、自分の出所とは関係ない地方の市役所なんかを志望する人もいるよ

「国造りかぁ」

「21世紀の仕事は、金を稼ぐこと、つまり経済にはない。共同体を作ることだ。機械がいくら進化しても、共同体を作ることはできない。それは人の仕事だ。国ができるまで20年はかかるだろう。まだ場所を決めていないなら遅すぎるかもしれない」

「遅すぎるって……これは妄想の世界ですよね」

 僕は今も出遅れているのではと、少し心配になる。

「世の中は得てして妄想が現実化してしまうものだよ」

「僕はどのエリアに行くべきか……」

「まずは日本を回ってみること。頼るのは、君の直観だ」

 理論的な話から急に「直観」なんて曖昧な話になり、びっくりした。

「直観は膨大な情報から本質を見抜く力だ。いちいちあらゆる情報を紐解いているほど、人は暇じゃない。しかし、人は情報を統合する直観力を持っているんだ。君のコミットする場所は、すぐには決まらないかもしれない。東京と地方をしばらく移動し、2拠点生活を送ることになる人だって増えるだろう」

 想像とはいえ、紳士の話はどこか具体的だ。

「エストニアだ」

「エストニア……?」

「ロシアから1991年に独立した小国で、世界最高の医療ITインフラを持っている。国を造ったのは当時30代の若者達だったからだ。この国の姿から、ビジネスや企業のような経済体だけを考えていてはだめだということがわかってくる。繰り返し言うよ。君達は、共同体を作らなければならない時代にいる。つまり、産業だけでなく、教育や福祉、法や市場、行政システムまで含めて造り上げる必要があるということだ」

 紳士は続けた。

「まぁ、もし、地方での国造りが現実化したら、日本は混乱の時期が訪れるだろうがね。それが嫌なら国外に出るのも一手ではある。でも、小さなコミュニティに属しながら、ネットワークでグローバルにつながることもできる。今後は、コミュニティでの立ち位置と、ネットワークでの立ち位置と、両方を持つ人が主流になるのではないかな。そのそれぞれで、自分の居場所を獲得するんだ」

「居場所ですか?」

「アメリカではトライセクターリーダーというのもキャリアの基本になっているよ。事業家でありながら、行政に務めたり、学者でもあったり。大物すぎる例かもしれないけど、オバマ大統領もそうだし、ブルームバーグも世界的な金融システム企業を作った後、ニューヨークの市長をやっていた。日本でも、被災地の支援団体で活躍しながら、会社員だったり、学者だったり、という人が増えたよね。会社員なら会社員、起業家なら起業家で一生を終えるなんて固定観念にすぎない。会社員が学者になったり、学者が起業したり、まったく自由なキャリアを作れる時代になってきていると思うよ。トライセクターキャリアは、今後意識していくべきだと思う」

「自分の食い扶持を稼ぐだけでなく、コミュニティのことまで責任を持つということですね。できるでしょうか?」

「できるとも。むしろ食べていくために、コミュニティを作ることが大事だと気づくだろう

「コミュニティ……」

コミュニティを強くすればするほど、お金を使わなくて済むからだ。お金は、コミュニティの、つまり価値観や人生を共有していない相手とコミュニケーションするための摩擦のいらない言語だからね」

「お金が言葉……。信頼している人なら本でもDVDでも、大金でないならお金も貸すけど、知らない人が借りる場合は、レンタルサービスもアコムもお金をとる。そんなことですか?」

未来に価値を生み出すもの、他人の幸福につながるものに「お金」を流す


「若者はすぐにお金を欲しがる。でもその前にお金とは何かを知らなければならない。お金はもちろん、経済活動のための言語の1つだ。しかも最強のね。お金の定義は、『信用を伴う数字』。数字というのは、世界70億人すべてが理解できる言語だろう。ゆえに、お金は最強言語であるとともに、最終言語であるとも言う。お金を調達することをファイナンスと言うだろう。あれは、ラテン語のフィニッシュ、つまり、人間関係の最後に使う言葉からきている。離婚の時は慰謝料を払うだろう(笑)。そういうことだ。
 それと、お金はただの数字ではない。“信用”を伴う数字だ。お金の信用を支えてきたのは、古くは、貝や金きん、今は国家、そしてこれからはアルゴリズムだね。ビットコインなどブロックチェーン通貨が流行している背景には、国家の凋落があるんだよ。でも、そういうアルゴリズムの堅牢性を信用の土台にする時代は長く続かない。通貨は、国家や金と違って、いくらでも作れてしまうからね。結局、信用の土台は、個人(individual:分けがたい個体)に返ってくる。個人の信用と、その数字、つまり『時間』が通貨になるだろう。
 だから君は、今のお金を貯めようとするな。お金は流し続けなさい。未来に向けて、価値を生み出すものに向けて、他人の幸福に向けて。そうすれば君は信用を作ることができる。君という個体の中にね。そして、その個体の時間を大事にしなさい。健康はそういった意味で大切だ。いいかい? 21世紀の通貨は君の時間そのものだ。これを忘れるな! いや、君はやがて時間さえも超えていくかもしれないがね」

 紳士は不敵に笑った。その笑いの意味は、その時の僕にはわからなかった。

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