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瓶の沈黙

「酒、探しづらくなったよな」

酒の瓶から、ほとんどの情報が消えた。酒の広告を禁止する政策がさらに厳しくなり、酒の種類、名前、その他の付加的なイメージを記すことが一切禁止されるようになったのだ。

大きく「酒」とは記載される。瓶の形もすべて統一され、褐色の瓶であり、中の色も容易には判別できない。

ただ、数字とアルファベットによる識別は可能だ。

「a0543f455を探していてね」

「俺はg05405r221だ」

酒屋には、これといった並べかたの決まりもなく酒が並べられている。

一度おいしいと思った酒を二度目に探すのが難しくなるのが難点だ。ただ、新しい酒に出会える喜びもあるのだが。


おそらく、生産中止になったのだろう。私はあの酒に二度と出会っていない。

この悲しみを共有できない。番号は地域ごとに管理されているので、私の地域であの酒を気に入った人はそんなにいないだろう。全国にはいるだろうが、番号が違う。

幻の名酒となってしまった。私だけの。


それでもあの酒を求めて、また褐色の瓶を買ってしまう。政府の思惑とは異なって、酒量はずっと増えてしまったような気がする。


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