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 ええ、こう見えても母ですの。子供の父親?いませんよ。あいつは父親の話ばかりしますけれどね。父親を尊敬しているらしいから。ひそかに連絡を取っているようですけれど、あたしはずっと会っていません。牧場とかやっているとかいったかな。でもヤクザもんですよ。子供がどんな悪いことをしてもすぐに許してしまいますから、息子も図に乗るんです。よくごはんとか食べさせてもらっているんじゃないかな。あいつの父親は、ねだられたらものはすぐに与えますから。

 そんなことはどうでもいいんです。今言ったその息子のことですよ。あたしの子。あの子ったら、ちょっと悪い仲間とつるんでいましてね。お金の取り立てをやっているような子とか、あと漁師町にいるので、ガラの悪い漁師の子が多いんです。ただ、そんな連中を統率しているのはうちの子みたいなんです。かなり大きなチームのようですよ。

 みんなでいつも人気のないところへ行って馬鹿騒ぎをしているっていう。うちの子は、怖いもの知らずらしいですよ。仲間たちにも「うろたえんじゃねえよ!」って一括するって言いますから。この前なんか湖が風で荒れている時に仲間内でボートに乗ったって言うじゃありませんか。そのお仲間の一人からこっそり聞きましたけれど、みんながワーワー騒ぐ中で、うちの子だけがまったく平気で、しまいには寝てしまったっていうんですから。命を落とす危険性だってあったと思いますよ。少しは怖れっていうものを覚えてほしいもんです。


 いやいや。でもそんなことはいいんです。そういったことついては、昔からそういう子だったなって、私も割り切っているんです。小さ頃から言われていたんです。この子は将来、とんでもないことをしでかす、ってね。こういうのが本当の、札付きって言うんでしょうね。


 そんなことよりもその口の利きかたですよ。仲間内でエラそうにしているのが、実の母に向かっても出るんでしょうねえ。あたしなんかもう、バカにされています。お母さん、なんて呼ばれたことは一度もないんですから。いつも「ババア」ですよ。


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 それで頭にきたのが、この前あたしが友達とパーティーをしていたときのことですよ。酒が切れたんで、あたしがあいつに「おい、酒がねえよ。あんたもちょっと気を利かせな」って言ったら、あいつなんて言ったと思います?「おいババア。あんた誰?」ですよ。ええ?それで結局水しか持って来ねえでやんの。

 うるせえ、とか、くそばばあ、くらいならまだね、あたしも聞き慣れていますよ。それだって充分頭にきますけれどね。あたしだって若い母ですからね。そりゃあ人間ができていないところはありますよ。

 だけど「あんた誰?」はないでしょう?お前こそ何様のつもりだって。ええ?お前は木の股からでも生まれてきたんかって。

 たぶんね、仲間の内じゃあカッコつけているから、メンツっていうんですかね、人前で親に何か言われるのははなんかカッコ悪くてしかたないんでしょう。だから悪ぶってみせたっつうかね。そんなところでしょ。ああ、ムカつく。友達にはこっそり耳打ちして、謝っておきましたけれど。


 話なんか合わないんです。「今日は何食べようかな?」とか「今日は何着ていこうかな?」なんてことを言うと、「くっだらねえことに頭を使ってんじゃねえよ!」ですって。なにそれ?これだから男の子はイヤなんですよ。あーあ、生まれたのが女の子だったら、もっと楽に育てられたでしょうね。


 怒らせると相当面倒ですね。先日も教会の前で暴れましたからね。縄張り争いだったみたいですよ。だからあたしは、「権利を主張したかったら、裁判に訴えるのがまっとうな人間のすることでしょうがっ!」って叱ったら「訴えたら訴え返されるからだめだろ」ですって。とにかく弁が立つんです。政治家にでもなればいいのに。

 それからすぐに口癖で「反省が足りねえようだな」とか言うんです。あれも始まると面倒くさいんですよ。


 こんな文句ばっかり言っていますけれどね。息子のことは心配ですよ。子供達の仲間も、あたしには丁重にあいさつしてくれますけれどね。あたしは普通の女ですから。息子がいつか抗争とかに巻き込まれて、危険な目に遭うんじゃないかって気が気じゃないんですよ。


 十字架に磔にされやしないかな。




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