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第一回 吟遊根多アワード

さあ、自然対数乃亭吟遊がお送りします、第一回、吟遊根多アワードです。

この個人企画の募集要項は

1 落語・講談、等の根多であること(色物は不可)。未発表、既発表は問わない
2 投稿者は、自然対数乃亭吟遊であること

というものでした。厳しい条件を課したにも関わらず、たくさんの応募がありました。


・・・えー、冗談です。逆佐亭祐らくさんのこちらの企画に参加です。自分を褒め称えます。


それではさっそく行ってみましょう!


10位

【三本の矢】(落語)

長屋の三馬鹿が面倒見のいい大家にご馳走にお呼ばれする。だがそれは説教もセットだ。三人がいい加減に聞いていると大家はへそを曲げる。それをなだめた流れで、知ったかぶりの大家の出鱈目なうんちくを聞かされることになるが・・・


『やかん』や『ちはやふる』に出てくる先生のように、なにかを聞かれて口から出まかせのうんちくを語る大家の噺。さりげなくこれらの落語に並べてかけたら、古典だって勘違いされないかしら。


9位

【ビューティフルマインド】(講談)

数学者ナッシュは、学者として優れた業績をあげ、妻と出会い、精神病に罹患って奇行に走り・・・彼の壮絶な人生を描いた大作(全6話)。


これは、患者家族会である『アリシアの会』さんに捧げた作品。連続でかけていた最中にナッシュ先生が亡くなったので、その死の様子をそのままエンディングとして採用した。人が人に添い遂げる、ということの意味を考えさせてくれる作品だ。


8位

【現世根問】(落語)

落語でおなじみの先生と八つぁんが登場。八つぁんが知ったかぶりをする先生に「空はなぜ青い?」「宇宙の果てはどうなっている?」といった、子供が大人に聞きそうな、でも答えるのが案外難しいことを聞く根問もの。


数理の話をからめた数理落語。落ちが好き。


7位

【華麗なるギャッツビー】(講談)

戦争に行って帰ってきたギャッツビーは、大富豪となって元カノのデイジーの前に現れる。だが彼女はすでに人妻であった。彼女を自分のものにしようとした彼は・・・


動機づけ面接というものを説明するために作った講談。これは動機づけ面接の創始者ミラー先生の前でかけたことがある。(ただ、通訳の人がそんなにできる人ではなかったので、たぶん伝わらなかったと思われる)

ギャッツビーのセリフが「強めの聞き返し」になってしまったためにデイジーを動機づけるのに失敗してしまった、というところに目をつけたのが流石。


6位

【都々逸廻し】(落語)

お笑いコンビの藤林と中畠が、都々逸芸人としてブレイクすることを企み、ネタを作るが・・・


note仲間のさや香姐さんが都々逸が好きというので試しにいくつか作り、その勢いでこれも作った。

吟遊はこういう都々逸のようなものを作るのが得意なのだが、それを根多にするというのがまたすごい。このサゲは、滅多に作れるようなものではなく秀逸。

藤林・中畠という名前も、オリエンタルラジオの藤森さんと中田さんから来ている。気づかれてネタバレするかな?と思ったが、今のところ気づいた人はいなかった。


5位

【烏鷺の争い】(落語)

人里離れたところにある家の前に『烏鷺の争い いざ、勝負』と書かれた看板を見て、鳥がいると勘違いした男が立ち寄り、老人に囲碁の相手をさせられる。男は囲碁が強く、老人の代わりに、NHKの受信料をかけた勝負に参加させられることに。すると集金人が連れてきたのは、NHK杯に登場する名人であった。


新作落語らしい作品。地口落ちもスマート。


4位

【SWEET MEMORIES】(落語)

探偵の白鳳と裕太がバーでジョニ黒を飲みながらする会話と回想シーンから成る。白鳳は検事をしていたころに出会ったさや香という子と、再開した。かつて特殊詐欺のウケ子をして逮捕されたさや香は、今は新宿で詐欺を働いていた。子供が病気だと言う彼女に対し、白鵬は金を渡したが、それは嘘であったと分かる。


さや香姐さんの心灯杯第一回の応募作品。心灯杯についてはしばらく見逃しており、その存在に気づいてから慌ててジョニ黒を買いに行って、ひたすら松田聖子の"SWEET MEMORIES"を聞きながら近所を歩いて構想を練ったのを覚えている。

白鳳という主人公の名前は、企画の元ネタであるCMを作った博報堂から来ている。

とにかく、CMと音楽にある要素を散りばめまくって、姐さんに気に入られるためだけに作った渾身の一作である。


3位

【牡丹燈籠 お札はがしーー解決編】(講談)

依田豊前守の組下の御用聞、石子伴作、金谷藤太郎の二人の会話から成り立つ。石子たちは、牡丹燈籠の一連の事件ーー萩原新三郎が殺される騒動ーーの真犯人、新三郎の奉公人の伴蔵をお縄にかけたところであった。石子の口から、なぜ新三郎を殺したのがお露の霊ではなく伴蔵だと気づいたのかが明らかにされる。


ミステリー仕立ての講談である。こういう人怖は、私の好みである。落ちもビタっと決まっている。

ちなみにこの作品にはまだ秘密がある。事件に関わるもっとも重要な登場人物をまだ出していないのだ。

その人物を出したシリーズ作品を作ることを考えている。


2位

【級数そば】(落語)

1+1+1+1+1+1+1+1+……= -1/2 これは解析接続ということをしたときに得られる数学上の真理であるが、当然ながら嘘である。これを利用して夜鷹そばの支払いで詐欺を働いた男がいた。それを見ていた男が真似をするが、見事に失敗する。


時そばの、数理落語によるパロディーである。セリフの中に、+ - × ÷ を巧妙に混ぜ込んだり、素数を喜ぶといった言葉遊びにも溢れており、数学の元ネタと落語の両方が分かっていると、たまらない作品。


1位

【立坪算】(落語)

理系の兄貴分が、瓶を買いに行く弟分に付き合わされる。バナッハ=タルスキの定理を用いて店員を騙し、安く瓶を買う。


壺算の数理落語パロディ。落ちも見事で好きな作品。切り分けてくっつけるだけで大きさを自由自在に変えることができるという奇異な数学上の真実、バナッハ=タルスキの定理をうまく使っている。

3.14ゴールドのところを、3ゴールドに値切るシーンで

「こいつゆとり教育世代なんだよ」

「じゃあ仕方ありませんね」

と店主が負ける、というくだりがたまらなく好きだ。


ちなみに瓶を買う噺なのに『壺算』というのは、勘定が合わないことを『壺算』と言ったかららしい。ならばこの噺もタイトルをそれなりに考えようと思い、体積を表す「立坪」という言葉を用いた。体積が重要な噺だからである。

さらに言うと、セリフの中では、「測度」に関することに触れられている。バナッハ=タルスキの定理を用いて形を変えたもの(空間)には、体積が存在しない。主人にそこに触れられると詐欺を働けないので、男は必死で体積の話を避けているのである。


私が数理落語で出すゴールドなどの通貨や、無理数を扱うことができるアナログコンピューターもここに登場させた。選択公理がOSのオプションになっているとか、アプリの名前が『樽空きくん』というのも、よくできている。分かる人には、「すげー!よく考えついたな」という遊びが満載である。




入れ損ねた作品もあり、真のベスト10ではないかも。書き換える可能性アリ。


#N1グランプリ2020

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