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【長編小説】 初夏の追想

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30年の時を経てその〝別荘地〟に戻ってきた〝私〟は、その地でともに過ごした美しい少年との思い出を、ほろ苦い改悛にも似た思いで追想する。 少年の滞在する別荘で出会った人々との思い… もっと読む
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#絵

【長編小説】 初夏の追想 7

 ――どのくらいそうしていただろうか。多分、一分間ぐらい、いや、わからない――なぜなら、…

【長編小説】 初夏の追想 8

 それから一週間ほどあとのことだった。私は午前中、居間で読書をして過ごしていた。祖父は、…

【長編小説】 初夏の追想 13

 ……心から気の合う仲間を見つけるということは、意外にも難しくて、その歳になるまで私はそ…

【長編小説】 初夏の追想 14 

 ――彼らとの交流が始まって、数週間が過ぎていた。そして、六月の声を聞くとすぐに梅雨が訪…

【長編小説】 初夏の追想 19

 ――あまりにも突然の、あの心地良い共同生活の破綻から、しばらく私は立ち直れないでいた。…

【長編小説】 初夏の追想 21

 パタン、と、扉が閉まった瞬間から、その部屋には私と守弥の二人きりになった。部屋の中は閉…

【長編小説】 初夏の追想 28

 ――守弥はパリで絵を描くうち、あるフランス人の画家から言われたそうである。 「君の絵は、クスノキ画伯の作品を彷彿とさせる」  と。有名な西洋画家であった祖父は、フランスでもよく知られていた。  ひとりだけではなかった。親しくなった日本人留学生の中にも同じことを言う者があったし、パリの画廊の目利きの画商や美術評論家からも何度となくそのようなことを言われるようになった。  守弥は、私に見てもらいたいものがあると言った。私たちは画廊の喫茶室を出て、ギャラリーのほうへ移動した。