【長編小説】 初夏の追想 28
――守弥はパリで絵を描くうち、あるフランス人の画家から言われたそうである。
「君の絵は、クスノキ画伯の作品を彷彿とさせる」
と。有名な西洋画家であった祖父は、フランスでもよく知られていた。
ひとりだけではなかった。親しくなった日本人留学生の中にも同じことを言う者があったし、パリの画廊の目利きの画商や美術評論家からも何度となくそのようなことを言われるようになった。
守弥は、私に見てもらいたいものがあると言った。私たちは画廊の喫茶室を出て、ギャラリーのほうへ移動した。