【長編小説】 初夏の追想 23
――祖父の離れに戻った私を犬塚夫人が訪ねて来たのは、その一週間後のことだった。祖父は篠田の画廊に用があり、出かけていて留守だった。
私は彼女を二階のバルコニーに案内した。
その日彼女は、濃い臙脂色の袖無しのワンピースドレスを着ていた。臙脂の色は白すぎる肌に映えて、まるで赤黒い血の色のように見えた。少し痩せたようで、まだ憔悴しているように見えたが、私の顔を見ると彼女は微笑みを見せた。
彼女はラタン椅子に腰かけると、いつもそうするように、ドレスの裾を翻らせるようにして脚を