マガジンのカバー画像

【長編小説】 抑留者

12
海辺の漁師町に暮らす家族。その家のじいちゃんはある日突然母屋の裏の掘っ立て小屋で暮らし始めた。シベリア抑留の経験を持つじいちゃんに、ある日一枚の葉書が届く。東京でつまづいて実家に…
運営しているクリエイター

#抑留者

【長編小説】 抑留者 1

 薄暗い土間に入っていくと、上がり框のところに決まってじいちゃんは座っていた。入り口と…

【長編小説】 抑留者 2

 朝七時。尚文は自分の居室を出て、母屋の分棟と本棟をつなぐ内廊下をのそのそと歩く。洗面所…

【長編小説】 抑留者 3

 事が起こったのは、その年の夏だった。  毎日午前十一時きっかりに届く郵便を受け取った時…

【長編小説】 抑留者 4

 その日の夕食を運んでいったとき、祖父はもう平常心を取り戻していた。昼間に見せた姿をとん…

【長編小説】 抑留者 5

 尚文は、祖父のシベリア時代の話を熱心に聞いた。聞くうちに、祖父の過去にこびりついている…

【長編小説】 抑留者 6

 おいちゃん、と涼太に呼ばれる。  ぺたっと貼りつくような甘い幼児の声で呼ばれるとき、尚…

【長編小説】 抑留者 8

 朝食を終え、台所に食器を下げてから、三ツ谷と連れ立って表に出た。やはりタクシーで送り出すのは止め、バス停までの五分ほどの距離を、歩いて送っていくことにした。  玄関を出るときに、三ツ谷は大声で台所であと片づけをしている時絵に声をかけた。どうもお邪魔しました。朝食の鮭と味噌汁、とっても美味しかったです! 時絵は慌てて飛び出てきて、拭き切れていない泡のついた手を胸の前で振って、いいえいいえ、またいつでも遊びに来て下さいと言った。  どこまでも如才ない奴だ、と、尚文は苦笑いをした

【長編小説】 抑留者 9

 ――それから一週間ほど経った朝、尚文は隣の家を訪れた。弔問を兼ねて、独りぼっちになって…

【長編小説】 抑留者 10

 その四畳半のせんべい布団の上で、尚文は磨利を抱いた。これまでの人生のなかで、これほど奇…

【長編小説】 抑留者 11 

 磨利の家をあとにした尚文は、沈鬱な気持ちで浜に面した県道を歩いた。  あの悪魔の住む家…

【長編小説】 抑留者 12 最終回

 ――よく晴れた午後、黒々とした掘っ立て小屋のような家で、涼太はじいちゃんと一緒にいた。…