例のとびらに、どんな世界をブックマークする?
ジブリ。
映画自体は胸を張っていちばん好きといえるものがないんだけど(どれもよくってどれも好き…)、
曲はぶっちぎりでハウルの動く城のテーマ曲「人生のメリーゴーランド」が好きで、毎日聴いている。
きょうものんびり聴いていて、ふと閃いた。
ハウルの動く城で登場する4色のドアプレート。
色を選んでとびらを開けると、別の場所へ出ることができる。
私だったらどんなところへ出られるとびらにするだろうか、考えてみよう。
深緑色のプレート:森の奥
ドアプレートを深緑色に合わせて、とびらを開ける。
一歩踏み出して振り返ると、朽ちた木の小屋が建っていた。
見渡すと鬱蒼とした森。
樹木たちが小屋を取り囲んでいる。
どれも、少しでも多く陽光を浴びようと枝葉を広げていて、眩しい光は私のもとには届かない。
木漏れ日をたよりに、小さな草花が足元に咲いていて、土はじんわりと湿っている。
いつも私が歩く道筋が獣道になっていて、きょうもそれを辿る。
木の葉の揺れる音や鳥のさえずり、リスが落ち葉を踏む音が聞こえる。
ひんやりとした空気で肺を満たしながら、数分。
視界がひらける。
遠近の感覚が狂うくらい大きな樹がひとつ、そこには立っている。
しめ縄はとうの昔に千切れていて、その樹の足元に落ちている。
今の幹の太さからは想像もつかないが、このしめ縄で事足りる時代がこの樹にもあったらしい。(それでも、他の樹とは比べ物にならないくらい太かったようだ。)
この大樹がこの地帯の栄養をほとんど吸ってしまうのか、それとも他の樹たちが遠慮でもしているのか、ここには木漏れ日がたくさん差し込んでいて、花畑…というにはささやかだが、淡い色の花たちが咲いている。
花を踏んでしまわないように気をつけながら、大樹の根の先へのぼる。
そこから幹に向かって、根の上を渡っていく。
慣れたもので、先程までの道のりで湿った靴でも、足を滑らせることはなく、あっという間に幹まで辿りつく。
そこには穴が開いている。
どういうわけか、私が子供のころから開いているこの穴は、私の身体が大きくなるにつれて広がり、いくつになってもこの大樹はそこへ私を迎え入れてくれる。
つんとした樹の香りとやわらかな葉の香りに包まれて、私と大樹はひとつになって、眠る。
白色のプレート:雪原と湖畔
ドアプレートを白色に合わせて、とびらを開ける。
屋根の上にたくさんの雪を乗せた山小屋から出た私は身震いする。
この地に久しぶりの雪が降っている。
すでに積もっている雪は少しだけ固くなっていて、陽にあてられて煌めいている。
手元に落ちてきたひとひらの雪が、袖に触れてこわれて、雪の結晶が顔を出し、こちらもきらきらと輝いてとけていく。
なにもない。
正確には白い木が遠くにいくつか立っているが、あとは地平線が続くばかりだ。
この先の湖への道程はなかなか厳しい。
頬を刺し、肺も凍る、暴力的な冷気を深く吸って、吐いて。
ぎゅっぎゅっと靴を鳴らしながら湖のほとりを目指す。
私がこの場所へ来ることはほとんどない。
湖へ行って、戻ってくるまでにくたびれてしまうし、なにより寒い。
それでも、なにか重大なことを決断したり、大切なものとお別れするときにはここに来なければならない。
理由は、わからないけれど。
水深が深く、極寒のこの地にあっても凍ることはない湖。
湖の向こう岸は遠く、水平線が見える。
湖底に棲む無数の生命がさざめいて起こす波が、水面を揺らしている。
岩場へ腰をおろして遠くを眺める。
完全な無音。
うるさいくらいに静かだ。
いつもこのしんとした耳鳴りで、ここに来たことを実感する。
凍てつく耳で、遠くを泳ぐ魚の水音を探す。
黒色のプレート:都会の裏路地
ドアプレートを黒色に合わせて、とびらを開ける。
私は雑居ビルから飛び出して、アスファルトの道を革靴で鳴らす。
ビルを出てすぐの路地は閑散としているが、ひとつ隣の大通りはたくさんの店が立ち並んでいる。
たくさんの人が、自分だけの宝物を探しにこの街へ足を運ぶ。
私もそのうちの一人ではあるが、そういう人々を眺めるのも楽しみのひとつであったりする。
それぞれの哲学をもって、装うことを楽しむ人々は美しい。
ここはひらかれた美術館だ。
私も美術品として並ぶことはできているだろうか?
きょうは宝石のついた指輪をひとつお迎えした。
何度もお店に通って、やっと出会えた一点ものだ。
私の指にぴったり嵌って、最初からそこにいたみたいだった。
おかえりなさい。
スキップしたくてたまらないけど、人に見られたら少し恥ずかしいので、聴いている音楽に合わせて足音のテンポをキープする。
本当は夕飯をどこかで食べて帰ろうと思っていたけど、この指輪と蜜月を過ごそう。
宝石と同じ色のお酒を買って、夜の街をあとにした。
虹色のプレート:夢でよくみるどこか
ドアプレートを虹色に合わせて、とびらを開ける。
ざざ、と水が入り込んでくる。
ここはいつもそうだ。帰ったら床を拭かなくては。
遠くで雷鳴がした。
私は足首ほどの深さの白いプールの中に立っており、このまま浸かっていると感電してしまうかもな、と思い、プールサイドへ上がる。
ここが屋内なのか、屋外なのか、そんなことはどうでもいいが、飛行機に乗らなければならない気がする。
しかし、搭乗口がわからない。
そもそも、空港はどこだろう。
急がなくては。
プールサイドにはクレーンゲームが所狭しと並んでいる。
滑り止めのとげとげした床の上を裸足で駆ける。
腰の高さほど水嵩のあるプールに飛び込み、次の部屋へ進む。
気がつくと、ここは学校だ。
私が通っていた小学校。
木造3階建て。とにかく古い。
アスベスト問題が話題になったけど、この小学校は古すぎてアスベストが使われてなかったんだって。ウケるよね。
調理室もなくて、いつも理科室でヘビのホルマリン漬けや人体模型に見守られながら調理実習をしていたな。
給食室があるはずの場所に、知らない螺旋階段がある。
これには登ってはいけない気がするから、職員室へ逃げ込もう。
とびらを開くと、そこは私の城だった。
あれ、さっきまでなにをしてたんだっけ。
じゃあ、城の内装は?
ここまで妄想したら、城の内装まで考えたくなる。
私が住みたいところと言われてぱっと思い浮かぶのは図書館。
といっても、実際の図書館はあまり好きではなくて、足を運ぶことはほとんどない。
お世辞にも治安がいいとは言えない街に住んでいるので、有象無象の人間がいる中で本に没頭するのは少し気が引けるし、いくら静かで安全だとしても、本との対話に他の生物の気配は必要ない。
だから、図書館というより、書庫の屋根裏に住みたい、というのが正しいかもしれない。
書庫から本を数冊持ち込んで、座り心地の良い一脚の椅子にもたれて読み耽るような。
あと、私の城には白い部屋がある気がする。
白いだけの部屋。
清潔なんだけど、ずっと居ると気が狂いそうなところ。
無菌室、病室、研究所、みたいな。
絶対欲しいわけではないんだけど、というかないほうが有り難いような気もするんだけど、存在してしまう、という感じのもの。
私の城は、書庫・屋根裏部屋・無菌室という構成で、よろしくお願いします。
場所と装いについて
色々な場所を妄想してみたけど、私はすべての場所で同じ装いをしていたいと思った。
(上記の妄想の中では、森でも雪原でも水の中でも、私は革靴を履き、長袖のブラウスとロングスカートを纏っている。)
一応、人間として生を受けているので、気候やシチュエーションに合わせて装いを調整しなくてはならないことは多い。
あまりにも気候を無視していると生命活動が危ぶまれるし、シチュエーションを外していると社会生活に支障がある。
シチュエーションについては、ある程度楽しむことができるものの、気候に振り回されるのは許しがたいものがある。
正直、半袖は着たくないし、防寒着だってなくていいなら持ちたくない。
季節感はなければないほどいい。
嫌でも気候は目まぐるしく変わってしまうのだから、せめて、装いくらいは何にも囚われることなく纏えるものを選んでいたい。
(だから、私はサンダルやブーツ、ノースリーブやニットを手に取らないんだな、と腑に落ちた。)
も~ほんとに欲を言えば、外界と私の間にバリアを張れる能力があったらいいのに。
よそのご都合から解き放たれたい。
だからやっぱりアンドロイドか。あるいは、もうひとつ高次のなにかになりたい。
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