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君からの手紙  シロクマ文芸部

君からの手紙   【580字】

手紙には別れの文言が連なっていました。僕はそれをくしゃくしゃに丸めて放り投げました。
でも手紙は僕をそっとしておいてはくれません。丸めた皺の隙間から「どうして彼女が?」「僕のどこが悪かった?」「彼女に新しい人が?」
そんな嫌悪の思いを次から次へと見せてきます。
 
僕は見えるからよくないのだと思い、ゴミ箱の奥の方に手紙を押し込みました。
するとゴミ箱が語りかけます。「おまえは女心のわからん奴だ」「おまえのやさしさは牛乳の薄膜だ」「人を愛する資格はあるのか」
僕はその声に耳を塞ぎます。でもしっかり塞いでもゴミ箱は声を押し付けてきます。
 
僕は庭に穴を掘って手紙を埋めました。
すると地面から声が聞こえてきます。「自分を振り返ってみなさい」「おまえは彼女になにをした?」
地面は夜、床に就いてもお構いなしに話しかけてきます。
 
僕は庭を掘り返し、手紙を燃やすことにしました。これで手紙はこの世から消えてなくなります。
手紙は紫色の細い煙となって、天に召されていきました。
 
風が僕に言います。「君はどこから来たのだ」「どこへ行くのだ」
毎日、風が僕に訊ねます。「君の生きている価値とは?」
僕は天に祈ります。「僕はきっと間違っていた。いいえ、僕は間違っていました。人は毎朝、生まれ変わるのです。生まれ変われるのです。もう過去に囚われるのはやめます」
風は僕の頬をそおっと撫でていきました。
       了


小牧部長さま
よろしくお願いいたします


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