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みずたまり変奏曲・黒 ミモザxほこbコラボ小説 with 菊

この度はお越しいただきありがとうございます
こちらは小説と音楽のコラボ作品です
ミモザさんと私、ほこbがテーマに従って交互に小説を書きます
こちらは全4作
全編、菊さんのクオリティの高い音楽と合わせておたのしみください

ほこb・黒👉ミモザさん・白👉ほこb・青👉ミモザさん・赤
このような順で本日より毎日一編ずつ公開してまいります

どうぞ、最後までお付き合いいただけましたらさいわいです
       ほこb 拝


第一話 みずたまり変奏曲・黒


町のほぼ真ん中と言ってもいいところに、忘れられたようにこんな広場があるのが不思議な気がしていた。腰丈の低いフェンスしかないここで球技は禁止。したがって子どもの姿はない。それに少し幹線道路から奥まっていることもあって通り抜けに利用する人もなかった。
陸哉りくやはここが気に入っている。広場の半分を覆うほどの大きなクスノキはその下にはいると空を隠してしまうほどだ。

ある雨の日、陸哉はそのクスノキの下で雨宿りをした。中学校から家までの下校ルートから少し外れればこの広場がある。


学校は楽しいとは言えない。でも嫌だということもない。小学生の時は多少いじめられたこともあったが、中学にはいってからはそんなこともない。
毎日をなんとなく惰性で過ごしているようで、何かに夢中になりたいという思いはあった。
部活は科学部に所属しているが、理科の授業にちょっと何かトッピングした程度の週二回の活動にはあまり興味を惹かれることもなかった。そろそろ潮時かとも考えている。

あまり活発な方ではないし、特定の親しい友だちはいない。かといって、誰とも話さないわけでもなかった。
昼休みに机に腰を下ろした砂川がおもしろいことを言っていた。
「梅雨っていうのは前線の動きで入ったの出たのって言ってるんじゃなくて、実際に雨が降るか降らないかによるんだ」
陸哉はそうなんだな、と横から聞いていて思った。砂川はたまにそんなおもしろい知識を披露してくれる。
「だから梅雨入り宣言っていうのは必ず雨の日に出される」
たしかに今年もそうだったと陸哉は思った。


こうして雨宿りをしているとつくづく雨は嫌だと思うけれど、町が雨に洗われる景色は捨てたもんじゃない。
雨は不思議だ。みんな粒を揃えて満遍なく降ってくるシステム、その理由を知りたいと思う。もし空に雨の素があって大量の水を蓄えて、それを一度に町に降らせたらどうだろう。きっと家なんてすぐに潰されてしまう。

雨はポツポツとまばらになり、空が明るくなってきた。
陸哉は帰ろうとして、目の前にできた水たまりを見た。そこには煉瓦造りの建物の角が映っている。ハッとして辺りを見回したが、もちろんそんなものはどこにもない。角度を変えて見ようと、水たまりの隅を飛び越えた時、ポケットから父からもらったたいせつな時計が落ちた。水たまりに波紋が広がって、煉瓦造りの建物がフルフルと震えた。
手を伸ばして水の中に手を入れようとした時、水たまりの中に映ったセーラー服の女の子がそれを、その時計を拾い上げたように見えた。
「まさか」
陸哉は思わず声を出した。そんなことあるはずがない。水たまりに手を差し入れると茶色い水が湧き起こり、たちまち水たまりの景色は茶色で塗りつぶされてしまった。
時計は今の雨で溜まったばかりの浅い水たまりの中に忽然と、そう唐突に消えてしまった。「父から中学入学のお祝いとしてもらった時計」大事にしていたのに・・・。陸哉は自分の不注意を赦せなかった。

理科が好きだった。小学生のときの将来の夢は科学者。漠然とだがそれしか思い当たらなかった。時計の規則正しさに憧れて父にねだったが、父は首を縦に振ってはくれなかった。モノが欲しいのじゃなくて、その規則正しさがほしいことを父が理解してくれないことが悔しかった。
でも父は中学の入学祝に時計を贈ってくれた。それまでで一番うれしい贈り物がそれだ。決して高価なものではない。でもそんなことは関係ない。正しい時の刻み、それがほしかったのだから。

陸哉はもう一度水たまりに手を入れてみた。満遍なく探っても、茶色い水が踊りの輪を広げるばかりで、そこに何も見つけることはできなかった。
      つづく

 第二話 みずたまり変奏曲・白(ミモザさん)

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