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『Bouquet_de_muguet』nono & PJ  うたすと2

作詞: 青豆ノノさん
作曲: PJさん
歌唱: ヒガシアオイさん

とってもしっとりしたいい曲です
この曲を聴いてから、読んでいただけるとうれしいです



スズランの花束   【1207字】   

枯れた石畳を清冽な血が巡っていく。息を吹き返した小鳥の毛細血管のように継ぎ目を這い、育っていく赤い樹木。
そこには一滴の後悔もありはしない。


私は薔薇が似合うような女じゃないの。それはちゃんとわかっている。だからあなたの意図を測りかねたわ。
もうあなたの目は私を見ない。
私は何も知らなかった。本当に何も。あなたがくれたのは憐れみではなかった。ましてや愛情でも。そして最後にくれたのはスズランの花束。
私はすぐに調べたわ、花言葉。それは純粋、再び幸せが訪れる、純潔、謙虚、あふれ出る美しさ、希望。どれが当てはまるの?どれでもなかった。

あなたが欲しいものがやっとわかった。
「区内の居住者名簿がほしい」と言った時、あなたが私に近づいてきた意図がやっと理解できた。

セーヌ川は靄でいっぱい。その底にはきっとあなたの血が流れている。華やかに跳ねるあなたの心臓の音がしている。美しい白い肌の向こうに。

思えばおかしな出会いだった。
雨の日のいつもの習慣、いつもの書店、私は園芸の棚を眺めていた。
ふと手を伸ばした「プチ菜園」の本。見渡す限り本で満ちたその中から、あなたの手は、私の求めた本を取り出した。
わたしたちは初めて目を合わせた。
私は何か声を上げたかもしれない。あなたは「あっ」と声を出したのは覚えている。それがきっかけで、私たちは付き合い始めた。あなたが園芸に興味があるのかどうかなんて、私は未だに知らない。

私が職場から持ち帰った16区の居住者情報をあなたはとても喜んでくれた。それだけで私は満足だった。
目的は訊かなかった。でもわかるのよ。あなたが贈答品がとか、DMがとか言うのはそらぞらしかった。あなたはそれを売るの、そのまま。それだけでお金になることを私が知らないとでも思った?

あなたが冷たくなった。あれから。私を抱いてはくれなくなった。あの日からいくつ夜を過ごしたと思うの?
帰ってきても、私はなおざり。だから嬉しかったのよ。あなたがワインを買ってきてくれたのが。それは本当の私の血の色をしていた。あなたに溺れてしまった私は、きっと純粋な色だった。
スズランの花束をくれたわね、かわいい白い花。私はやっと悟ったわ。スズランの花には青酸より強い毒性がある。わたしのベランダを見てみなさいよ。小さいながらも園芸家であることがわかるはず。
あなたは私が園芸用の土を買うのを見てたのね。

食卓に着いた時、あなたは言った。
「日本の醤油があっただろ?」
私はキッチンに立った。
私のグラスに注がれたスズランの毒は致死量を超えていた。
「ああ、お腹が空いた。食べましょ」
あなたが口にした鴨には和芥子をたっぷり塗ってあったのよ。
あなたが席を立つように。


あなたはまた新しいターゲットを見つけたのね。今度の方はコケティシュでかわいい方ね。たまには本当に愛してみたらどう?
私は今日もスズランの花束を抱いて、あなたを見つめている。月の光も届かないあなたの影法師から。
       了


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