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映画『新感染半島 ファイナル・ステージ』感想 いかにゾンビを効率的に使うかが生存の鍵


 2021年の映画始めは、ド派手にゾンビ映画! ということで、映画『新感染半島 ファイナル・ステージ』感想です。


 人間が狂暴化するウィルスが、韓国全土へ蔓延。軍人のジョンソク(カン・ドンウォン)は、姉夫婦と甥を連れて船で韓国から脱出を試みるが、船内でも感染者が発生し、姉と甥は、ジョンソクと夫のチョルミン(キム・ドユン)の目の前で犠牲となった。
 それから4年後、亡命先の香港で失意の暮らしをするジョンソクとチョルミン。そんな2人に、完全封鎖されている「半島」(韓国)に潜入し、3日以内に、とり残された大金を積んだトラックを探し出して回収するという仕事が舞い込む。
 半島へ潜入したジョンソクとチョルミンたちを待ち受けていたのは、襲いかかる感染者たちだけではなく、その地で生き残り「631部隊」と呼ばれる武装した人間たちだった…という物語。

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 2016年に公開された『新感染 ファイナル・エクスプレス』の続編となる作品で、監督は前作と同じヨン・サンホが務めています。
 僕は前作を劇場で観ており、主要キャストであるマ・ドンソクのインパクトにヤラれた口なんですけど、作品としてもかなり好きで、ゾンビホラーでありながら、しっかりと泣ける人間ドラマであり、韓国映画の凄みを見せつけられた作品の一つでした。

 ただ、今作は続編とはいえ、登場人物も前作との繋がりは全くなく、あくまで「ゾンビ化するウィルスが蔓延した韓国」という舞台設定のみが共通しています。なので、前作を観ていなくても全く問題なく観ることが出来るようになっていますね。
 そして逆にいうと、前作の物語の先を期待した人、前作と同じ定番ゾンビ物や、そこに乗せた人間ドラマを期待した人からすると、肩透かしをくらう内容となっていたかもしれません。

 前作では走行中の列車という密室で、ゾンビパニックが起こるというシチュエーションだったのが、今作ではロックダウンした韓国が舞台となっています。ロックダウンしているとはいえ、ゾンビから逃げ惑うには密室感はないんですよね。
 その結果、迫りくるゾンビの脅威は、設定の一つに格下げされて、メインは武装した暴力集団との戦い、人間対人間のドラマに大胆な変更をしています。もっとはっきり言うとこの作品、もろ『マッドマックス』をやっているんですね。一番の見せ場も、改造車によるカーチェイスというもので、オマージュにも程があるものになっています。

 ただ、光と音に反応するゾンビを誘導して相手を妨害するなど、戦略的なゾンビの使い方は、それはそれでエンタメとして、とても面白い仕上がりでした。生き残った少女ジュニ(イ・レ)の、天才的なドライビング技術なんか、荒唐無稽でマンガ的ではあるけど、ワクワクしましたね。

 けれども、悪役側のファン軍曹(キム・ミンジェ)とソ大尉(ク・ギョファン)は、いかにもな悪党で魅力的ではあるんですけど、ちょっと小物感があるかなと思ってしまいました。『マッドマックス』描写があるからこそ、ヒューマンガスやイモータン・ジョーといったカリスマ性のあるボスたちと比較してしまいました(まあ、そんな悪役出したら、もはやパクりになってしまいますが)。この悪役2人が対立しているという設定も、あまり活かしきれてないように思えます。足を引っ張り合うとか、逆に共闘するとか、色々見せ場は作れたと思うんですよね。

 さらに言うと、『マッドマックス』的描写に時間を割きすぎていて、前作の売りだった人間ドラマは後退気味だったようにも思えました。ジョンソクの、妹と甥を救えなかった悔悟の念が行動動機なのはわかるんですけど、今一つそれが心に来るまで伝わっては来なかったですね。義兄チョルミンとの繋がりも、描写不足に思えました。
 前作では、感染拡大前の日常から、拡大後の非日常へのギャップが、短くもしっかりと描かれていたのに対して、今作はその辺りの丁寧さを捨てて、エンタメに振り切った作りにした結果だと思います。

 とは言いつつも、娯楽映画としては充分楽しんで観ることは出来ました。『マッドマックス』ファンとしては、パクりと怒るよりもオマージュ描写として楽しめたし、ゾンビを利用する戦略的なカーチェイスはオリジナルとして新しいものだと思います。前作の結末と対比となるラストも、大雑把とはいえ味わい深いものではありましたね。

 ただ、物語内の世界は結局変化していないので、まだまだ続編やる気マンマンに見えますね。ここまで来たら、また全く違うアクション名作からオマージュという名の借用をして、サンプリング・ゾンビ映画を続けていくのも良いかもしれませんね。続編がどんどんB級に下がっていくのも込みで、正統なゾンビ映画を目指すのも有りだと思います。


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