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2022年映画感想

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2022年10月の記事一覧

映画『あの娘は知らない』感想 色使いの巧みさで描く喪失感

 哀しみとの距離感が心地好い作品。映画『あの娘は知らない』感想です。  学生時代に製作した『溶ける』で、史上最年少のカンヌ映画祭出品を果たし、ドラマやPVなども手掛ける井樫彩監督による映画作品。朝ドラ『なつぞら』、大河ドラマ『鎌倉殿の13人』に出演して活躍を広げる福地桃子さん、印象的な脇役の多い岡山天音さんという、派手さではなく実力のある主演陣が気になり、上映終了間近のタイミングで観ておきました。  井樫監督作品は初めて観たのですが、映像の作り方にかなり作家性が強く出て

映画『マイ・ブロークン・マリコ』感想 遺された人だけに与えられた哀しみと権利

 原作を読んだ時の衝撃を、そのまま再現出来た大成功作。 映画『マイ・ブロークン・マリコ』感想です。  漫画家・平庫ワカの初連載作品『マイ・ブロークン・マリコ』を原作にして、『ふがいない僕は空を見た』『浜の朝日の嘘つきどもと』などで知られるタナダユキ監督が実写化した作品。原作漫画は個人的には2020年に読んだ漫画作品でダントツ1位だったので、かなり期待していた映画化作品です。  結果として期待に応えてくれる素晴らしい実写化作品でした。物語は知っているはずなのに、冒頭から終盤ま

映画『秘密の森の、その向こう』 さよならは、再び逢うための言葉

 シンプルな物語の中に、複雑な映像表現が満載の傑作。映画『秘密の森の、その向こう』感想です。  『燃ゆる女の肖像』で世界的に絶賛されたセリーヌ・シアマ監督による最新映画作品。『燃ゆる女の肖像』は美術センス、語り過ぎない脚本、映像の比喩など、映画表現でここまで情報を詰められるのかと驚かされた傑作だったので、今作も観ない選択はありませんでした。  『燃ゆる女の肖像』は台詞で語るような作品ではなかったのですが、今作でもやはり台詞は極力抑えられていて、観客に想像を巡らせる、行間

映画『LAMB/ラム』感想 シュルレアリズム・コント作品

 ホラー要素よりも、笑い要素の方が多い作品だと思います。映画『LAMB/ラム』感想です。  ヴァルディミール・ヨハンソンの、映画監督として初長編デビュー作となる作品。配給会社は「A24」ということで、『ミッドサマー』が受けた層に猛アピールするプロモ―ションもあり、まんまと観に行ってしまいました。  『ミッドサマー』系列であることを強調した宣伝なので、ホラー映画の印象になっていますが、観た感想としてはそれほど恐怖を描いたものではありませんでした。どちらかというと、神話・

映画『ヘルドッグス』感想 令和に現れた昭和ヤクザ映画の生まれ変わり

 物語はスピードで流して、ヤクザのキャラを楽しむのが正解な作品。映画『ヘルドッグス』感想です。  深町秋生の小説『ヘルドッグス 地獄の犬たち』を原作として、『検察側の罪人』『関ケ原』『燃えよ剣』などで知られる原田眞人監督が映画化した作品。ヤクザもの、裏社会もの好きというのもありますが、本格アクション俳優の地位を確立した岡田准一さん、イケメン優男イメージを覆そうとする坂口健太郎さんというキャストに、韓国ノワール映画を意識したものを感じて観てまいりました。  2021年公開