6月13日(土) 雨の美術館

美術館に行く日。その前に美容院に行く日。
昨夜は楽しみすぎたのと人と会話をした影響で脳がざわついてうまく眠れなかった。
まあ髪を切られながら寝ればいいかと出発。

目指すは埼玉県・北浦和駅。
雨降る街を眺めながらMaison book girlを聴く。梅雨とはブクガを聴きたくなる季節だ。

北浦和で適当に予約した美容院へ。
美容院ガチャがなかなか上手く引けず毎回新たな店を試している。
結果的に今回もハズレだった。
どこかに私が理想とする、くせ毛の扱いが上手くて個別ブースの仕切りがあって電話の音などがしなくて仕事に関する質問もケアに関する説教もシャンプーの営業もされなくてしかし適当な服でも入りやすいカジュアルなサロンはないものか。

とはいえ今日はここからがメインだからダメージは少ない。命拾いしたな!
駅前から見える明らかに森のような場所を目指して歩く。全く初めて来たが地図などいらなかった。
森に入ると綺麗な体の銅像に迎えられ、巨大なサックスの横で激しく水が噴き出している広場に出る。雨の中、写真と動画を撮ってみる。

その先に建つのが埼玉県立近代美術館だ。
検温・消毒を施されチケットを購入。企画展『New Photographic Objects 写真と映像の物質性』を観る。参加作家は誰も知らなかったが題名に惹かれて観に来た。

初っ端、暗幕の向こうの真っ暗な部屋に入り映像作品を観た。
ザーッとした黒い点や線の動きが大きく映されており、入口で貰った黒いフィルムを片眼に当てて観ると3D状になる。広い空間に観客は自分だけ。
これが本当に凄まじい体験だった。呑み込まれていくような黒い渦。音も相まって初めはかなり怖かったがじっと観続けているとそれはやがて宇宙になり、人になり、海になり、炎になり、光になり・・・しかし黒と白の空間でしかなかった。それ自体が何かだった。
雑念が次第に遠退いていく。外の世界が消えていく。ここがどこだか分からない。ずうっとここに居たい。

五ヶ月ぶりに本物の芸術の前に立たされて(座っていたが)体の底から感動していた。そう、これだよ、これが味わいたかった!
途中から観始めた1ループが終わったが改めて全編観ようと居座った。まだ誰もいなかった。
ゾーンに入りきった頃二人組が入って来てゲ〜と思ったけれど、もうずっとこの世界に呑まれている私と今来た彼らとでは存在している層が違う、という感じがして平気だった。というかもはや思考などない。
二人組が出て行った後も最後の最後まで見届けた。フラフラになって暗幕の外へ出る。現実だ。
後でこれが30分に渡る作品だったと知り驚いた。時空の歪みだ。

もう完全に満足し帰りたいくらいだったがこの牧野 貴さんの作品に浸した身体で他の人々の作品を観るのも面白そうだと思いきちんと回る。
外の見える部屋に展示された横田大輔さんの大きな布状の作品を、大きく聴こえてくる雨音の中で観る。その空間全体が大変良かった。

続いてNerholさんの立体的で不思議な作品群。どういうことか分からなかったがよくよく近付くと、同じ写真を大量に重ねて彫刻のように破ることで段差を付けているようだ。物質感が半端ではない。これは生じゃないと分からないというものを観られるのが嬉しい。
企画展のメインビジュアルにも使われている『Water Surface』が飛び抜けて良かったためしばらく眺めた。

続いて滝沢広さんの部屋。壁一面に巨大なジャングルが広がっており圧倒される。近付いて見るとそれは様々な木の写真を平面と立体でコラージュしているのだが、遠目で見た印象が本物のジャングルだった。大興奮。

最後に迫 鉄平さんのエリア。3本の映像作品がドツボだった。また愚直に全編観る。
1本目は『2014年のドローイングブック』ということで、迫さんが絵を描いたりコラージュを施したノートをめくっていきながら時々切符や写真などを貼っていく映像。
めくってもめくっても予想外の画が出てきてカオティックで面白い。写真の貼り方も、よりにもよってそんなものをよりにもよってそんなところにwwwと吹き出しそうになる。最後にももクロのしおりんの公式生写真が出てきた時は本当に笑った。
自分でもこんなノートをやってみたくなる。印刷物のコラージュも楽しそうだ。やろう。

あとは日常の中のじっと眺めたくなる風景を固定フレームで数十秒ずつ切り取って繋いだ作品が2本。
これ、私がよくやっていることと本当に近くてやられたな〜と唸ってしまった。何ならさっきも雨降る噴水広場を撮っていた。
すると全く同じそこの広場を同じように固定で撮った映像が映り驚く。しかしそちらは雪でやはりレベルが違った。なんだか嬉しくなる。
観ていると凄く良くてやっぱり自分でもやりたくなり、展示室を出て真っ先に雨降る窓を撮ってみた。

それからコレクション展の方も観た。絵が並んでいるのだけど長時間写真と映像を見た余韻の中では上手く観られない。絵だ、と目が驚いている。
展示のハシゴはやめるべきだったと何度目かの後悔をしつつサラッと回るといくつか良い絵に出会えた。やはり来て良かったと思い直す。
この間パステルで絵を描いてみたおかげで"その絵を完成させて眺めている時の作者の気持ち"を想像出来るようになった。それは結構良い鑑賞法だと思う。

鑑賞の後は売店と決まっている。状況的に企画展関連のものは売っていなかったが小物や本などを見て回る。美術館の売店で本を買うのが好きだ。
ずっと読みそびれていたスーザン・ソンタグ『写真論』を購入し館内の喫茶店へ。

やっているのか分からなかったけれど恐る恐る扉を開けるとお兄さんに迎えられる。
広い店内に客は自分だけ。窓の外は雨降る緑の森。史上最高の喫茶店だった。

ケーキセットを頼むと本当に美味しい気の利いたケーキが出て来て感動した。そもそも外で食事をすること自体が四ヶ月ぶりだ。
美術鑑賞後の美味しいケーキ、なんて幸せなのだろう。こんな幸せを平然と過ごしていた去年までの自分に代わってありがたみを噛み締める。
しばらく作品リストを眺めてから日記を書いて過ごした。

数時間ぶりに傘を差して外界へ。
埼玉県立近代美術館、最高だった。これから毎期来よう。多分平時も混んではいないだろう。空いている美術館が好きだ。
噴水広場のあたりを少し見て回ってから駅へ帰る。全く何の変哲も無い北浦和の街もイキイキと映る。
やはり美術館で過ごすと完全に生き返るなあと痛感した。曇った感性のレンズを拭いて世界を洗い直すことが出来る。不要不急な訳がない。

LINEを見ると日記を読んでくだすっている友達から本質的な褒め言葉を頂いており心が温まった。今日はとことん良い日だ。
主観100%で生きている自分について客観的な意見を言って貰えるのもありがたい。

帰って今日撮った映像をYoutubeにアップしてみる。
短く撮った風景をクラウド代わりにザクザク上げていた自分のアカウントを久々に見た。繋いでいけば今日観たあの作品のようになるだろうか。まあどれもブレブレで使い物になるかは微妙だけれど・・・。

夜はコナンを観ながら鍋。
日記が上手くハマらず延々と書き直す。美術鑑賞のことは言葉で書き残さない方が良いのかもしれないがいつか読み返したいとは思うからジレンマだ。
写真と映像の物質性ということを考えてから寝よう。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?