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美容室、「とびっきり可愛く」

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毎日きまった歩数以上を歩くことを決める。ひとつはやせたいという思いなのだけれど、もう一つは習慣として、住んで2ヶ月が過ぎた甲府という街を、知っていける形をつくりたいと思ったからだった。25年住んだ三鷹市には、知らない景色ってまあなくって、思えばわたしはたくさん散歩してきたのだと思う。ああ、ここか。そう思う瞬間の安堵と少しのがっかり感を何度も重ねて、三鷹市は25年かけて「わたしの街」になっていったのだった。
仕事が終わって夜の路地を歩いているとき、明かりの乏しい暗闇の中で「女性は夜の散歩は怖くてそうそうできない」と書かれた本のことを思い出す。最近じぶんのからだのこと、特に男性性への嫌悪感みたいなものが顕著に連なっていって、ジェンダー的な問題についての小説や雑誌をぽつぽつと読んでいる。
無自覚はいつもはしたなくって、わたしの中にあるそれは変わらずしぶとく、どこまでも憎らしい。

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ぱっとLINEを開いたら、大学の同期の誕生日で、衝動でハーゲンダッツのギフトを送ると、とても喜んでくれて嬉しかった。喜んでほしいという気持ちだったり優しさは健やかだけれど時に危険で、それによって怖がらせてしまったり、関係性が奇妙にねじれたりする。わたしは随分と勝手に多分、「この人好き」をわたしだけの価値基準で選んでいて、選んだ「好き」の人には優しさを持て余しているのだけれど、少しは正しい形で届けられたのかな、と嬉しくなった。その後LINEのやり取りをして、大学2年生の時に2人で行ったデニーズで、お互いがパフェの前で笑ってる写真を交換した。あまり楽しかったイメージのない大学2年生のわたしは無防備に裏ピースをして笑っていた。

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甲府のサッカーチームであるヴァンフォーレ甲府が天皇杯の決勝に進んだ。ゴールした時、試合が終わった時、社内大興奮だった。
サッカーを観ているときわたしと父親は仲がよくって、つまるところ、我々は向かい合うのではなく、何か一つの焦点に合わせて2人で意見をするときにうまくいく。いや、人間関係ってそういうものかもしれないな。タバコももんじゃ焼きもだからいいんだ。キャンプとかも、いや、もう何年も行ってないけどさ。

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高校のクラスメイトで今もずっと仲がいい友達と、多分最初はぐるぐる考えているジェンダーについて話をして、そこから何十ターンか経って、インスタのDMなのに2時間くらい話し続けてから、高校の時にいつも一緒にいた三人で決めた、10年後海外にご飯に行く約束の話になって、覚えてる?覚えてるよね、あれ全然実現する気だよ、と盛り上がる。
何って、約束が果たされる予定なのは来年のことなのだ。その事実に身震いしてから、2人とも、かなり現実味を帯びてその話をした。ずっと話したかったけれど、1時くらいで寝た。2人とも次の日は朝から仕事だったから。

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山梨、標高高いからか知らんけれど、気圧めっちゃ強くって、東京の比じゃないと思う。やばい時、普通に起き上がれない。仕事、午後休をとって、布団にくるまりながらPCで作業をした。途中で抱えているプロジェクトの多さに笑けてきて、散歩に出かけた。Aマッソのラジオを聴き始めて、終わるまで散歩しようと決めて、マスクの下でニヤニヤしながら工事中の大通りを抜けていたとき、加納さんが「辛い日あったら走ってしまいや」といって笑っていて、途端めっちゃ走りたくなった。「たくなる」だけだったけども。

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午前はギターの録音。朝早く起きて3時間くらい電車に乗る。ヘラヘラしないで、しっかりやらなくっちゃ、と心に誓ってからいく。こういうのの積み重ねなんだ、自信をつけるって、と思いながら。わたしギター全然上手じゃなくって、わたしより上手い人たくさんいるの知ってるけれど、とにかくここではわたしのできる1番をやらなくっちゃ、という思い。終わって、2.5時間くらい電車に乗って吉祥寺で打ち合わせ(という名の友達との散歩)。おしりが痛くなる。井の頭公園の動物園が夜に開放するというイベントをしていて、動物園内の橋がイルミネーションで照らされているのをみた友達が、わたしの作った本に書いてあった「イルミネーションとか、普通に好きだ。」という一文について「わたしはイルミネーション全然好きじゃない」と呟いて、月を撮っていた。わたしはその隣で背中のギターを下ろして一息つく。通り過ぎる通行人が半々くらいで「みて、橋、あんなだったっけ、綺麗〜」といったり、「今日月が大きいね」といったりしていた。

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3連休2日目は美容室と本屋回り。本屋には自分の本を置いてもらうよう頼みにいったり、置いてもらえなかったサンプルを受け取りにいったり、置いてもらっているのを観にいったり、あとは置いてもらえなくっても普通に行きたかった本屋にいったり、たまたま見かけた本屋にいったり。ずっと電車→歩→本屋を繰り返したのだけれど、経由地の渋谷がやっぱり身体に応えてつかれた。
結局たくさん本を買って、ギターは実家に置いて行くことに決める。

美容室、「とびっきり可愛く」と伝えたら髪型がマッシュになっていて、たしかに可愛くて「かわいい〜〜」といつも頼んでいる美容師さんと声を揃えた。本当に、少しずつけれどしっかりと淡々と、自分らしくあれるようになれたらいい。

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