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いけますね、ぎり/12月の日記

1205
洗濯機のホースが外れて床に水が這った。幸い髪を乾かしているときだったからすぐに気がついたけれど、光景を見た瞬間に下の階への漏水を思って泣きそうなくらいひやひやした。
手探りでホースをとりつけてから、ドラゴンの睡眠を監視するように洗濯機の前にすわって洗濯の終わるのを待つ。ヴー、ヴーといびきのような音を立てながら、水が波打って中を回っているちゃぷちゃぷという音が聞こえて、なんだかちょっとかわいい。

1206
30枚入っているフェイスパックを20枚弱使ってからしばらくそのままにしていて、ふと使い切らなくちゃと思って久しぶりに使う。なんだか買ったときはとにかく肌がきれいになってほしくって、そうやって毎日のしあわせ度を高めていこうと思っていたのだけれど、生活が回っていくと自分がとてもシンプルさ、簡潔さを生活に求めていることがわかってきて使わなくなっていた。時間をかけて何かをゆっくり作るよりも、シンプルにぱぱっとつくる方が性格的に向いているのとたぶん一緒だ。だから入浴後の肌の手入れも、できるだけ簡潔で、それでいてちゃんときれいになっているものがよくって、キュレルのモイスチャースプレーだけで結構十分だったりしていたのである。
でもやっぱりフェイスパックいいなぁ、肌が喜んでいる感じする。

1207
仕事で富士山の近くにいく。甲府は標高300くらいで、富士山の方へいくと標高が800くらいになるという。全然違いますね、というと、「俺は上の段って呼んでるけどね」運転手さんがこっちを見ずに教えてくれる。
帰りどき、夕暮れに差し掛かる頃、上の段から甲府へ向かう車道から、オレンジに染まった街が見える。長い長旅路の途中で見つけた大都市みたいに、それはぽっかりとうつくしい。

1208
何度も書いている上司の指導も言葉遣いも全部がたまらなく最高で、ああ、この人と会うためにこの会社に入ったのかも、くらいのことを本当に思ってしまう。そんくらいにわたしの仲のいい同期や先輩も、思っている。誕生日を聞いたら10月だという。「2ヶ月、いけますね、ぎり」というと、「何が笑」というから、「賞味期限はまだ切れていません。祝いましょうよ、いや、祝わせてください、我々で、誕生日」というと、笑ってくれた。いつだって大好きな友人や、恋人やこんな上司には、誕生してくれたということを祝ってケーキとか一緒に食べたい。

1209
週末沖縄に行くことになっていたから、仕事終わりで実家の方へ帰る。寒いけど山梨ほどじゃなくって、まだ元気だったから、吉祥寺駅から実家までの道のりを歩く。井の頭公園を抜け、母校の中学校を横切っていく。あ、この場所から月がきれいにみえる。このお家はクリスマスのイルミネーションすごいんだよね。幼少期からたどり続けたその道筋を少しずつ変わっていってしまうと知りながら、変わらなさにどこか執着している自分がわかる。昨年解散したバンド、キイチビール&ザ・ホーリーティッツのアルバム「すてきなジャーニー」を最初から聴く。「夜明けをさがして」という曲の「大丈夫だよと言ってあげたい ぼくの船なら沈みはしないからと 恨み辛みで生きないように でもいまは いまは ららら」って歌詞でちょっと泣いてしまう。最後のアルバムの最後の曲は「ラッキークレイジーアワー」という底抜けに明るい曲で、大きな物語のエンディングをみているようだった。あっという間に家に着いて、「ただいま」と小さめの声で言うと寝室から母親の「おかえり〜」という声がかえってきた。

1210
沖縄に来たのは2年半ぶりだった。前回と同じように、お仕事をもらっていった。泊まったホテルが海の真ん前で、数年ぶりに会った友人とベランダに出て遅くまでお酒を飲んだりタバコを吸ったりした。風の心地よさがきわたつような暖かい気温、12時ごろまで10代後半くらいの男女が防波堤を歩いたり、テトラポットに座ってしゃべったりしていて、わたしたちが話している間に時折大きな笑い声が混じった。海のきらめきをぼうっと眺めていたら、糸を引っ張るように一つの頂点にそうようにうねりが形を変えていって、「あれ、めっちゃ大きな魚がいるのでは」と身を乗り出していうと、「どこどこ、」といった友人にはわからなかったようで「そりゃいるっしょ」と言って大きく煙を吐く。2年半前、深夜まで涼しいこの街に冬の間は住みたいと心から思ったを思い出す。

1211
沖縄二日目。朝少し時間があったので目的地まで歩いて向かうことにする。歓楽街に差し掛かるとタクシーが並んで停まっている、たぶんタクシー会社側のではない溜まり場みたいなところがあって、おじいちゃんたちがタバコをふかしながら楽しそうに話している。体感でもわかるくらい風には海が混じっているし、植物の生命力がものすごくって、金属が錆び付いていたり、地面がひび割れていたりするのがよく目に入る。山梨にも補修が必要そうな家や道路がたくさんあるけれど、その壊れ方は全く違う。
東京と、山梨と沖縄。このみっつでもうわたしは十分だ、と思う。定期的にこのみっつを回れたら、それでどんだけ楽しいだろう。どの街も違う風に美しい夜景、風、その場所で育った人。

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