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腕の中でふくふくと眠る大きな猫

0927
わたしはわたしの不安のことを随分と蔑ろにしてきてしまったな、と思う。ちゃんと不安を抱え込めればよかったけれど、やり過ごすことばかり上手になってきていて、それは時としてわたしを救ってくれたけれど、けれど自分に自信を持ちたいのならば、不安だからこそ丁寧になる仕事だったりとか、不安だからこそ続けられた習慣みたいなものはすごく後押しになってくれるはずなのだ。
不安は最初子猫のようでも、野放しにしておくといつの間にか大きくて野蛮な虎のようになっていて、けれど大体の不安は「締切」付きだから、わたしに牙を向けたままフッと蒸発して消えてしまう。逃げ切った後にあさましい笑みが残って「なんやかんや耐えたなあ〜」と独りごちる。
少しずつこれからはちゃんと不安を抱え込めるようになれたらいい。腕の中でふくふくと眠る大きな猫みたいに、一緒に生活する心強い仲間に、少しずつなっていったらいい。

0928
「僕のヒーローアカデミア」の漫画を読む。友達との関係性の中で人が強くなっていくさまは、なんだかみているだけで涙が出てきてしまって、特に体育祭の回なんかは、毎回涙が出てくるのを(なんでそんな泣くん?)って笑いながら読んでいた。
自分ではない誰かがいるからという理由で、何かに立ち向かうことができるという感覚はとても確かで、綺麗事のようだけれど真摯にわたしに刺さってくる。

0929
初めてひとりで運転した車は、最初思ったより怖くって、けれど走り出してしまえばあっという間に手慣れていった。
わたしはミスをするとヘラヘラとしてしまう癖があって、その場でやり過ごすことを考えてしっかりと自省しないような気がする。それでいてしっかり復習すれば良いのだけれど、大体は「その場しのぎ」になってしまう。ひとりだと格好つける自分がいないから、ヘラヘラをすっ飛ばして自省することができて、駐車とかも何回も何回も挑戦できて、確実に少しずつ感覚を掴むことができた。
仕事終わりだったから、夜だったし、小さく雨が降っていて、たどり着いたイオンモールは初めて来たところのようだった。戦利品のような厚底鍋と、ボーナス報酬のドーナツを買う。なんとか家に帰りついたとき、無惨に厚底鍋に潰されたドーナツは中からクリームがぐしゃっと出てしまっていて、けれど、なかなかに美味しかった。

0930
仕事がうまく出来なかった。なんというか、脳みそがガバガバで、色んなところから「ところであれってどうなったんだっけ」とか、「ああ、あの企画進めないと」みたいな、もう一つのことに集中できるという感じではなくって、ちゃんと諦めて、午後休みをとって車に乗った。初めて運転しながらラジオを聴いてみた。車とラジオの相性が最強だということを思い知った。それからちょっと音楽をかけて、カラオケくらいの音量で歌った。西陽が強くって、一曲終わったら窓を開けて風を受けながら走った。目がシャバシャバするからすぐに閉じた。

1001
久しぶりに二子玉川に人といって、等々力渓谷くらいまで歩いた。半日ずっと一緒にいたのに、不思議と思い出せるのはシーンの鱗片ばかりで、ただ相手の品のある優しさに触れたことだけをぼんやりと覚えている。
蔦屋書店は流石の品揃えで、普段買えないのも相まって15000円くらい歌集や小説やエッセイを買った。八王子から甲府に着くまでの1時間くらいの道のりで、買った本に満足しながらもなんだか読む気になれなくて窓の外をぼんやりと眺めていた。
昼下がり、川沿いの住宅の側面を覆った金木犀の香り、どっしりとした体つきの少年がキャッチャーを張っていた少年野球の飛び交う掛け声、不意にあくびが出て「ああ、安心してるんだ」ととても久しぶりに思ったこと、渓谷をかける子供が水に落ちないか心配になってばかりいたわたしと、「大丈夫ですよ」と笑ったあなた。

1002
夕暮れ時、音楽を聴きたくって散歩をはじめたら、戻るきっかけを失ってしまってすっかり夜になるまで歩いた。途中、「ああ〜、かわいい〜!!」と叫びながら部活帰りとわかるジャージの女子中学生2人が通り過ぎていった。
「彼氏〜〜にしたい〜〜!!」と叫んだのに被せるように
「わたしが彼氏みたいなもんでしょ!!」と2人目が言う。
「あいつほんとかわいい〜!!」と「ねーねー私は??」が平行線を描いたまま遠ざかっていった。ランニングくらいの速度で進む彼女たちは、その時間の尊さをわかっているのか、出来るだけゆっくり帰ろうとしているようだった。


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