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会社を辞めるって恋人と別れるときに似てるし、唯一の同期が彼でよかった。


今日、仕事を辞める。正確に言うと、仕事を辞める、と宣言する日。

ここは私の居場所ではないと気づいてしまった時から、随分と時間が経った。1ヶ月前までに意思表示をしないといけないから、そのギリギリまでじたばたと悩んでいたけれど、ここにきてようやく覚悟が決まった。


そして今、いつものように早すぎる通勤電車に乗りながらふと、会社を辞めるこの感覚に似たものを見つけた。

付き合っている恋人に別れ話を切り出す時。私が何度か経験してきたあの感じ。

相手は「まさかそんなことを言い出すなんて」という時もあれば、察しているときもある。こちらは随分と前から準備して、たくさんの人に相談をして、恋人に対して悪口を言う自分が嫌になって。次が見つかるかわからないという不安で、やっぱりもう少し繋ぎ止めておこうと思ったりして。

でも一度口に出したらもう後には戻れないし、自分のした選択は正しいと信じるしかない。確かに恋人を振るときとは全く違う重みかもしれないけれど、今日だけはそんなつもりでいてもいいか。


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そんな風に急にこみ上げてきた思いを車内でnoteに綴って出社。仕事が本格的に始まる前に、サクサクと物事を片付けた。まずは人事部、上長に報告。「もっと早く言ってくれたらよかったのに」と言われた。「気付いてあげられなくて申し訳ない」と言われた。

相談できるような状況だったらもっと早く相談していたし、一人でも私の「仕事がしたい」というだけの思いに気付いてくれていたら、こんなことにはなっていないから、それに対しては「いえいえ、とんでもないです」と、よくわからない返事をした。


社員数の多い会社で、認知すらされていない新入社員の私の退職は、大した事ではないと思っていた。しかし、そうでもないらしかった。4月の異動の内示が出る直前ということもあり、周囲がかなりざわついているのを感じた。

転職は、うちのような古き良き会社でなかったら「新しい仕事への挑戦」「ステップアップ・スキルアップ」と捉えられることも多いかもしれないが、そこは流石、100年続く優良企業。人数の少ない新入社員の一人が一年目で辞めるとなると、話は違うようだ。

私が思うにだが、私の直属の上司や先輩の査定は下がるのではないだろうか。私は決して、そうやって復讐したいわけではない。ただ、そういう会社なんだなと改めて実感したし、申し訳ないなと思った。この会社に入ることを選択したのも、辞めることを選択したのも私だから。


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会社には、入社するまでにお世話になった先輩がいた。その人にもその日の勢いで辞めることを報告しに行った。既に私が辞めるという話は聞いていたようで、驚いていなかった。話を聞くと、私の同期がつい二週間ほど前に相談しに来た、と言う。

私が知る限り、彼とその先輩は関わりがなかった。話しているのを見たことがないし、彼の口から先輩の名前を聞いたこともなかった。

そんな彼が、話したことのない先輩をわざわざ捕まえて、私が辞めることを相談していた。私がその先輩のことを信用していると思ったのだろう。「彼女は会社を辞めるつもりでいるけれど、僕はどうしたらいいでしょうか」と聞きに言ったのだ。

先輩と私はこの1年間直接一緒に働いたことがなかったので、「辞めるなら早い方がいいと思う」「彼女の働きぶりを実際に見ていないので、なんとも言えない」と答えたそうだ。その答えは置いておいて、彼がそうして私のためにしてくれたことが、本当に嬉しかった。先輩にこれまでの感謝の気持ちを伝えた後、一人で静かに泣いた。


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私の同期と言える人は彼だけだった。実際にはもっと多くの同期がいたが、唯一同じ部署で一緒に戦った同志。

はじめこそ、彼には振り回された。大学時代スポーツしかやってこなかったおかげで、パソコンが全く使えなかった。入社時は、コピー&ペーストのショートカットキーを知らない若者がいるのかと衝撃を受けた。

何かと新入社員の私たちはセットにされることが多かったので、数ヶ月同じプロジェクトにアシスタントとしてジョインしたが、振られる雑務の量が異なっていた。仕上げるスピードも全く違った。上司が仕事を振り分けるのが下手なのに、彼はそんな状況に対して、私に文句を言ってくることも何度かあった。子供だな、と思っていた。

しかしなぜか、彼と一緒にいると楽しかった。彼と上司と三人で現場を回ることもあったが、電車に乗っている時以外、彼はずっと喋っていた。私は、自分の周りでこんなにも喋る異性を見たことがなかったので、新鮮だった。中身のない会話がほとんどだが、上司との飲み会にはほとんど彼が一緒に参加していたから、私が無理して話を回す必要はなかった。独特の雰囲気と距離の近い話し方に、上司の誰もが「お前は本当になあ…!」と言いながら、とても好いていた。

彼とは職場での不平不満を話すことばかりでなく、プライベートの話もよくした(お互いというより彼の話が中心だが)。彼には3年ほど付き合っている彼女がいて、私に出会ったその日に写真を見せてくるほど、仲の良いカップルだった。彼女の存在を隠すような素振りを一切見せず、堂々としていて、そんなところも推せた。

そんな、コピー&ペーストのショートカットキーも初めは知らなかった彼だが、最近は先輩の異動に伴い仕事が増え、とても頑張っている。前は「活字を読むと眠くなるから」と言って私が貸したExcelの本を突っ返してきたのに、仕事に使えそうな本を読み始めたと言っていた。周りにバカにされ続けて嫌になったらしいが、純粋に努力家だなと思った。


距離の近い同期がゆえに、デリカシーのない嫌な言葉を浴びせられることもあったけれど、なんだかんだいつも許してしまう自分がいた。うるさい人ではあるが、一緒にいて楽しいし私の中ではかなり「いい男」の部類に入る人だ。付き合うのは無理だけど(謎の上から目線)。


話が逸れてしまったが、とにかく、私は唯一の同期が彼でよかったと思う。はじめから今まですごく仲良くしてくれたし、彼がいなかったら私はここまで仕事を続けていなかったかもしれない。

仕事を辞める相談は、私からしたわけではない。昨年の年末、丁度転職活動を始めた頃だった。二人で会議の準備をしているときにふと彼が「なんかさ、〇〇(私の名前)は違う会社で働いた方がいいんじゃない?」と言った。会社を辞めるなんて一言も言っていないのに、考えていることを見透かされたような気持ちになった。

「なんで?」と聞くと、彼は「〇〇には明らかにレベルが合ってないよ、もっと活躍できる場所があるよ」と言った。

彼は普段何も考えていないように思えたから正直驚いたけど、嬉しかった。そんな風に私を評価してくれていること、一番近いところにいる人が前向きに転職を勧めてくれて、前向きな気持ちになれた。

仲の良い同性の同期にも辞める相談をしたが、理由もなく「辞めないで」と返ってきた。申し訳ないが、何も心は動かされなかった。一緒に働いていないのだから致し方ないのだけれど。


本当に、彼を巡っては様々な思い出や腹の立つ出来事があるけれど、社会人になってからの1年間を振り返ったときに、まず感謝しなくてはいけない存在だと思う。

私には「男友達」が一人しかいないから、彼と「同期」でなくなったとき、どんな関係性になるのだろうと考える。私は変わらず仲良くして欲しいけれど、愚痴をこぼす相手がいなくなってしまった彼は、私を裏切り者と思うだろうか。それとも、これまでと変わらず「同期」でいてくれるだろうか。

そう思うと、この会社に入って嫌なことばかりじゃなかった。やはり私には、自分の選択を後悔しないシステムが装備されているようだ。

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