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【"皮"を"革"にする鞣(なめ)しとは?】日本一のワニ革鞣し工場を見学してきたら、想像をはるかに超える日本の職人の繊細な"こだわり"がそこにあった

どーも。GIFT & LEATHER社長のafroscriptです。

突然ですがみなさん、「鞣(なめ)し」という言葉をご存知でしょうか? 

革製品がお好きな方は、"なめし革"といった言葉でよく聞くかもしれません。

しかし、実際「鞣(なめ)す」とは何なのでしょう?

僕自身、まだまだ革業界には最近踏み込んだばかりなので、

「鞣(なめ)し」に対する理解度は、文章や写真を見て、ふんわりと「ん〜、なんか革を大きなドラムに入れて回して、いい感じにするんだね〜」くらいでした。

ワンピースのルフィ的に言えば、「ははーん、要するに不思議洗濯機なんだな?」といった感じ。

そう、レザー会社の社長と名乗っておきながら、「鞣(なめ)し」については、それはそれは林家パー子の笑いのツボくらい浅くでしか理解できていなかったのでした。


国内で一番すごいワニ革タンナーがあるらしい

そこで今回、縁あって、クロコダイルやパイソンなどの爬虫類の革を専門に扱うタンナー「藤豊工業所」さんを見学させて頂くことになりました。

(ちなみに、正確には「タンナー(Tanner)」は、「鞣(なめ)し=tanningをする"人"」を表すので、鞣(なめし)を行う工場は「タンナリー(Tannery)」と言うらしい。)


爬虫類革の鞣(なめ)しは、牛革や豚革のそれに比べると非常に繊細で難しいらしく、

爬虫類革の鞣(なめ)しをできるタンナーは国内にも6つ、世界にも20~30程度しかないとのこと。

そして、そんな中でも国内随一の技術力とこだわりを持つと言われるのが「藤豊工業所」さん。

"工場萌え"という持病を抱える僕としては、そもそも工場見学に行くというだけでテンションが上がるのですが、

今回はそんな国内トップのタンナーである藤豊工業所さんに行けることに加え、専務取締役の藤城さんに案内していただけるとのことで、

多少の緊張とは裏腹に内心ワクワク全快フルスロットルで、八広駅から徒歩16分ほどの荒川沿いにある工場へと潜入してきたのでした。


鞣(なめ)しとは?

工場内には、それはもう(工場好きとしては)萌え萌えな、かっちょよくも重厚感のある渋い設備がいっぱいあり、

早くその写真をここに載せたくてウズウズしているのですが、

その前に「鞣(なめ)し」の概要に触れておきます。


鞣(なめ)しとは、簡単に言うと

「"皮"を"革"に変える技術 or 工程」

のことです。


「は?皮?革?どっちも「かわ」じゃないか!ふざけてんのか?」

...と思った方も多いでしょう。僕も同様にイマイチ理解できてなかったので、詳しく説明していきます。


"皮"とは、動物から剥いだあとの生皮(なまがわ)のことを指します。原皮(げんぴ)とも言います

そもそも皮は、膠原繊維束(こうげんせんいそく)というコラーゲンでできた細い繊維でできているのですが、

動物が生きている状態では、この細い繊維の間が水分で満たされています。

しかし、動物が死んでしまうと、この水分が抜け、繊維が収縮し、硬くパキパキになってしまうのです。

ゆえに、それを防ぐのが「鞣(なめ)し」であり、その防ぐ加工をされ、衣類や小物として人の生活に役立つ素材となったものが"革"なのです。

で、鞣(なめ)しは実際どんなことをしてるかというと、

繊維と繊維の間に、何かしら別のものを入れ込み空間を維持しているのです。

それにより"革"は、生きていたときの皮と同様に柔らかくしなやかな状態を保つことができます。

(そういえば、「鞣」という漢字は、"革"+"柔らかい"だ)

そして、繊維の間に何を入れるかと言うと、代表的なものとしては2種類あります。

■クロムなめし
これは文字通り金属のクロムが繊維間の橋渡しになるもの。塩基性硫酸クロム鞣剤というものを使い、革を鞣(なめ)します。
■タンニンなめし
これは古代から行われてきた鞣(なめ)し方法で、タンニンとは、植物に含まれる渋みのことです。このタンニンが繊維と繊維の間に入り込むことで革を鞣(なめ)すことができます。

なお、現在、一般的に世界で一番流通しているクロコ革は、クロムと合成タンニンの「コンビ鞣(なめ)し」によるもののようです。

※合成タンニン:入手が難しい植物タンニンの代替用/補助用として開発されたもので、白度を増す成分が含まれていたり、石油由来のものが多い。完全植物由来のタンニンとは別物。


ちなみに、「鞣(なめ)し」の起源は、我々がまだ原始人だったころ。

動物の肉を食べたあとに残った皮を捨てるのがもったいないから、噛み続けてしゃぶってたら、たまたま硬くならずに柔らかさをキープできることに気づいたから、

と考えれれているそうです。(これを「酵素なめし」と言うらしい)


製品としての"革"になる工程

先ほどから鞣(なめ)しに注目して話をしてきましたが、製品としての"革"になるには、大きく分けて、鞣(なめ)しを含む3つの工程が必要です。

「鞣(なめ)し」 → 「染色」 → 「仕上げ」

の3つです。

なので、工場写真はざっくりこの順番で紹介していこうと思います。

工程0:原皮の仕入れ

基本的に原皮は、海外から仕入れているそうです。(国内には野生のワニはいないし、ワニの養殖をしているところもないので)

で、空輸で塩漬けにされて日本にやってきます。

写真撮り忘れたんですが、およそ2m四方の箱に、もはやお漬物かのように塩漬けされた大量のワニ皮が収められているのを見せて頂きました。

ちなみにワニ皮は鮮度が重要かつ単価が高いので、空輸+塩漬け(もちろん塩の重量分お金もかかる)にしているらしいですが、

ヘビの皮やトカゲの皮は、剥いだあとに乾燥させると鞣(なめ)しを急ぐ必要がなくなるため、防腐剤のみ入れて船でゆっくり運ばれてくるそうです。

工程①:鞣(なめ)し

さて、やっと工場で撮影したスーパーかっこいい設備たちの写真の出番です。

まずは、鞣(なめ)しや染色をするためのドラム。

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こんな感じで、ゆったりドッシリ回ります。

ドラム

年季が入っているからか、このドラム自体の色味も歴史を感じさせる風合いが出ていて、

日本のワニ革市場を支え続けてきたであろう威厳や風格を感じます。(あー、萌える。(心の声))

このドラムに、革と必要な薬品を入れて、ぐるぐる回しながら浸透させていくのだそう。

もう少し細かく工程を書くと、こんな感じである。

・水につけて塩分や皮について不要物を取り除く
・石灰で、鱗や不要な脂肪を分解、皮の硬い部分を柔らかくする
・鞣(なめ)し剤投入し、耐久性を与える
・革の内面を削り厚さを一定にする
・漂白剤で、皮が本来持っている地模様を落とす
・鞣(なめ)し剤を再度投入
・油剤で革をより柔軟にする
・乾燥

文章にするとたかだか10行以下ですが、これらを終えて完成するまでの期間は、ワニ革の場合なんと最低でも3ヶ月!!

すごい...、およそ季節が1つ過ぎ去っていく間、ずっと同じ革に向き合い続けるのか...。プロフェッショナルすぎる...。

牛革や豚革であればドラムの回すスピードももっと早くてよく、数日程度で終わるらしいのですが、ワニ革は繊維が多く浸透に時間がかかる上に繊細な素材なため、しっかり時間をかけてやる必要があるのです。


ちなみに、日本は四季による1年通した気候変動があることに加え、革は全てに個体差(サイズや状態など)があるため、

各薬剤の調合は、(一応基本のレシピはあるものの)毎日の気候、そしてそれぞれの革の状態次第で、0.1g単位やそれ以下の単位での微調整を都度しているとのこと。

なんてこどだ...職人技すぎる...!


これ↓は、石灰漬けが終わったところ。ワニ皮のゴツゴツした部分も曲げれるくらい柔らかくなっています。

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これ↓は、鞣(なめ)し工程を終えて乾燥させているところ。クロム鞣(なめ)しを施したものなので、ちょっと薄く青みがかった色になっています。

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革の周囲は釘で甘留めされています。

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釘を甘留めにしているのは、乾燥してくると革は収縮するため自然と釘が抜けるからだそう。

もしこれをしっかり留めてしまうと、革の表面に大きな張力がかかってしまい、革の質が悪くなるとのこと。

釘が自然と離れた様子がこちら↓。革が自由奔放に収縮してます。

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ちなみに「タンニン鞣(なめ)し」をしたものはこちら↓。

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革といったらイメージが浮かぶ茶色系の色合いは、この「タンニン鞣(なめ)し」で仕上げたものです。

なお、先ほど合成タンニンについて触れましたが、藤豊工業所さんで生産されているヌメ革は、金属系がいっさい入っていない植物性タンニン鞣(なめ)しが施されています。

工程②:染色

工程②でも使われるのも先ほどと同じドラムです。

この写真↓のようなさまざまな色を混ぜ合わせて目的とする色を作り、革とともにドラムに入れ、色をつけていきます。

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案内をしてくれた藤城さん曰く、ある程度どのタンナーでも目指す色は出せるが、耳かき1杯分(約0.1g)のちょっとアクセントで何か他の色を入れるか入れないかで、最後にできあがる色の完成度が絶妙に違ってくるとのこと。

その耳かき1杯を入れることができるか?そして何を入れるのか?入れないのか?がタンナーのセンスなのだそう。

ここでも0.1g単位の、職人のこだわりの攻防が行われていました。

かっこよい...!


ちなみに、この染色フェーズでどこまで色を入れ込むのか、もタンナーによって違うみたいです。

6割程度をこのフェーズで色を入れて、残りは仕上げフェーズで目的の色を完成させるタンナーも入れば、

ギリギリまでこの染色フェーズで目的の色に近づけて、仕上げは微調整だけにするタンナーもいるとのこと。


藤豊工業所」さんはもちろん後者。

このフェーズで、目的の色の95%ほどまで近づけてしまうようです。

なぜなら、仕上げフェーズにつけた色は落ちやすく、その革で作った製品は、1シーズン越えたくらいでかなり色が落ちてしまうとのこと。

一方、ギリギリまで染色フェーズで色づけしておくと、色が革の中に浸透しているため、色の維持力がまったく違うそうです。

ではなぜ全てのタンナーがそうしないかと言うと、それはやはり技術的に難しいから。

このフェーズの染色は、

色と革を入れてドラム回す → 仕上がりを確認 → 色と革を入れてドラム回す → 仕上がりを...

というのを何回も繰り返しながら、ゴールの色に近づけていくのですが、

一度色を入れすぎてしまえばもう戻ることができません。

もしその失敗をすれば、前工程の「鞣(なめ)し」にかかった3ヶ月も全て無駄になるのです。。。(なんと恐ろしい...)

それでも本当によりよい"革"に仕上げるため、このやり方にこだわっているとのことでした。

工程③:仕上げ

最後の工程、仕上げです。

革に艶を出したり、マットにしたり、挿し色入れたり、色のグラデーションを入れたり。

仕上げフェーズはもはや、ここまでに完成させた"革"というキャンバスに、芸術作品を描いていくような工程です。

下記写真↓の上段が仕上げフェーズで追加する染料たち。中段にある薬品群が、艶を出す/ マットにする、スベスベにする / 少しザラザラにするといった質感の調整をするものだそう。

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これらを、革1枚1枚に対して職人が都度調合し、下の写真のように1枚1枚に吹きかけていくのです。

そう、なんと1枚1枚手作業で...!!

これはとんでもない手間と時間がかかってます...!

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なお、牛革や豚の革などのふらっとな革は、大型の機会で一気に仕上げ工程を終わらせることができるのですが、

ワニ革は、革が平坦ではないため、このように1枚1枚手作業で仕上げていく必要があります。

無論、お客さんには、そもそもの革の個体差があるにも関わらず同じような仕上がりの革を何百枚と納品する必要があります。

スプレーを動かすスピードや位置がちょっと変わるだけで仕上がりが違ってくる世界で、何百枚も同じように仕上げれるのは、もはや想像を圧倒的に越える職人芸...。

すごすぎる...。

例えばこれ↓

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こういうグラデーションも1枚1枚(なんと)手作業で仕上げているのですが、右と左のワニ革、それぞれ別の個体を仕上げたとは到底思えないくらい仕上がりが揃ってる...!!(そもそもグラデーションきれいすぎるし)

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下の写真↓の革は、ビミョーに色のムラがあって立体感を感じさせますが、これもこの工程でわざわざ描いたものらしい。なにこれ、すごすぎではないか...!

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さらにいろんな仕上がりのものを見せてもらいました。このあたりはもう、なんなんだろう、どうやったらこうなるのかまったく想像がつかない。

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カラフルなものから、タマムシをイメージしたもの、竹林をイメージしたものなど、もはや藤豊工業所さんに作れない柄なんて無いんじゃないだろうか...!

ちなみにこちらのページでも、いろんな仕上げをした革がもっと見れるので、ぜひ見てみてほしい。

まとめ

もう本当に終始、職人のこだわりがすごすぎました。(そして工場の設備もかっこいい!!)

全工程において、本当にいいものに仕上げるためにより繊細な調整に挑み続ける姿勢にワクワクが止まりませんでした。

藤豊工業所さんのスーパー技術で完成された"革"を使ったプロダクトは、オンライン(2019年12月15日現在はメンテナンス中)や実店舗でも買えるので、気になった方はぜひ覗いてみてください。

ちなみに、現在、GIFT & LEATHERではワニ革を使ったプロダクトはまだ出してないんですが、今後、使用する革のバリエーションは増やしていく予定です。

なので、近い将来藤豊工業所さんの革を使ったGIFT & LEATHERプロダクトも生まれるかも...!?

ぜひご期待ください!:)


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