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W杯アフリカ各国プレビュー~カメルーン~

 カタールで開催されるFIFAワールドカップ2022に向けて、各国の代表メンバーが続々と発表されている。本ブログでは26名のエントリーメンバーを踏まえアフリカ勢の闘いを展望する。今回は「不屈のライオン」カメルーンを紐解く。

新米ソング監督の下粘り強い闘いが出来るか

 愛称の通り不屈の精神で厳しい予選を勝ち抜いたカメルーン。アフリカ屈指のタレント王国のイメージが強いが、今大会に臨むチームは小粒が揃っているもののこれまでほどの派手さは無い。最終予選前に監督に就任した同国の元主将リゴベール・ソングの選択したメンバーは意外性もあるが、最終予選の戦いぶりを見る限りレジェンドの下一丸となって格上に立ち向かう姿が期待できそうだ。
 一方で戦術の浸透や要所の戦力には不安が募る。本大会7連敗中のライオン達は、悪しき歴史から脱却できるだろうか。

システム:2トップの成熟度を高めたい

 ここ数年は主に4-3-3(4-1-4-1)と4-4-2を採用している。エントリーメンバーの顔ぶれから、主に4-3-3でゲームに入るのではないかと予想される。得点が欲しい場面や前線で起点を作りたい場合に、4-4-2にシフトする可能性は高い。
 というのも、エリック・マキシム・チュポ・モティングがバイエルン(GER)でまさかの1トップのレギュラーを掴むほど絶好調で、エースで主将のヴァンサン・アブバカル(アル・ナスル=KSA)とどちらにCFの定位置を預けるのか甲乙つけ難い状況だ。であれば同時期用してしまえ、という発想に至るのは自然な成り行きで、彼らのピッチ上での関係性を整理し深めることもソング監督の大事なミッションとなるだろう。
 従来の2トップ起用では、チュポ・モティングが低い位置やライン間でボールを捌く等トップ下的な振る舞いを見せることが多い。しかし所属元ではポストプレーヤー兼ボックスストライカーとして機能している。キャリア最高レベルの活躍を見せるチームの人気者に、どのようなタスクを与えるべきか難しいところだ。

フォーメーション予想図
フォーメーション予想図(オプション)

戦術:前監督の積み上げを活かせられるか

①ビルドアップ
 前指揮官トニ・コンセイソンの下では、WGとSBが大外と内側のレーンを巧みに使い分けスペースを作り出すポジショナルプレーが随所で見られ、特にビルドアップは相当整理されている印象だった。しかし最終予選含め監督交代後の数試合では、低い位置でバスを受けたSBに次の選択肢が無く、可能性の薄い前線へのラフなロングボールに逃げる場面が散見された。こと戦術面については、現状コンセイソン体制下から劣化している印象を受ける。
 SBのボールスキルは高く、クリストファー・ウー(レンヌ=FRA)らCBも自ら持ち運ぶ能力を備えているが、ビルドアップの肝は間違いなくアンドレ・オナナ(インテル=ITA)、ザンボ・アンギサ(ナポリ=ITA)の2人だ。前者はGKながら11人目のフィールドプレイヤーとして遜色なく組み立てに参加でき、後者はCB間からCFの付近まで幅広く顔を出しながらボールを失わずに的確な散らしで試合を「作る」ことができる。
 両ウイングが中央に絞り、CBや中盤がボールを保持して相手を引きつけ、オナナかアンギサのロングパスで空いたサイドのスペースにSBを走り込ませる展開がコンセイソンの十八番だった。ヘッドコーチとして前監督と共に働いたソングに、これまでの積み上げを継いで欲しいところだが…。

②崩し
 前述のビルドアップで大外のSBを使った後、中央に絞ったWGがハーフスペースの背後でパスを引き出しドリブルで仕掛けるorもう一度SBを使って抉る、の流れがこれまでの崩しの形だった。監督交代後もWGの突破力にやや依存する傾向は変わらない。3次予選でコートジボワールを、最終予選でアルジェリアを下す決勝点をマークし母国を窮地から2度も救った、左WGのカール・トコ・エカンビ(リヨン=FRA)が崩しの核だ。
 最終予選後代表に加わったブライアン・エムベウモ(ブレントフォード=ENG)はプレミアリーグの屈強な守備者達も翻弄されるドリブラーで、エカンビと同様相手に風穴を空ける単独突破が期待できる。
 しかしサイド2枚だけで簡単に崩せるほど本大会は甘くない。バイタルエリアに近づいてからはアブバカルらCFはゴール前や中央に極力位置取らせるとして、センターハーフもしくはダブルボランチを務めるアンギサやマルタン・ホングラ(エラス・ヴェローナ=ITA)らが、アタッキングサードへの侵入やこぼれ球の回収で、どれだけ前線に関与できるかがポイントになりそうだ。

③守備 
 守備戦術は、アフリカ各国のトレンドとも言えるプレッシングとリトリートの使い分けがベースとなっている。アフリカネイションズカップ2021では、格下相手にはスピード自慢の両WGとボール奪取能力の高い中盤による即時奪回が機能していた。しかし本体会ではリトリートで耐える時間がどうしても長くなるだろう。現代表チームはクロス対応にやや難がある印象で、特に強力なターゲットマンが揃うセルビア相手にはその弱点が命取りとなる。ただスペースを埋めるだけでなく、WGやセンターハーフも協力しながら簡単にクロスを上げさせない間を詰める守備を徹底したい。

選手層:現状レギュラーと控えに実績の差が

 ワールドクラスの数こそセネガルに劣るものの、各ポジションで地味ながら優れたタレントが揃っている。オナナ、アンギサ、アブバカル、チュポ・モティングとセンターラインは強力なスカッドが揃う。
 不安が残るのがDF陣で、ディフェンスラインのリーダーを長年務めてきたマイケル・エンガデュ・エンガジュイがまさかの選外となった。その詳細な理由は明かされていないが、エンガデュを欠く最終ラインは高さやフィジカル面で劣勢に陥る可能性がある。ウーやエンゾ・エボス(ウディネーゼ=ITA)といったヨーロッパトップリーグで成長を続ける若者のさらなる奮起が求められる。
 中盤より前はレギュラー組と控え組の格差がやや大きく、特にWGの選手層は気がかりだ。ムミ・エンガマレウ(ヤングボーイズ=SUI)は戦術理解力が高く計算できる戦力だが、クリスティアン・バソゴグ()はここ数年代表での出来が芳しくなく、ジョージ・ケヴィン・エンクドゥ(ベジクタシュ=TUR)も実績はほぼ0だ。2者とも鋭い仕掛けから守備網を突破できる実力者であることに変わりはなく、大舞台での本領発揮が母国の大きな力となるのだが…。

 代表チームのコーチとして経験を積んでいるものの、監督としての実績は無いに等しいソングがどれほどの戦術を落とし込めるかは未知の領域だ。たしかなコンセプトを元に攻守の約束事を構築できるのか、相手や状況に応じた選手起用ができるのか、始まって見ないとわからないことばかりな現状である。
 しかし母国のレジェンドCBを、選手たちはかなりリスペクトしているように見受けられる。過去の大会と比べると真面目な選手が揃っており、これまでカメルーンを苦しめてきた「内紛」は大きな問題とならないのではないだろうか。
 音楽を流し歌い踊りながら陽気に戦場へと入る獅子たちを率いて、世界を驚愕させた90年大会の「大物狩り」を再現できるか、最初にして最大のソングの挑戦が始まる。

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