【弁理士試験】#003 書いてみてはじめて気付く...
#002では、「青本の勉強」なんて意味がないことを話しました。やるべきはアウトプットです。これこそが論文式試験勉強の王道です。アウトプットの重要性について、しつこいですが、もう1回つづけます。
さて、理解したと思っていても試験問題の前で固まってしまう経験はありませんか?今回はそんなお話です。
「条文に書いてあった」は落とし穴
法律の条文には非常にわかりやすく記載されています。
なのでインプットの勉強を通じて条文を読めるようになった時点で、「わかった気」にさせられてしまうのも無理ありません。これが落とし穴です。
法律が読めること(書いてあることが分かること)は、そのように作られているものだから当然のことです。それを具体的な事案にどう適用するか、それが難しいのです。
なお、ここでいう「わかりやすく記載されている」とは、読みやすいという意味ではありません(特許法17条の2第3項なんか、ぐちゃぐちゃに感じますよね…)。基本的には誰が読んでも誤解が生じえないことを指しています。具体的には、どのような要件が備われば、どのような効果が生ずるのか、という点が明確に記載されているということです。
【事案例】この条文であってる….よね?
「条文に書いてあることはわかった。そして、なぜそういう条文があるかは予備校の書籍に書いてあったからわかっている。これでこの条文は何を聞かれても解ける!」
こうなりがちです。このような姿勢は、最終的には、素晴らしいものですが、初学者は少し冷静に確認しましょう。
法律の条文は抽象的に書かれており、本に記載されている解説は、それをシンプルにした理想のモデルケースにすぎません。
なので、条文や予備校の書籍を読む限りではシンプルなことでも、よく考えると深い内容なものがたくさんあります。以下で例を見てみましょう。
発明の種類が3種類に分かれているのは知っている
特許法の「発明」には、①物の発明、②方法の発明、③物を生産する方法、の3種類があるということは、条文や書籍を読めばわかることです。
そして、発明の種類に応じて、「実施」に該当する行為が変わることは条文に書いてあり、誤解が生じ得ない程に明確です。発明の種類は、特許権侵害は、特許発明の技術的範囲に属する物/方法の「実施」について成立することから、侵害行為の成否に関わる重要な点になります。
例えば、物の発明と物を生産する方法の発明の違いについて、条文からわかることは、「実施」につき、前者には「方法の使用」が含まれない一方で、後者にはこれが含まれるという点です。
常人であれば、アウトプットなきインプットでは、ここまでしか考えられないでしょう。しかし、これでは検討が不十分です。
これは物の発明?物を生産する方法の発明?
例えば、ある被疑侵害品Aに対して、特願2011-87735号「ロール苗搭載樋付田植機と内部導光ロール苗。」の請求項1に基づく権利行使の可否について、試験で問われたとしましょう。
まず、上記請求項1の記載をみると、(a)~(e)は、「プラバスタチンナトリウム」という物を製造するための方法であることが分かります。
すなわち、これは、プラバスタチンという「物の発明」であるようにもみえる一方で、(a)~(e)の方法によってプラバスタチンナトリウムを生成する「物を生産する方法の発明」であるようにみえます。これはどちらに該当するのでしょうか。いきなりこれを見た場合は、混乱するでしょう。
答案では、物の発明か、物を生産する方法の発明か、判断しなければなりません。前述のとおり、特許権の権利行使の可否については、発明のカテゴリーによって「実施」行為の内容が異なるため、問題となっている特許発明のカテゴリーが何であるか把握することは答案の結論にも大きく影響する重要な点です。
仮に、請求項は文言上、「~であるプラバスタチンナトリウム」と物を対象とした書きぶりになっていることから、これを「物の発明」とみて答案を書き進める場合は、(a)~(e)の方法は、権利範囲にどのように影響してくるか迷うはずです。つまり、記載された製法で製造されているかどうかと関係なく「プラバスタチンラクトンの混入量が0.5重量%未満であり,エピプラバの混入量が0.2重量%未満であるプラバスタチンナトリウム」であれば、特許発明の技術的範囲の含むのか、それとも当該プラバスタチンナトリウムのうち、(a)~(e)の方法で生成されたものに発明の技術的範囲が限定されるのか、迷うことになりそうです。
他方、「物を生産する方法の発明」とみれば、(a)~(e)の方法のみを「使用」することも権利範囲となることは明確になる一方で、請求項は文言上、「~の方法」となっていないにも関わらず、方法の発明の一種と恣意的な解釈(このように読む人によって一つの結論を導けない可能性がある解釈)をしてよいのか迷うことになりそうです。また、被疑侵害品Aが(a)~(e)の方法によって製造されているものの、プラバスタチンラクトンの混入量が1重量%以上である等、最終的には「プラバスタチンラクトンの混入量が0.5重量%未満であり,エピプラバの混入量が0.2重量%未満」ではないプラバスタチンナトリウムであった場合に、特許発明の技術的範囲の含むのか迷うかもしれません。
(ちなみに、この例は、「プロダクト・バイ・プロセス・クレーム」と名付けられた論点であり、最高裁判決も出ている重要なものです。令和5年の弁理士試験でも出題されています。これについての詳しい解説は、具体的な過去問に沿って記載します。また、弁理士試験の範囲で、最高裁判決がでている論点は限られておりますので、網羅的にまとめたいと思います。)
書かないと気づけないこともたくさんある
このような疑問は、実際に書いてみてはじめて気付けることです。
特に一見わかりやすく見える条文は、わかった気に陥りやすく、問題文と対峙して、はじめて冷汗がでるものです。
それはなぜでしょうか?
インプットの勉強の際は、その1つの条文だけを見れば十分でしょう。
しかし、具体的な事情との関係で条文の適用を考えるときは、その条文だけではなく、必ず競合する他の条文との関係で問題になるのです。
しかし、条文には、他の条文との関係で、どちらを適用すべきかは、全く書かれていません。ここを考えるのが弁理士試験でまさに問われているところであり、弁理士の仕事です。
(その条文だけみれば答えが出せるのであれば、誰でもwikipediaを読めば解決できるので、弁理士なんて要らないはずです。)
すなわち、インプットの勉強だけでは視野が非常に狭くなってしまい、実際の事案をみたときにどちらの条文を適用すべきか、経験不足で迷ってしまうのです。
上述の例のとおり、試しに1つの条文を当てはめてみようと思っても、別条文とどう違うのか、わからなくなってしまうなんてことになりかねません。(みんな迷うからこそ、wikipediaだけでは足りず、弁理士という仕事があるのです。)
条文の真の理解
つまり、条文の規定は、他の競合する規定との関係も踏まえて、相互に、真に理解する必要があります。その条文が、制度全体の中でどういう位置づけにあるかを理解する、いわゆる体系的な理解が必要なのです。
これがまさに条文の真の理解となります。この真の理解は、これはアウトプットの蓄積でしか養われない能力です。これは残念ながら一夜漬けで手にいれることができるものではなく、アウトプットで、少しずつ、少しずつ、視野を広げて、地道に手に入れていくしかありません。
弁理士試験には、「これを覚えれば合格する」といった必勝のインプットの勉強はなく、アウトプットを通じて、具体的事案への適用を重ねて自分の中でノウハウを蓄積する他はありません。
(近年の短答式試験は、条文の細かい文言についても出題される傾向が強いため、最終的には条文の暗記が必要になってきます。あの量を暗記することは常人にはできないでしょう… しかし、条文の真の理解を得れば、覚えるまでまでもなくなるはずです。僕の感覚としては、「この条文は●●というよ要件を備える場合に●●という効果を規定して、他の●という条文とは別の機能を有しているのであるから、条文の文言は絶対にこうなっているはずだ。」という感じです。これを読んでくれている皆さんには、闇雲に条文を暗記するのではなく、このように条文の文言を考えられるようになってほしいと思っています。)
ここで「じゃあ全ての論点を書かなきゃいけないの?あまりにも非効率的でしょ。」と思う方もいるかもしれません。しかし、答えはNoです。
全ての論点を書く必要はありません。
ある程度の論点を書いていくうちに、その根底にある法律の根幹(リーガルマインドとでも言いましょうか。)がみえてきます。その根幹がみえれば、あとは書いたことのないはじめてる論点も、何が問題であり、どう理解すればよいか、自ずとわかるようになります。
大丈夫です。ゴールは思ったほど遠くはありません。
つづけましょう。
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