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都市に建てられたスチールパイプの原生林

綺麗に整えられた上質で上品な家。そこに居心地の良さを感じることは珍しくない。けれど、人間が居心地の良さを感じる場は必ずしも美しい調和の空間とは限らない。人によっては、荒々しい迫力に満ちた空間、そこに安らぎを感じることだってあるだろう。

角地に建てられたその戸建住宅は異様な迫力を誇る。山田紗子建築設計事務所による「daita 2019」である。

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山田紗子建築設計事務所「daita  2019」より

僕はdaita 2019の写真を一目見るなり、驚いた。スチールパイプで組まれた骨組みに階段が作られた住宅正面の様子は、施工途中の工事現場のような荒々しさを感じ、そこに緑が絡み合うことで自然の生々しさも重なり合った迫力ある住宅が完成していた。

「これは本当に完成された家なのか?未完成なのでは?」

そう思う人がいても不思議ではない。

一見すると玄関がどこかもわからなず、緑の樹々に覆われた樹海に紛れ込んだよう。この迫力ある外観の戸建住宅だが、建物内はどうなっているのだろう。僕の興味はそこへ移る。

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100%LiFE「おおらかな自由さの中で居心地よく暮らす」より

木材の構造が露わになった建物内は、室外空間が室内にまで延長してきたダイナミズムを感じる。

家を大胆に切り取ったかのような開口部がその印象をいっそう強める。

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山田紗子建築設計事務所「daita  2019」より

最初僕は住宅内を写真で見た時、木材の柱や梁が大胆に室内を交差していく様子が、住むには少々落ち着かないかもしれないと感じられた。だが、写真をずっと眺めていると感覚は逆転する。次第に心地良さそうな室内空間に感じられてきたのだ。

それはなぜなのだろう。

自然に触れた時、人間は安らぎや穏やかさを感じる。それは人間に備わった原始的な感覚と言えるだろう。室内に住みながら、自然の中に身を置いた時の心地良さを感じられる家。それがこのdaita 2019ではないだろうか。

スチールパイプで作られた原生林を通り抜けた先には、自然の中で生活を営む気持ち良さが潜んでいる。daita 2019は人間の野生を刺激する。

〈了〉

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