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人類学者の「アフリカめし」ー『ブルキナファソを喰う!』清水貴夫著

本書の著者である清水貴夫氏は、ブルキナファソ(*)をメインのフィールドとしている人類学者である。2003年に知人を介して知己を得た。あれからもう20年も経つのだ…

清水氏の研究の調査対象は、ブルキナファソの若者、ことに“ラスタマン”と呼ばれる人々に始まり、「ストリートチルドレン」、さらには農村へと広がって行く。先日うかがった話によると、現在は、日本における西アフリカの人々についての調査もされているようだ。ある場所において少し異質な人々とその周辺を研究されて来たことを見れば、それはとても自然な流れだと思える。

清水氏にとって「アフリカめし」は、それ自体が研究対象というわけではない。1999年2月に旅行で初めてブルキナファソに降り立ち、2003年にNGOの職員として4月から8月まで滞在、そして2005年に本格的に研究を初めてからはほぼ毎年、時には年に数回通い続けている氏にとって、研究を下支えするようなもの、あるいは研究が一枚の布を織ることだとすれば、そこに織り込まれる糸のようなものだろう。

「アフリカめし」は研究対象ではない、のではあるが、そこはさすが研究者。研究のかたわらに「アフリカめし」を収集し、本書のような形にしてくれた。研究書はちょっと難しすぎて、という人でも臆せず読めるようなポップな本だ。日本語で書かれた本で、これだけ西アフリカの料理を集めたものは、現時点では他にないと思う。写真が豊富なのもいい。

本書の構成はこうだ。
全体を食事のコースに模して、食前酒、前菜、ファーストディッシュ…という風に章分けされ、最後にデザート、そしてディジェスティフがあとがき。間に食間酒というのもある。

序盤に清水氏がアフリカに行き着くまでと研究について書かれていて、それが全体の1/4強くらい。前菜までの部分だ。その後はブルキナファソを中心とした西アフリカ料理の話になるが、もちろん単なる料理紹介、レシピ紹介の類ではない。その料理にまつわる清水氏の個人的な体験が、現地の人々の話を交えて語られる。

この“個人的な体験”こそが読者にとって最も貴重なものなのだ。

私は「アフリカに関心を持つ人々」に関心があり、彼らの話を聴きたいと思っている。清水さんもその一人だ。話を聴きたい、というのはつまり彼らの“個人的な体験”を聴きたいということに他ならない。Africa Snackプロジェクトを始めたのも、実はそれがそもそもの動機だった。

「アフリカに関心を持つ人々」にはおもしろい話を持っている人が多い。それだけアフリカがおもしろいところだ、ということもあるが、その人の「アフリカ以前」の話を聴いてみると、実はもうすでにおもしろかったりする。そもそもおもしろい人たちがアフリカに関心を持つ、ということもあるのかもしれないと思う。

本書は話し言葉で書かれているわけではない。しかし内容のひとつひとつが具体的なので、まるで話を聴いたかのような読後感を与えてくれる。メインの料理の話に加えて、日記形式のコラム「備忘録」が“食間酒”として途中に登場するが、そこには研究者の日常が垣間見えて、また別のおもしろさがある(特に「プリン」のところが好き)。巻末にはブルキナファソの基本情報があるので、ブルキナファソを知る最初の手がかりになるだろう。

西アフリカに少しでも興味があればぜひ手にとって欲しい一冊だ。

ミネコ


(*) ブルキナファソは、Africa Snackの推しの国であるマリとコートジボワールに接する国で、マリ同様内陸国である。
首都ワガドゥグでは2年に一度、映画祭FESPACO (Festival Panafricain du Cinéma et de la Télévision de Ouagadougou) が開催される。これには行きたい行きたいと思いながら、今だに参加を果たしていない。私がマリにいた2004年は残念ながら非開催年だった。次回は2025年。うーん行きたい。

ブルキナファソとその周辺国
外務省サイトより



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