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6. さようならモンゴル、こんにちはロシア

ずっと一番安い3等寝台の旅になるはずだったけれど、ウランバートルでガンさんのお姉さんに買ってもらった切符は2等寝台だった。これも一興。

ウランバートルからイルクーツクは直線距離で500km強、実際は山脈を迂回するので1000km、夕方発早朝着、2泊3日の旅。東京からだと、同じ直線距離なら青森まで、実際の道のりなら札幌まで行ける長さだ。


2等寝台は、扉を開けると2段ベッドが向かい合わせにある。自分の部屋を探して入ると下段の2つに先客がいた。ひとりはモンゴル系の顔立ちをした、おばあちゃん。もう一人は、某大統領のようなガタイのいいタンクトップのロシア人のおっちゃん。

ほどなくして、もう一つの2段目の客がやってきた。背の高いヨーロッパ系の若い女性。でも残念ながらこの旅にロマンスはない。トラブルならあるけれど。

列車はほぼ定刻通り動き出した。車窓は樹木が少なく、乾燥した草原地帯、といったところ。

2段ベッドの女性は、オランダ人と分かった。通りで背が高いわけだ。187cmある彼女はシンガポールでの留学を終えた後、陸路でヨーロッパに帰る途中らしい。世界は広い。

ロシア人のおっちゃんに誘われ、焼いた牛肉の塊とウォッカのご相伴に預かる。オランダ人の彼女はベジタリアンらしく、お断りしていた。

一言言って飲み干す、ロシア式乾杯。乾杯のような決まり文句は無いけど、За здоровье!(ザ ズダローヴィエ、健康のために)はよく使われるらしい。持ってきていたロシア語辞書を引き引きつたない会話をする。

おっちゃんは大学でドイツ語を学んだらしく、少しドイツ語を話した。僕も第二外国語がドイツ語だったけど、会話できるほど身についてはいなかった。

ロシアが近づくにつれて植生が豊かになり、森林が見られるようになった。


そして一晩明けた昼、やってくる国境。さようならモンゴル。こんにちはロシア。

こちらがモンゴルのビザ。モンゴルのビザは、右の赤い角印に、中央にモンゴル国の国旗のマークを配し、その左右に伝統的な縦書きのモンゴル文字が刻まれている。左上の青いホログラムは国章だ。

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モンゴル最後の駅スフバートルで出国、ロシア最初の駅ナウシキで入国する。ロシアの入国審査では、各車両を審査官らしき人が回り、手続きが必要な大きい荷物を持った人たちは駅舎のそばにある建物で税関の手続きをするらしい。僕らの部屋では、モンゴル系のおばあちゃんが、大量の織物の入った荷物を持って出て行った。

駅ではだいたい数分から長い時は数十分停車する。特に入出国の手続きは時間が掛かる。そこで水や食料を調達するのだ。おっちゃんが散歩に行くspaziergehen、とドイツ語で言い残して出て行った。ドイツ語の単語はほとんど覚えていなかったけどなぜかその単語は頭に残っていた。オランダ人の女の子は蘭独英、3ヶ国語わかるようだった。


実は、ロシアに無事に入国できたことにほっとしていた。

ロシアのビザは少し特殊だ。ビザは、今回モンゴル入国でも取ったけれど、入国から1ヶ月有効、ただし入国は何年何月までにすること、という形式が一般的なようだ。

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しかしロシアのビザは、ソ連時代の名残で、入国から出国までの交通機関やら宿泊施設やらをすっかり予約してその証明書を発行してもらい、その期間ぴったりでないと発行されない。

つまり、いついつの電車で入国して、この都市のこのホテルに泊まって、このバスで次の都市に移動して、航空機何便で出国します、まで予約しないとビザが取れないということになる。

しかも、日本からの予約では3等寝台は取れないと聞いた。3等寝台に乗りたかった僕としては一大事だ。ただ、何事にもグレーゾーンは付き物で、ビザ取得のための証明書を発行するところがあり、ネットで調べて30日分を取得した。ビザの真ん中に「зао интелсервис центр」 と書いてあるところが、予約等の証明書を発行したところを示している。

それを元にビザを取得してきていたものの、30日という枠が決まってしまっているので入国日がずれてしまったのを心配していたが、杞憂に終わったようだ。


記憶は、この文章を書いている間にも、ひと粒またひと粒と零れ落ちて行く。そうして最後まで手のひらにあると思っているのは僕の経験だろうか。単なる情報の羅列、記録、妄想となにが違うと言えるんだろう。当時自分が残した文章に縋って、絞り出すように言葉を並べる。


列車はバイカル湖の下をぐるりと巡り、翌日早朝イルクーツクに着いた。

北京での経験を活かし、まず切符の確保をするため、売り場が開くまで待つ。

駅の周辺は空が広々としていて、あまり栄えてる感じはしない。駅は街の中心ではないのだろう。高いビルはなく、タクシー乗り場、ロータリー、駐車スペースのある道幅の広い2車線道路。アスファルトの黒々とした色ではなく、白い粉が浮き出てそうなコンクリートだ。

キオスクは、日本のような商品むき出しとは正反対で、40cm角の窓がひとつ空いていて、ガラス張りのショーケースから選んで口で伝える方式だ。無論、早朝から開いてはいない。食料品、飲料を売る日本にあるようなお店から携帯電話専門ショップまであって面白い。

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散歩して戻ると切符売り場が開いていた。立てていた計画に沿って切符を買う。

ロシア語はしゃべれないので、出発地、目的地、出発日をまとめたメモを見せる。この辺は中国と変わらない。

イルクーツク発モスクワ行、3泊4日。この旅最大の目的である移動手段。

出発日は明後日。

明日の宿は北京のユースホステルで予約したおいたけど、今夜の宿は取っていない。

バイカル湖の近くに行ってみたくて、行ってみればなんとかなるでしょという身軽さで。

さてどうなることやら。




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