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「ニーナ・シモン〜魂の歌」を観てようやくボクは彼女の苦しみの1ページ目にたどり着いた

訳あって(と言っても住んでいる集合住宅全体にケーブルTVが敷設され、割安なプランで契約できたからという単純な理由なのだが)Netflixを観ることができるようになって、映画やオリジナルドラマなどをチェックしていたら、2015年製作のドキュメンタリー映画「ニーナ・シモン~魂の歌」があったのでマイリストに登録、ようやく時間ができたので鑑賞した。

オリジナル・タイトルは“What Happened, Miss Simone?"で、Netflixのオリジナル。監督のリズ・ガルバスは数多くのドキュメンタリー映画を手がける“名匠”と呼ばれている人で、本作で第88回アカデミー賞長編ドキュメンタリー部門にノミネートされている。

ニーナ・シモンと言えば、いまでこそ“偉大な黒人シンガー”なんて紹介のされ方をするけれども、ボクが初めて彼女の声に触れた1970年代末の日本では、知る人ぞ知るどころか知っていても誰も話題に乗ってこないような存在だった。

そのころ通っていた新宿二幸裏のStickというジャズ・スナックでは、もうそろそろ店を閉めるという明け方の時間になるとニーナ・シモンの『アット・ニューポート』のB面が流れ始め、「ユード・ビー・ソー・ナイス・トゥ・カム・ホーム・トゥ」の荘厳さに酔いが醒めて帰り仕度をするという週末を繰り返していたので、ボクの脳内にはあの声とピアノが染みついてしまったのだが、ジャズの書きものの仕事をするようになってニーナ・シモンの名前を出しても周囲の反応は薄いというかむしろ冷たく、宙ぶらりんになったままで過ごしていたのだ。

そんな違和感の原因も本作は(なんとなくではあるが)解き明かしてくれていて、その壮絶なバックボーンからあの歌唱が生まれていたのかというメイン・ストーリーとともにたっぷりとニーナ・シモンの世界に浸ることのできる内容となっていて嬉しい。

差別や分断が止まないどころかますますエスカレートする昨今、これまで政治的なアクションを無視することで過少評価されてきたニーナ・シモンが、ようやく全人的に取り上げられる世情は素直に喜べないところもあるが、まずはこのドキュメンタリー映画によって少しだけ彼女の苦しみに近づけたことを良しとしたい気分になっている。

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