トランプ𓃠の事件簿
吾輩は〈トランプ〉である。
ご主人のところへ来て6年経った。
自由気ままに暮らす吾輩にも事件が何度も舞い込んできた。
ご主人の娘
吾輩がご主人のところへやってきて一番厄介な相手がいた。
それは娘である。
小さい子供だからなのか吾輩を追いかけ回してくる。
昼夜問わず追いかけ、捕まると変なものを着せたり強く抱きしめたりしてくる。
『やめんか』と言ったところで伝わるわけがなかった。
吾輩は抱っこされるのは好きではない。
吾輩にも我慢の限度がある。
ある夜のこと、執拗に追いかけ回され吾輩は逃げ道を塞がれた。
吾輩は抵抗した。
娘の足に噛みついてやったのだ。
吾輩の牙が娘の肉に食い込んだ。
娘はその場で泣き崩れた。
泣き崩れた娘にご主人と奥さんが近寄ってくる。
吾輩は主人に怒られた。それもそうか。
いくら嫌がらせをされても、傷つけるのは良くなかった。
数日間娘は足に白い布をつけていた。
吾輩に近づく事はないだろう。恐怖を植え付けたから。
そう思っていたが、娘は吾輩が思っているより強かった。
何事もなかったかのように近寄ってくる。
前みたいには執拗に追いかけ回されることはなくなった。
吾輩も悪いことをしたから今回は許してやろう。
少し娘と距離が縮んだ事件であった。
吾輩と恐ろしい場所
『あ〜ぁ歯が痛い』
吾輩の声はご主人たちには伝わらないのだろう。
それでも叫びたい。
歯が痛いが吾輩にはどうすることもできない。
歯が痛いと食欲も落ちる。
どうしたものか。
そんな日が続いたある日、奥さんが吾輩の異変に気づいてくれた様子だ。
吾輩を箱の中に入れ、車でどこかへ連れて行くようだ。
どこに行くのだろう
車が止まり吾輩は降ろされた。
奥さんと吾輩はどこかの建物に入っていく。
中に入ると『早く帰りたいよ』『暇だわ』『嫌だ〜』という声が聞こえてくる。
外を眺めると吾輩と同種のものと犬がちらほらいる。
どうやら病院というものらしい。
病院には嫌な思い出しかない。
人間に呼ばれ奥さんが吾輩を持ち上げた。
冷たい台の上に乗せられた吾輩。
何やら数字を図っている。
吾輩の体重は6.2kgらしい。
白色の上着を羽織ったものが吾輩を触ってくる。
この者が医者というものなんだろう。
医者は吾輩の口の中を無理やり見てくる。
『やめんか。この無礼者め』
吾輩の歯をすごく触ってくる。
その次に耳に聴診器なるものを装着し吾輩の体にあててくる。
『やめんか。くすぐったいではないか』
やっと終わった。
やはり病院は嫌いだ。
その後、吾輩は歯の治療を受けに何度か病院へ行くことになった。
外の世界は興味津々
吾輩は家猫である。
家でのんびり過ごすのは悪くはない。
だが、窓の近くで眠ていると外がうるさい。
『見てみて奥さん。あの猫いつも寝てるね。』
『そうですね奥さん。オホホホホ。』
うるさい鳥たちだ。
吾輩をバカにしておるわ。
吾輩は辛抱強い。
辛抱強いのだ。
外に出たことはない。
生まれは外らしいが、すぐに拾われてそこから室内育ちになった。
外に興味がないわけではない。
タイミングがなかなかないだけだ。
ある日そのタイミングがやってきた。
我が家に男の子がやってきた。
その者が玄関ドアを閉め忘れたのだ。
『よし。今なら出れる。』
吾輩は勢いよく外に出た。
あてもなくふらふら歩いていたら急に車が現れた。
吾輩は驚き物陰に隠れた。
『危なかった。外はとても危険だな。あれ?吾輩の家ってどこだ?』
気づいたら吾輩は家を見失っていた。
このまま家に帰れなかったらどうしよう。
ご飯はどうしよう。
そんな不安が押し寄せてきた。
辺りはだんだん暗くなっていく。
不安だけ押し寄せてくる。
すると吾輩の呼ぶ声がする。
この声はご主人ではないか。
『ご主人〜。吾輩はここだぞ。』
吾輩は急いでご主人のところへ行った。
安心したのか途端にお腹が減ってきた。
家に入り用意してもらったご飯を食べた。
『うん。うまい。やっぱり家が一番いい。』
そう思いながらご飯を食べきった。
その後2回ほど外に出たが、極力家の敷地から出ることはなかった。
吾輩の事件はまだまだ続くがその続きはまた次回に綴るとしよう。
最後までお読みいただき誠にありがとうございます。