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夜の彼女

夏の間にマリンスポーツで焼けた肌の皮がめくれ出している。

自分の肌とは対照的な彼女の白い肌にポン、と乗せられたような赤い唇が目に止まる。茶色い髪が頬にかかり滑り台のように首筋へ落ちる。長い睫毛を持った瞳がこちらを捉えた。手に持っている本を閉じる。遅いよ、と少し困ったような微笑を投げかけた。

いつも遊ぶ夜の街に居る女の子とは全く異なる雰囲気で、夜に過ごす姿を想像することさえ出来ない彼女の前では少し緊張する。うまく言葉が出てこない。少しだけ震える手をそっと机の下に隠す。彼女よりも早く来て、彼女が来たら椅子を引いて着ているコートをそっと脱がせてあげたり。格好つけたい思いとは裏腹に珈琲を少しこぼして情けなくなる。

綺麗な姿勢で緩やかにカフェオレを口に含む彼女は優雅だった。その姿に見とれていると、何ー?と言って笑う。釣られて笑う。会話のない時間が過ぎる。何か話さなければ、とようやく口をついた言葉は、

「何を読んでいたの?」


次の日、急ぎ足で図書館へ向かう。本がこんな並んでいる場所へ行くのは小学生の時ぶりかもしれない。しばらく1階でうろついていたが全く見付からず、検索できるパソコンが在る事に気付く。すぐにパソコンの元へ向かい文字を打ち込んでいく。思わず彼女の唇の動きを思い出し、頬が熱くなった。

2階の専門書のコーナーへ向かう。決して触れる事のなかった大型の本が多く並び、目がチカチカする。目的の本があるであろう場所に辿り着いたが何冊も並んでおりどれかが分からない。本を一冊ずつ引き出しタイトルを眺めていく。アレでもない、コレでもない。ついに10冊を超え、11冊目に取った本を開く。その時頭の中で彼女の声が反響した。

「銀河鉄道の夜、だよ」



昼に見かけたお兄さんの人生を勝手に想像してしまった。

最近とても、変わりたいという願望が強い。もっと落ち着いてて品のある女性になりたい。マナーをきちんとしたい。賢くなりたい。お金を稼ぎたい。見える世界を明瞭にしたい。

実際に行動に移してみて、キツイとかツライとか何も考えず淡々と過ごせる日もあれば、何かと比較してとにかく落ち込む日もある。全然子供っぽい、所作も笑い方も声も嫌い。全然ダメだ。その繰り返しでいつか変われるのだろう、と願いながら満たされる日を想像する。今想像できる”満たされるもの”はただの承認欲求や優越感なのであろう、と思う。ただそれらが満たされた時にはきっと満たされていると気付かない。そんな自分も想像できる。

劣等感から承認欲求が生まれ、自分自身を良く見せようと過剰に話を作り伝えてしまう。その場では尊敬の意が生まれるかもしれないけれど、本来の姿を知った時に他者はその浅はかさに気付くだろう。最近は極力、自分の話をし過ぎないように、と努めているがアルコールが入ると結局失敗する。自宅に帰ってから自己否定が始まるのいい加減やめたい。

「その話が事実になるまで見守っているよ」と昔、言われた事がある。

それから5年近く経ったが、今振り返るとなんと温かい人なのだろう。私も器の大きい人間になりたい。

少し支離滅裂な文章になってしまったが、結局のところ勝手に想像したお兄さんの人生に勝手に共感して勝手に私も頑張ろう、となった話。根は相当ポジティブな人間だな、とつくづく感じます。以上。

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