見出し画像

ロリババア考古学を書いてみて

ロリババアに考古学はいらない』という小説を書きました。「当時を生きていたロリババアが考古学者にちょっかいかけてみた」という内容で、文字数は5万字ほど。短編か中編といったくらいの分量です。
(以下、当然のように本作のネタバレが語られます)


本作は『SAVE THE CATの法則』をはじめとする各種シナリオ教本をガッツリ参考に書いてみよう! という実験で書かれたものだったりします。
このへんの本はこれまでいろいろ読みつつも「ふーん」と思うだけであまり意識して参考にはしてきませんでした。

特に「構成」ですね。
というわけで本作は『SAVE THE CAT』に載っているビートシートを下敷きにしてプロットを組んでいます。

初期プロットはこちら

とはいえ、初期プロットと実際に書きあがった代物はかなり異なるものになりました。
というより、プロットや設定の構想がだいぶ甘いですね。11話しかないやんけ。なーにが「→終盤の展開に繋がる重要な伏線」じゃ

つまりは、このくらいのざっくりしたプロットを組んでから「もういいや、書いちゃえ」と書きはじめてから思いついた内容が完成品になります。


・「悩みのとき」

たとえば、序盤の「2話」「3話」はプロットから本編では入れ替わってます。
3話(「わしの力、見せてやるかの」)の冒頭だと雅が本を読んでるだけで、これを2話に持ってくると1話でヴァイスマンと雅が出会ってから会話するシーンがお預けになってしまいます。
さすがにそれはアカンやろという判断ですね。

最初の最初は「なんか違うな……」「これ面白いのか……?」と悩みながら書いてましたが、ここを入れ替えるのを思いついたことで「いけそうだ」という感触を得ることができました。

さて、このビートシートにおける「悩みのとき」とは、たとえばスーパーヒーローの力を手に入れた主人公が「ヒーローなんて僕にできるわけがない!」とウジウジするパートです。
映画で観ててもあまり面白くないなあと思うパートなので前々から「ここ要る?」と思ってました。
どうせヒーローになるんだから早くしろ。
ヒーローになるための前振りやら爽快感やら? いきなりヒーローになるより段階を踏んだ方が感情移入しやすい? うーん……。

本作はそのへんのセオリーに則る実験ではありましたが、やっぱり「悩み」の要素はだいぶ小さくはなりました。
せいぜいヴァイスマンが「魔物コワイ~」って言ってるくらいでしょうか。
2話で延々と仮説を並べて「わかんないなあ」と唸ってるシーンも広義では「悩みのとき」かもしれません。


・第一ターニングポイント

あまり意識してなくてもちゃんと含まれていたりすることも多いパートですね。
本作ではわかりやすく、雅がその力を見せつけるシーンです。

ただ、力を見せつけるためにどういう状況を用意するかには悩みました。
わかりやすいには「不良に襲われる」とかですが、本作ではそういう展開は起こりようがありません。
そんなわけで、「力を見せつけるための場」に移動するのも含めて雅の力としました。

とはいえ、それだけのために移動するというのもあまり美しくないなあと思えたので「竜の角」と牛の角を比較するようなシーンを加えました。

また、〈転移〉魔術云々は鉄道の話やトンネルの話などとも繋がってよい感じに嵌ったと思います。


・サブプロット

ちゃんと意識してなければ入れてたかどうかはわからないパートですね。
「本筋とはあまり関係にない息抜きパート」といったところでしょうか。

本作では4話の鉄道関連のシーンです。
いったん考古学とかそういうテーマと関わる話はおいて、雅の可愛いムーブを描写しています。

ロリババアにありがちな「てれび……? この箱に人が入っておるのか?」(最近のテレビは箱じゃないでしょおじいちゃん)というやつです。
ただ、設定としてはたとえば「本」も、雅のいた当時に「活字」はないのでビックリするはずです。が、この4話でわたわたするシーンを強調するために誤魔化してます。

「は? 写本……じゃよな? なんじゃこの正確すぎる転記……こわ!」とか言ってたかもしれませんが人を遥かに凌ぐ高度な知性を有するのでなにごともなく順応できているように見えています。


・「悪役」の解釈

だいぶ手こずったのは「迫りくる悪いやつら」に代表される「悪役」の解釈です。
これは「障害」「敵」とも言い換えられます。
ただ、『SAVE THE CAT』をはじめ、だいたいは「悪」を想定して例が出ていたりするので「どうしたものかなあ」となりました。


本作における「敵」はケスラー大佐です。
彼の造形にはだいぶ悩みました。
当初は、それこそ初期プロットにあるよう「遺跡にすごい古代兵器があったって? 学者には渡せねえなあ! 乗っ取って手柄にしてやるぜ、へへ」みたいなクソ小物悪役みたいに考えてました。それこそインディジョーンズにいそうな。

ただ、クソ小物悪役だとわかりやすいけど面白くはないというか、雅が殴って終わりというか、「敵」としては弱いなあ、倒してハッピーエンドが既定路線で予定調和として見えすぎてるなあというのが悩みとしてありました。
やっぱり……敵が弱いと面白くありませんからね!

そんなこんなで、彼のキャラクターを「悪」というよりは「正しいがゆえに隙がない」という方向での強敵としました。

また、軍が遺跡を見つけてヴァイスマンに調査を依頼する流れも、たとえば現実世界でしたらそういった法律が整備されていますが、もしそういう法律があればヴァイスマンは法を盾に戦えることになって勝ちが見えてしまうなあ、という悩みもありました。
そこで、ケスラーが良識派だったので考古学に詳しい部下(アンドレ)の懇願を聞き入れて調査をしてもらった、という流れにすることで彼の「正しさ」という芯を補強しました。

このあたりはパズルのピースが嵌っていくような快感ですね。


・「すべてを失って」「心の暗闇」

このへんも気持ちが沈むので映画によってはめちゃくちゃつまらなかったりする部分です。
とある映画では、このビートシートに従うように主人公が盛大に失敗して落ち込み、最後には再起して逆転……というプロットだったのですが、その失敗があまりに重すぎたために最後に成功しても気持ちとして取り返せない感想になったことがあります。

それでも本作はそれに従ってみる実験ですので、ちゃんとそれっぽく形にしてみました。
「ミッド・ポイント」「竜の発見」という最高の出来事が起こった直後で、逆にそれが原因で調査が中止になってしまう。
ここまではよいとして、ウジウジする展開をどうしたものか……。

「やるか・やらないか」と、読者からすれば答えが見えてるような問いで悩むからアホらしいものです。やるに決まってるんですから

そんなわけで、読者も本気で悩むくらい答えの出づらい問いかけをする必要があるでしょう。そこで主人公が答えを見いだせれば気持ちがよいはずです。
あるいは、別にウジウジさせないか。

結局のところ、重要なのは読者の感情です。
このあたりはいったんテンションを下げて気持ちを沈ませることが役割になります。

そういうわけで回想シーンを入れることにしました。
回想で新たな情報が得られることで読者にとっても楽しく、なんかしんみりしてるので感情テンションとしては下がるはず……そんな意図です。
また、「遺跡調査は中止だよ」と勧告を受けてどうするのか、という結論までを引っ張る時間稼ぎでもあります。


「第二ターニング・ポイント」は勝負に挑むための手札を揃えるパートですので、やや長くはなりました。
今後の展開に関わるような情報はここで出し尽くしておけって書いてました。


・テーマの設定

どの教本にも「テーマ」の重要性が説かれています。

ですが、これまで作品を書くにあたり「テーマ」というのもほとんど意識していませんでした。
ただ、本作は「そのへんちゃんとやってみるかあ」という実験なのでちゃんとしました。

コンセプトは「当時を知ってるロリババアが考古学に関わったら?」というものですが、テーマとしては「考古学の楽しさ」とか「実際に当時生きてても知り得ないことはあるよね」といったところでしょうか。

あとは「考古学ってなんの価値があるの?」とかいうのもだいぶ考えました。
ノーベル賞受賞者に対して「それってなんの役に立つんですか?」と尋ねるマスコミじみた問いですが、「現実との衝突」もテーマに含まれる以上は考えなければなりません。

たとえば、基礎研究はそのときなんの役に立つかはわからなくても回り回って役立ったりはするものです。
そういう意義はたしかに認められますが……それでケスラーを説得できるのか?
というか、「いつかは役に立つ」みたいなものを学者自身は本当に信じているのか?

そんなわけで、結局のところ「楽しいから」「知りたいから」ではないか、というあたりに落ち着きました。
(当初はこれを10話のケスラーとのレスバでぶつけてましたが、場違いであることを査読した友人に指摘され11話に移動させています)

また、ふだん意識していなくてもなにかお話を書くにあたり自分の中でテーマとしているものがやはりあるのではないか、と考え直しもしました。
そうして浮かび上がったのは、「現実ってシビアだよね」「そのなかで意を通すには?」みたいなのがありそうだと思いました。
リアル系スポーツ漫画であるような、「主人公もめちゃくちゃ頑張っているが、相手チームだって同じくらい頑張ってるのだから勝敗が読めない」みたいなシビアさです。

このあたりから逆算してケスラー大佐を「現実」の代表キャラとして構築した、というのもあります。


・脇役キャラ

脇役もどのくらい増やしたものかなあ、とも悩んでいました。
最悪、ヴァイスマンと雅とケスラーだけで足りるのではないか、と。

ただ、テーマとして「遺跡を保全する意味は?」というのもあり、それは「一般にも考古学を広めるため」というような理念がありますので、それを体現するキャラクターとしてアンドレを出しました。
つまりテーマから逆算して配置されたキャラです。
あとは「遺跡に竜がいた」ことを円滑にケスラーに伝えるためのキャラでもあります。
ヴァイスマンの口から伝えてもいいですが、遺跡調査が中止になることがわかっていて報告するのも……いやかといって黙っているのもさすがに……といろいろめんどくさい部分を省くためです。

脇役の役割には主人公のキャラを深掘りすることがあります。
主人公自身が「私はこんな人です」というより、脇役が「主人公はこんなやつだよ」と紹介する方がそれっぽさが出ます。
そういう感じの脇役が欲しいなあと思いヴァイスマンのライバルとしての「嫌味な考古学者」「盗掘者」などの案もなくはなかったですが……出ませんでしたね!
キャラクターがいっぱい出てきてそれぞれの思惑が複雑に錯綜して……みたいな話でもなかったので。


あとはアンドレくんのメタ的な疑い晴らしが難しいですわよ!
彼は裏表のない正真正銘の善人なのですが、こういうキャラって怪しいじゃないですか。
そういうふうに読者に怪しまれてしまったキャラの疑いを晴らすには……どうすればいいんでしょうね。
いやでも、雅が特に怪しんでたりしないじゃないですか。雅が特に怪しんでないからってなにか保証になる??(ならない)

ケスラー大佐とかなら立場がハッキリしてるのでそういう怪しみは特にないと思うんですが。
つまりそういう背景がなさそうなのが疑われる要因になるんでしょうなあ。


・「主人公」って誰?

初期プロットでは「主人公」をヴァイスマンとしてますが……。
「雅の方じゃね?」と本編を読めば思うかと思います。

想定していたのは「主人公と視点人物が別」みたいなパターンです。
「ドラえもん」と「のび太」のような……「ネウロ」と「弥子」のような……。
「ヴァイスマン」と「雅」はどっちがどっちなの!?

「登場時と最後を比べて一番内面変化(成長)が大きかったやつが主人公」の理屈でいうとやはり雅でしょう。
もともとはヴァイスマンの「捏造疑惑を向けられたトラウマ」が結構重い想定でしたが、テーマとしてそんな重要でもないな……と扱いは小さくなりました。

そんなわけで、主人公は雅であるとはいえるでしょう。


・リアル考古学ではやらんのか?

元々の発想は「当時を知るロリババアが考古学に関わったら?」みたいな話なので、現実世界を舞台にすることも可能でした(ロリババアだけファンタジー)。

ただ……ふつうに難易度が高い!
ロリババアは「答え」を知ってるという設定にはなりますが、そんなんおれにもわかんねえよ……!

もちろん、その「答え」はでっち上げることにはなりますが、現実の考古学の研究成果と矛盾しないのが条件になります。
できるかい! 構想から取材、執筆まで二週間で書いてるんじゃ! 専門家の知り合いでもいればまだワンチャンあったけど!
本作は博物館を二つほど訪れて本を数冊読んでドキュメンタリー番組を数本観た程度の知識で書かれています。

あとはまあ、単に自身の趣味嗜好としてファンタジーな世界でクソ強いロリババアがやりたかったみたいなのもあります。
あとはケスラーが実は結構強かったりとかですね。
現実舞台でもできなくはなさそうですが。


・教本に従ってみよう、とは言ったものの……

今回はテーマが「考古学」であったこともあり、「わかりやすい悪役」がいないことから教本に載ってる例でそのまま話をつくるのは困難な点がありました。
また、「答えが見えてるのに主人公がウジウジするシーンってつまらんよね」とは前々から思っていたのでどうしたものかとは思ってました。

そんなわけで必ずしも完全に教本通りに書いてるわけではない部分もありますが、従うのが目的化しても違うよね!
レシピを適当に自己解釈して要らんアレンジをやらかすのは料理下手にありがちなやつではありますが……。

とはいえ、試みとしてはかなり有意義だったと思います。
構成とかテーマとかって……大事だね!


・参考にした教本

SAVE THE CATの法則』(ブレイク・スナイダー)
>え? また脚本術の本?

「感情」から書く脚本術』(カール・イグレシアス)
>「絶対売れる脚本の書き方のハウ・ツウ本なんか、今さら必要?」

工学的ストーリー創作入門』(ラリー・ブルックス)
>「本の書き方」の本なんて山ほどあるから、もう要らない――

イントロダクションの書き出しがぜんぶ同じやないかい!!

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?