insomnia

雑記。 小説。 たまに美術史に関することをちょこっと。19世紀末象徴派など特に。

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最近の記事

海 (短編)

 少年は海を見ていた。  上空をゆっくりと漂う無数の鉛色の雲。  静かに打ち寄せては引く、淡く透き通った波。  彼方の水平線に目をやると、空の鉛色と淡い海とが滲むようにぼやけていた。もはやそこに空と海との境は消えていた。  今、彼を取り巻くものすべてが、精緻な調和をもって、彼に静謐な倦怠感を運んでいた。  もうはるか太古の昔からここに居座り続けている気がする。そのくらい、この場所は彼に名状しがたい居心地の良さを与えていた。もはや彼にとってここは天上的とさえ言ってよか

    海 (短編)