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はなのように 4
ひとりが好きな人
いらっしゃいませ、と、受付嬢が立ち上がる。
「お願いしてありましたものを受け取りに参りました、宇美野と申します。」
承りました、少々お待ちください、と受付嬢が下がると、彼がポカンとしていることに気付いた。
未だに名前がわからないので、とりあえず、どうしました?と聞いてみる。
「選びに来たのでは?」
「選びましたよ、そして全て頼んだので受け取りに来た、それだけです。」
「今、結構種類も豊富だし、以前から決めていたの?」
「一番、簡単なものを」
ちょうど受付嬢が袋を手に戻ってきたので、入店から10分程で全て済んだ。
彼はいったいなんのために付いてきたのだろう?
その疑問が聞こえたように彼が言った。
「俺、特に必要なかったね、ごめんね、付いてきて」
などと殊勝にも言うものだから、こちらが焦ってしまった。
そうですね、などと相槌を打つ場面ではない。
「いえ、良かったら隣で冷たいものでも飲みましょうか?」などと柄にもない台詞が出てくるほどには動揺した。
本当になんのために来たのか、聞いてみようではないか。
2
隣が簡単な飲食店で助かった。いつものものを頼んで、いつものようにカウンター席へ向かった。
いつもと違うのは少し、気後れしたような彼が…居ること。名前…今さら聞くようなさりげない…。
一口飲むと切り出した。
「すみません、自分の都合で決めてしまって、あと、失礼ながらお名前をハッキリお聞きしていませんので教えていただけますか。」
直球で。
「あ、俺は宇野です、学籍番号近いんですよ。でも取ってる授業が宇美野さんのが多いし、席も自由だし、見覚えがあっただけ良かったよ。」
なんだろうか…申し訳ないと初めて思ったかもしれない。馨さんと奥田さんはこれを言っていたのかもしれない。
「すみませんでした、私、学校に夢中でそれ以外疎かで…」
口にしてみると本当にその通りでなんだか恥ずかしくなってきた。
「宇野さん…は、どうして学籍番号が近いだけで、今日私に付いてきてくれたのですか?」
「今頃携帯を買いに行くなんて、よっぽど必要なかったんじゃないの?だから、選ぶのも大変かな、とかね。お節介だね。
と苦笑いをする。
そうなんだ、そういう気遣いが出来るひと。
「でも、その、私、う、宇野さんになにか親切にしたかしら、それで気にかけてくれたのなら、ありがたいけれど、私、名前すら覚えてないなんて失礼すぎましたね、ごめんなさい。」
名前を呼ぶのも照れくさい、何故、あぁ、私、誰のことも呼んだことがないんだ、と気付く。その瞬間、血の気が引く思いがした。
気付いてはいけない。
私が、それが普通だなんて、気付かせては駄目、離れなければ、いつものような、いつものように。
「少しでも話ができて、良かった、ありがとう!」
逃げるように先に帰ってしまった。
3
宇野さんは、引き留めるように手を伸ばしてくれたけれど、私が、身を翻す方が先だった。
学校からも家からも近い場所だったけれど、学校に戻ってしまった。
迂闊にも携帯を受け取った袋をあの飲食店で宇野さんと共に置き去りにしたようで、なんとも無惨な自分だった。
人と交流すること。
必要だったからしていたけれど、そうしているうちに、どうして必要なのかが判らなくなり、一人で居ることが普通に苦労もなくて、きっとこれも普通なんだと思うように成り出していた。
あの携帯入りの袋を、宇野さんがさらに置き去りにすることはなく、おそらく、渡しに来るか、あの去り様から察し、店内に預けるか…。
「取りに戻るのが筋でしょう…どちらにしても。あれは不味いわ。」
「そう、あれは不味いわ。…っ奥田さん?!」
素で驚いた。
「戻りなさいよ、るる。まだ彼、沈没してるんじゃないの?」
なんで…なんで、「見てた!?」
「見てたっていうか、居合わせちゃった。るるの動揺さったら無いわ~。でも蒼白になって飛び出すほどかい?」
「あれは、あれ以上は近付くべきではないので…」
「でも、置いてきてどうする、あれだけでも取りに行かんと。」
「ありますかね。」
「行ってみないと、ね。」
と促され奥田さんと戻ることにした。
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